Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」
第10章+勇気の条件

第114話 イデアが映した地図





カーテンの隙間から、朝の光が差し込んでくる。
ベッドから素早く身を起こしたティエルは、裸足のまま窓辺にとたとたと駆け寄った。


「うっわーっ、いい天気!」

シャッと勢いよくカーテンをあけ、両開きの窓を開け放ったティエルは大きく息を吸い込んだ。
朝の清々しく、冷たい空気がひんやりと胸を満たしていく。




この町に留まってから、6日が過ぎ去った。明日には発つことになる。
それまでには皆の負ったひどい怪我(特に無理をしまくったサキョウ)も幾分か回復しているだろう。


「いざ、新たなる世界へ! なんちゃってね、今日は町中を飽きるまで見物してこようかな」




「……ティエルったら、朝っぱらから元気ですわねえ。その元気の良さの源が知りたいでーすわ。
とりあえず部屋が冷えますから、窓を閉めていただきたいのですけど……」

随分と寝ぼけた声にティエルが振り返ると、頭から布団をかぶったリアンがこちらに顔を向けていた。


「私、朝の空気吸い込むとクシャミが出るんですのよ……っくしゅん!!」
「ありゃ。ゴメン、ねえねえそれよりさ、早く朝ごはん食べに行こうよー」


窓を閉めて振り返ったティエルは、寝巻きを脱ぎ捨ててピンクのワンピースに着替え始める。
寒いときはゆっくりと着替えるよりも、素早く着替えた方が良いのである。




「あらやだ、ティエルったら寝癖で頭が爆発していますわよ。それで階下に行くつもりですの?」
やれやれと溜息をつきながら苦笑したリアンは、荷物袋の中からブラシを放って投げた。

「ありがと!」
ティエルはそれを片手でキャッチすると、眩しい笑顔を浮かべて口を開いた。















一階の食堂に彼女達が辿りつくと、既に食堂は宿泊客達の声で賑わっていた。
足を踏み入れた途端に香ばしいトーストの焼ける匂いや、食欲をそそるコーヒーの香りが飛び込んでくる。


そんな中ティエルとリアンに向かって、隅っこのテーブルで手を振っているサキョウの姿が目に入った。
どうやら、身支度にあまり時間のかからない男性陣の方が早かったようである。

手を振っているサキョウの隣の席では、クウォーツが無表情で新聞を読んでいた。
その隣では、無理矢理に連れ出されたらしいジハードが、テーブルに突っ伏して熟睡している。




「おっはよ、みんな。久々に全員揃ってテーブル囲めたね! やっぱみんないる方がいいや」

久々に揃う面々の顔を見渡しながら、ティエルがガタガタと席についた。
席に着くとき、クウォーツと目が合った。昨日のこともあったので、ティエルは照れ隠しに変な笑いを浮かべる。


「あら、あなたやっと起きたんですの。このままずっと眠っていてくれた方が、平和でいいんですけどね」
早速リアンが嫌味をクウォーツに向かって放つが、彼は涼しい顔で新聞に目を落としていた。





「……とりあえず、これから我々はどうするのだ」
簡単な朝食を終え、茶を飲みながらサキョウが口を開く。熱かったのか、慌てて水のコップを掴んだ。

「イデアの欠けた五つのスペルを集めるにしても、こう手がかりが何もなくては始まらん。
やはり地道に情報収集をするしか方法はないのか……」



「あのね、えっとね、それなんだけどね、もしかしたらイデアにヒントが隠されているかもしれないの」
テーブルに両手で頬杖をつき、ティエルがおずおずと言いながら面々を見回す。

「なんか暗い所でイデアを見ると、地図みたいなものが浮かび上がるんだ。
点がちかちか光っていてね、もしかしてスペルの居場所なんじゃないかなぁって」




「イデアとスペルは引き合うはずですから……あながち外れてはいなさそうですわね」
リアンは食後の紅茶に角砂糖を一つ入れてかき混ぜながら、ティエルに向かって首を傾げた。

「イデアにとっても、欠けた自分の一部を早くティエルに取り戻して欲しいんですのよ。きっと」



「だが、その浮かび上がっている地図が一体どこの地域のものなのか……お前は分かるのか?」
特に興味がなさそうに新聞に目を落としていたクウォーツだったが、ふと思いついたように顔を上げる。


「ん、現在地も表示されてるし。その光の点に向かって真っ直ぐ進んでいけば大丈夫じゃないかな?」
イデアを部屋に置いてきてしまったので、もどかしそうな表情でティエルが言った。

「残念ながら今は光の点が一つしかないの。だから今はそれを目指すしかないでしょ。
ちなみにこっからずっと南西の位置にあったんだけど……そこに一体何があるのかなぁ?」




「南西の位置? それなら今日私が地図を買ってきますから、それで調べましょ」

未だ眠り続けているジハードにチョップを食らわせると、リアンは嬉しそうに両手を合わせる。
その衝撃で、ジハードはやっと眠そうな目を開いた。



「そういえば昨日町を歩いていましたら、とびっきりステキなアクセサリーのお店を見つけたんですの!
ねえティエル、宜しかったらこれから一緒に行きません?」

「わたしに似合うやつとかあるかなぁ。……そうだ、クウォーツも行かない? そーゆーの好きでしょ」


クウォーツの指には多くの指輪がはめられており、恐らく見えないところにも色々と身に着けているのだろう。
彼がそういう関係のものを好んでいることは、誰の目から見ても明らかだった。




「こらティエルっ、その男まで誘うんじゃないですわ!」

勢いよく手を打ったティエルは、にっこりと笑みを浮かべながらクウォーツへと顔を向けるが。
そんなティエルの頭をリアンは両手でべこんと叩き、その顔をしかめて見せる。


「あ。でも何か私に買ってくれるのなら、仕方なくご一緒しても宜しくてよ?」




「ふざけろよ、ごめんだね」
リアンの方へ顔を向けることもなく、クウォーツは淡々とした口調で呟くようにして言った。

「貴様に買ってやるくらいならば、まだジハードに何か買ってやる方がましだ」


「おや、本当かいクウォーツ? それならぼく、昼寝用のクッションが欲しいなぁ……」
「本気にするな。……物のたとえだ、たとえ」




「それではワシは、怪我を一日でも早く治すために部屋でのんびりとしていよう。
無理に身体を動かすと、ジハードにまた何か言われそうだしなァ」

ハッハッハと手を頭の後ろにやりながら、サキョウは豪快に笑った。



「そうかい、あなたはその方がいいよ。じゃあぼくも、今日は部屋で寝ていようかな」

「あれだけ寝たのにまだ寝る気なの!? ……ダメです。今日は一日わたし達に付き合うのです」
そそくさと部屋に戻ろうとしたジハードの襟首を掴むと、ティエルはビシッと人差し指を立てる。


「新しい本が欲しいって言っていたでしょ? 本屋にも寄るからさぁ」
「ちょっと引っ張らないで、苦しいったら……分かった、分かったよ。一緒に行くから手を離してよ……」




とりあえず予定を立て終わった彼らは、それぞれの行動に移るために席を立ち上がった。



「あなたねぇ、単独行動ばかりじゃなくて少しは私達に付き合ったりなさいよ」
新聞をバサバサと畳みながら前方を歩くクウォーツに向かって、リアンは面白くなさそうに口を尖らす。


「……さっき言っていた店、あなたの好きそうなシルバー系の指輪とかもありましたのよ」




「なんだ……はっきりしない奴だな。先程は私に来るなと言っておいて、今度は付き合えだと?」
足を止めて振り返った彼は肩をすくめ、長い前髪を鬱陶しそうにかき上げる。

「遠慮しておこうか。どうもこのところ調子が悪くてな……今日は一日棺桶で眠っているさ」



「あらら、そうなんでーすの。お大事に。それじゃ夜になったら起こしに行ってあげますわよ」
とたとたと歩いているティエルの後ろ姿を眺めながら、リアンは勢いよく手を打った。

「やっぱり目覚めのお出迎えは、私のようなとびきり美人な女の子が一番でしょ」



「……寝起きに貴様の顔を見るくらいならば、ゴツイ男に起こされる方がましだ」
「な、なんですってェ!?」


「これこれ二人共ケンカをするでない……。リアン、出かけるのなら早く用意をした方がいいのではないか?」

「あらっ、そうでーすわ!」
間に入ったサキョウの言葉にハッとしたリアンは、クウォーツに向かって舌を出すと廊下を駆けて行った。







+DeadorAlive+