| Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」 第9章+聖剣イデア 第105話 Resolver -3- 「あっはっはは! そんな生ぬるい魔法じゃオレを倒すどころか、ティエルちゃんを守ることもできないぜ!」 ゴッという音と共に、巨大な風の刃が次々に向かってくる。 戦う気を失っているティエルを守りながら、ジハードはアリエスと魔法の応酬を繰り広げていた。 既に近衛兵達は、彼らの戦いの凄まじさに呆然と見つめているだけであった。 「生ぬるい? ……あなたこそ、心地の良い春風みたいな魔法しか唱えられないのかい?」 おや、と意外そうに肩をすくめたジハードは、背後のティエルを気遣いながらリグ・ヴェーダを開く。 「あなたに守りたいものがあるように、ぼくにだって守りたいものがあるんだ。……障壁陣!!」 アリエスの放った風の刃を薄い虹色のヴェールで弾き返すと、休むことなく続けて詠唱を始めた。 「ぼくはあなたにいくつか聞きたい事がある。それが単なる思い過ごしならば良いのだけれどね」 「へえ……オレに聞きたいこと、ねえ?」 バサッと緑色のローブの裾を翻しながら、アリエスは身軽に地面へと着地した。 その衝撃で半分ほどずり落ちてしまった大きな帽子の位置を直すことも忘れずに。 「なんだろう、興味があるなぁ。ジハードくんがそんな怖い顔してまで、オレに聞きたいことってやつが」 「──ぼくとあなたは、本当に初対面なのだろうか?」 完成間近であった極陣の詠唱を止め、ジハードは静かにアリエスに問いかけた。 「……さあ?」 しかし彼はニヤニヤとした本心の見えぬ笑みを浮かべたまま、大げさに両手を広げてみせる。 「前にも言ったとおり、ジハードくんが初対面だと思えば初対面だよ。 だって、オレの顔に見覚えがないんだろう? それだったら初対面なんじゃないかなァー」 「そのおどけた仕草。ヘラヘラとした笑い方。大きな緑の帽子にローブ。 戦いの最中でさえも、そんな風に軽い口調で話す男を……もう一人だけ、ぼくは知っている」 ひらひら、と魔法の余波である風でジハードの額の呪符が静かに揺れていた。 普段の優しげな彼の表情とは大きく違い、まさに憎悪一色の顔つきで彼は続ける。 「最後にもう一度だけ聞く。ぼくと、あなたは……本当に初対面なのだろうか?」 「だからァ、何度も言ってるだろ? 『この姿では』初対面だよ……!!」 既に大きな魔法の詠唱を完了させていたアリエスは、勢いよくスタッフを振り下ろした。 「大気に潜む怒りの粒子大きな力となり、慈悲なき女神の怒りとなれ! ……バーストスプラッシュ!!」 ……が。 その瞬間全くの無防備であるジハードの口元が微かに歪んだ。笑ったのだ。 アリエスの放った爆発の魔法は、そんなジハードとティエルを直撃するはずであった。 しかし魔法が発動したと同時に、アリエスの周囲を虹色のヴェールが包み込んだのだ。 「な……なんだと!? こいつ、いつの間に呪文を完成っ……!!」 そう。気づかぬ間に障壁陣を完了させていたジハードは、それをアリエスの周囲に仕掛けていたらしい。 虹のヴェールに跳ね返った魔法は、そのままアリエスを巻き込んで大爆発を起こした。 「うぎゃあぁぁっ!!」 ドォォン、と一際大きな爆発音が響くと、一瞬だけ辺りが昼間のように明るくなる。 煙がようやく収まると、ブスブスと黒い煙を発しながらアリエスは倒れた。 帽子もローブも焼けてしまっている。 胸が大きく上下していることから、どうやらまだ死んではいないようであった。 「……は……はは……今回はオレの……ま、負けだな……畜生、なんてザマだ……」 身体中火傷を負っており、頬の皮膚を引き攣らせながらアリエスが低く言葉を発した。 そんな彼の言葉を、ジハードはリグ・ヴェーダを抱えながらただ黙って聞いているだけであった。 「……じ、自分で放った魔法に……やられてちゃ……世話、ねぇ、よ……なァ……」 「……」 火傷で腫れ上がってしまったアリエスの顔を暫くジハードは見つめていたが、 やがてゆっくりと背を向けて歩き出す。 「とどめはささないよ、アリエス。……あなたには聞きたい事が山ほどある。今は、まだ生きていてもらわねば」 ヴェリオル、アリエスと双方倒れてしまった今、近衛兵達は思わず足がすくんで動けなくなってしまった。 彼らでも勝てなかった相手に、自分達が勝てるわけがない。確実に、殺される。 「……ほう、随分と面白い余興を見せてくれたな……。まぁ簡単に殺されてしまっては面白くないが」 しんと静まり返ってしまった辺りに突如声が響き渡る。ヴェールの向こうの人物が、立ち上がったのだ。 一歩前に進むごとに、シャラン、シャラン、と涼しい鈴の音が鳴り響く。 女王が席を立ったことなど、かつて一度もなかった。近衛兵達は皆凍りついたようにして動かない。 そして、青いヴェールがスッと取り除かれる。 「あれが……氷の女王──リダ=クイーン……」 ジハードか、サキョウか。どちらかが呟いた。 顔全体を覆う、異常にまで冷たい色の鉄の仮面。透けるように白い肌に、青と黒を基調とした長いドレス。 ドレスのあちこちには鈴のような装飾が施されており、それがシャラシャラと音を出していた。 ヴェールの向こうから姿を現した女王の姿に、皆思わず息を飲み込む。 「だがお遊びはここまでだ。今度はこの私、リダ=クイーンが相手になってやろう……」 まさに氷点下の響きを含んだその声に、その場にいた殆ど全員が寒気を覚えて凍りついてしまう。 怖い、一刻も早くここから逃げ出したい。そんな感情が近衛兵達の間にも渦巻いていた。 「お前達の強さ、絶望へと立ち向かう勇気……その力の源が一体何であるのか、私はとても興味深い。 仲間を守るための強さか? それとも、死への恐怖のための強さか……」 まるで詩を口ずさむかのように、一歩ずつゆっくりと。氷の女王リダ=クイーンは歩いて行く。 ……もしかしたら自分達は、決して出会ってはならない人物を前にしているのではないだろうか。 ティエルは、恐怖と動揺が入り交ざったそんな感覚に襲われた。 もうどうにもならないと諦めている自分とは別に、女王に恐怖して一刻も早く逃げ出したい自分がいる。 死ぬのは怖い。死ぬのは怖い、死ぬのは怖い、死ぬのは怖い死ぬのは怖い死ぬのは怖い……!! 「守るための強さ……だが、それが一体何なのだ? 何になるというのだ……? たとえ守るべき者がいなくなったとしても、別の代わりを持ってくればよかろう。人間はいくらでもいるのだ」 涼しい鈴の音を鳴り響かせながら、女王は真っ直ぐにティエル達へと向かってくる。 「……私はそんな意味のない、守るべき力の持つ意味を……知りたい……」 次第にリダ=クイーンを中心として、凍えるような冷たい風が静かに巻き起こっていく。 風の中できらきらと光る氷の結晶が、目を逸らせぬほど美しく薄青の色を発していた。 「さあ……私に教えてくれ、守るべき強さの意味を!!」 その途端、女王から凄まじい威力の吹雪がゴッと放たれる。 放心状態のままリダ=クイーンを見つめていた数人の近衛兵達が、勢いよく吹き飛ばされて壁に激突する。 辛うじて吹き飛ばされずにすんだティエル達は、吐く息の白さと尋常ではない寒さに思わずぎょっとした。 リダ=クイーンの影響で辺り一面が零下の世界へと変貌していっているのだ。 あまりの寒さに手が段々と痺れていく。ティエルは自分のマントを掴んだまま、がたがたと震え始めた。 隣を見ると、両腕をむき出しにしているサキョウは、既に身体にびっしりと霜が貼り付いている。 「美しい氷の彫像にしてやろう。ククク……永遠にこの城で、物言わぬ像にしてやるのも面白いかもな」 くぐもった声で呪文の詠唱を始めながら、リダ=クイーンが感情のない口調で言った。 +DeadorAlive+ |