| Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」 第9章+聖剣イデア 第103話 Resolver -1- 「……手短に用件を話してもらおうか。話の内容次第では、黙っているわけにはいかない」 無残にも殺された若き騎士の首を膝をついてそっと地面に置いたジハードは、 いつになく厳しい口調で言いながらゆっくりと立ち上がった。 「ほほう……この首を見ても冷静さを失わないとは、さすがといったところか」 シャランと涼しい鈴の音が鳴り響くと同時に、ヴェールの向こうの人影が動く。 「よかろう。単刀直入に言えば、我が野望を達成させるためにはお前達の命が必要なのだ。 聖剣の封印を解く鍵、野望を達成させるために必要な命、そして偉大なるあのお方が欲している屍体」 「野望を達成させるために必要な命……? それがジハードのことを指しているのは分かるが、 他の二つは一体何なのだ? 鍵? 屍体? 突然そんな事を言われてもワシには分からぬよ……」 小刻みに震えているティエルをしっかりと支えながら、サキョウが意を決したようにして口を開いた。 しかし、その声は言い表せぬ恐怖の色が隠しきれていない。 彼とて恐ろしいのだが、ティエルがこんな状況では自分がしっかりしなくてはいけないのだ。 「……お前達は知らなくてもよいのだ。知っても意味のないこと。ここで死んでしまう運命なのだからな」 男性と、若い娘の声が重なった冷徹な声が辺りに響き渡る。 「お喋りも飽きた。……死ね」 それはまるで、罪人達に容赦のない死刑の執行の合図を送るような声でもあり。 同時に周囲に控えていた近衛兵達が武器を携える音が聞こえた。 その音にティエルはビクッと身を震わせる。 殺されたあの若き騎士のように、自分達も同じくここで首を落とされるのだろうか。 「ククク……安心しろティエルよ。用済みになったお前の亡骸は、オレが持ち帰って大切にしてやろう」 口元にニヤリと笑みを浮かべたヴェリオルが、デスブリンガーを構えながらゆっくりと近づいてくる。 「これでオレ達は誰にも邪魔されずに、共にいることができるのだ。永遠にな。どうだ、嬉しいだろう?」 そう口にしながら、ヴェリオルは震えるティエルの顔に手を伸ばしていく……が。 「ティエルには触れさせんよ。悪魔に魂を売り渡した男……そして、兄上を殺した男ヴェリオルよ。 人間こそが本当の悪魔だとはよく言ったものだ」 ティエルの前に飛び出したサキョウが、ヴェリオルの腕を掴んだのだ。 しかし気にすることもなくヴェリオルは、口元を歪めてデスブリンガーをサキョウに向かって振り下ろした。 それと同時に、剣を構えた近衛兵達が一斉に向かってくる。 「地上を彷徨う魂達よ……婉然たる業火に焼かれ、永久の安らぎを与えよう。唸れ、灼熱地獄の陣!!」 攻撃レパートリーの少ないジハードの魔法の中でも、かなり上位に位置する攻撃魔法であろう。 向かってくる近衛兵達に容赦なく片手を突き出したジハードは、パチンと指を鳴らす。 その瞬間虹の魔法陣が周囲に浮かび上がり、数名の近衛兵達を業火の地獄に巻き込んだ。 いきなりこんな高等な魔法を彼が使うということは、それだけ切羽詰っている状況といえる。 しかし、まだあまり魔力が回復していない状況だったので、既にジハードの額には汗が浮いていた。 一方、振り下ろされたデスブリンガーを怪力で受け止めると、サキョウは自慢の蹴りを繰り出す。 薄笑いを浮かべながらそれを難なくかわしたヴェリオルは、態勢を立て直すために数歩後ろに下がった。 「ほう? 大きな事をぬかしてくれる。連戦でお疲れのところ悪いが、オレは手段を選ばないんでな」 自分の身長ほどはあるだろう魔剣デスブリンガーを軽々と片手で構え、ヴェリオルは口を開く。 「オレは貴様達を甘くは見ていない。だから、疲労しているところを狙ったのさ」 「甘く見ていないという言葉は光栄だけれど、こちらも命がかかっているんでね」 いつの間にか、背後に気配。 サキョウに気を取られていたヴェリオルの背後には、ジハードが立っていた。 「直接その身に魔法を叩き込んであげる。……爆破陣!!」 ヴェリオルの背に手のひらを当てたジハードは、容赦なく呪文を発動させた。 瞬間ジハードは身を離す。ドォォォン、という音と共にヴェリオルの周囲が派手に爆発した。 「う……ぐあああぁっ!?」 直接身体に叩き込まれた爆破の魔法に、さすがのヴェリオルも目を見開き苦痛に顔を歪めた。 白いマントがぼろぼろに破れ、背中の部分が大きく焼け爛れているようだ。 ヴェリオルが苦悶している間、ジハードは先程から呆然と突っ立っているティエルに駆け寄る。 彼女の竜鱗の剣は傭兵達に奪われてしまっているので、完全に丸腰の状態であった。 「……大丈夫? 怪我はない?」 心配そうに聞かれ、ティエルはコクコクと顔を上下に振ることしかできなかったが。 「女王は戦って勝てる相手じゃない。ぼくがなんとか魔法で隙を作ってみるけど……逃げる元気はある?」 うん、とティエルが涙を浮かべながらジハードに答えようとしたその刹那。 彼の背後に、鬼気迫る表情でデスブリンガーを握りながら駆け寄ってくるヴェリオルの顔が見えた。 「こいつもか!? ……ティエルよ、こいつもお前の大切な人間なのか? フフフハハハ!! 言っただろう、オレはお前の大切なもの全てを奪ってやるとな!!」 「ジハード! 危ない、避けて──っ!!」 「!!」 ティエルの声で振り返ったジハードは、自分に向かってデスブリンガーを突き出すヴェリオルを見た。 だがそのヴェリオルの瞳は、口調とは裏腹にどこか哀しげな色を浮かべていた。 「くっ……!」 振り返った反動で少し横に身体がずれた為か急所をそれ、剣は右肩に深く突き刺さる。 痛みのために思わずリグ・ヴェーダを落としてしまったが、拾っている時間はない。 剣をジハードの肩から引き抜いたヴェリオルは、更なる攻撃のために大きく剣を振り上げる。 (ただの狂ってしまった男だと思っていたけれど、この者の瞳は……どこか哀しい色をしている) 自分に危機が迫っている時でも、ジハードはふとそんなことを考えていた。 このヴェリオルという男がここまで病的にティエルに固執する理由は、一体何なのだろうかと。 ヴェリオルは間違いなくティエルのことを愛している。そして、大切だと思っているのだろう。 しかし彼女のことが大切であるなら、何故こんなにも苦しめるのだろう。 大切な相手ならば、幸せでいてもらいたいはずだ。……ジハードには、それが分からなかった。 自分の肩口から飛び散った赤い血飛沫をぼんやりと見上げながら、そんなことを、考えていた。 「まずは貴様から死ねっ!!」 ヴェリオルの顔が目前に迫る。横目で、必死の形相でサキョウが駆け寄ってくるのが見えた。 しかしサキョウも大勢の近衛兵達を相手にするだけで精一杯のようである。 ティエルの悲痛な声も聞こえたが、間に合うはずもない。 (ヴェリオル、あなたは一体……何を求めているんだい……?) ……その時だった。 「ちょっと待ったァ──!!」 まるでジハードとヴェリオルの間を裂くように、巨大な氷の柱が現れたのは。 「盛り上がっているところ悪いけど、大人数で少人数をリンチにするってーのは、マズイんじゃない?」 くるくるとスタッフを回転させながら、大きな緑の帽子を目深にかぶった人物が歩いてきた。 この騒ぎで、入口の扉が開かれたことに近衛兵達は気づいていなかったようだ。 氷の柱を前にしてこちらを見ている者達に、彼は帽子の端をくいっと持ち上げる。 茶の髪に、若葉色の瞳。どこか老成したような幼い顔に笑みを浮かべた、アリエスであった。 その少し離れたところには、クウォーツが壁を支えにしながら立っているのが見える。 「……ちょっとその勝負、待ってくんないかな」 と言って、アリエスは笑った。 +DeadorAlive+ |