| Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」 第10章+勇気の条件 第115話 セレステール 「ティエル! イデアから浮かび上がった地図って……もしかして、これと同じものじゃありません?」 暗く、随分と埃の積もった本屋の中で、脚立の上に座り込んでいたリアンが急に口を開く。 イデアに映し出された光の点の位置を調べるために地図を探しに本屋に来たティエル達だったのだが、 本屋の主人は随分とずさんな性格らしく、地図の売り場には様々な地方の地図が入り混じっていた。 本来なら旅人達が探しやすいように、地域別に分けるのが当然というものである。 この町は旅人達も多く集まる場所だというのに、一体どういうことかとリアンはご立腹であった。 ティエルはそんな彼女をなだめながら、記憶を頼りに地図を探し始めたのである。 ちなみにジハードはお気に入りの本を見つけたらしく、離れた場所で立ち読みならぬ座り読みをしていた。 「なんかねー、光の点の近くには星の形した湖みたいなものがあったの。手がかりはそれかなぁ」 下にいたティエルは、リアンから渡された地図を手に取ってみた。 記憶の中にあるイデアの地図と、ほぼ同じ形の地形をしている。星型の湖もしっかりと載っていた。 確か、イデアが映し出した光の点はそのすぐ隣であったはず。 「んんん……セレステール王国?」 確かに『セレステール』とそこには書いてある。 それが町や遺跡ではなく、王国であるという証の紋章までしっかりと地図には表記されていた。 「セレステール王国……聞いたことがありますわ!」 よっと弾みをつけて脚立から飛び降りたリアンは、ティエルの持つ地図を覗き込む。 「王様が派手好きで、国中が呆れるほど派手派手しいって噂なんでーすのよ。成金趣味といいますか。 ……そんな場所にスペルなんかあるのかしらねぇ?」 「セレステール? セレステール……なんかどこかで聞いたことがあるんだけどなぁ……」 地図を覗き込んだまま、ううーんと低く唸ったティエルは、何とか記憶を掘り起こそうと首を傾げた。 『ティエル様。こちらはセレステール王国の姫君であらせられる、エルフィ様でいらっしゃいます』 ゴドーの声に顔を上げると、目の前には眩しい金色の巻き毛をした、少々つり目の少女。 フリルの沢山ついたピンクのリボンをふわふわとさせながら、彼女はにっこりと笑みを浮かべた。 そのあまりの優雅な笑みに、ティエルは暫くボケッとした顔つきのまま彼女を見つめていた。 自分が今剣の稽古中で、目の前の姫君とは大きく異なって随分とラフな格好をしていることも忘れて。 しかし、次の瞬間ティエルの表情は凍りつくこととなる。 『お初にお目にかかりますわ。わたくし以前この国に来たとき、一度だけあなたをお見かけしているの。 その時からずっと凛々しい方だとお慕い申し上げておりましたわ──ティエル王子』 彼女の、エルフィ姫の、この台詞によって。 「あっ……ぁぁぁぁぁ──っっ!!!」 「な、ななな、一体何でーすの、ティエル! そんな急に大声を出して!?」 急にティエルから発せられた雄叫びに、リアンは半分ひっくり返りながら口を開いた。 ティエルはぶるぶると震える手で地図をリアンに渡し、彼女らしからぬ暗い面持ちで脚立に座り込む。 「……わたし……行きたくないよ……。ここで留守番していたい……」 「なぁーに言っているんでーすの、イデアの持ち主であるあなたが行かなくてどうするんですのよ」 やれやれと両手を腰に当て、事情が全然飲み込めないリアンは訝しげにティエルを眺めた。 「その国に、何か嫌な思い出でもあるんでーすの?」 「……一体どうしたんだい、さっきの絶叫は。モンスターの襲撃かと思ったよ」 買うと決めたらしい本を抱えながら、のろのろとジハードがこちらに向かって歩いて来る。 「もしかして家庭内害虫でも出たのかい?」 「それがね、ぜーんぜん分からないんですのよ。ねえティエル、一体何があったんでーすの?」 「……うぅん……昔にね、そこの国のお姫様がウチに来たことがあったんだ」 自分を見つめるリアンとジハードに顔を向けると、ティエルはぼそぼそと話し始めた。 「前に話したじゃない? 他の国のお姫様に求婚されたことがあったって。それが……その人なんだ」 「あーら! 知り合いなら話は早いですわ、スペルの事もじっくり聞くことができるかもしれませんし。 もしかしたら、気前よく貸し出ししてくれるかもしれませんわよ」 ポンと手を叩き、ティエルとは裏腹に嬉しそうにリアンが笑みを浮かべる。 そして地図を掴むと、リン銅貨をポケットから取り出して足取りも軽やかにレジへ向かう。 「まさに幸運だったようだね。というわけでティエル、よろしく頼むよ」 そう口にしたジハードも本を抱えると、代金を支払うために背を向けて店主の方へと歩き始めた。 「そ、そんなぁ……みんなひどいよ……」 一人取り残されたティエルは、心底がっくりとして溜息をついたのだった。 皆それぞれ精算を済まし、他の店も回ろうと本屋から一歩足を踏み出した時。 首を背後のリアンたちに向けて先頭を歩いていたティエルに、誰かが横から勢いよくぶつかってきたのだ。 前を向いていなかったことからティエルは派手にすっ転んでしまい、また相手側も転倒してしまう。 「いってぇー……ちゃんと前向いて歩けよな!」 「いたた……ごめんなさい、大丈夫? 怪我とかしてない??」 慌てて身を起こしたティエルは、そばで転がっている人物を揺り動かしてみる。 その人物はどうやら、茶色の髪を丸くおかっぱに切りそろえている幼い少年のようであった。 その顔を見るなりリアンの顔色がサッと変わる。 「あーっ、昨日のエロクソガキ!!」 「あっ、昨日の花柄パンツのおねえちゃん!? それに、白髪のおにいちゃん!」 そう。転んでいたのは、昨日町で出会ったケビンという名の少年であったのだ。 「は……花柄パンツ……? リアン、ジハード、この子と知り合いなの?」 「きゃーっ!? ちょっとそんな事大声で言うんじゃないでーすわ、このエロクソガキ!!」 ジハードが止める間もなく、ゴッという音と共にリアンはケビンの頭をげんこつで殴る。 「残念ながら、今日は花柄じゃありませんわよ!」 「うわぁぁぁん、ママにだって殴られたことがないのに! ……そんなに凶暴だと男ができねーぞ!」 「……あら、もう一度殴られないと分からないようですわね。今度はフルパワーでいきますわよ!」 既に涙目になっている少年を前に、リアンは拳を握り締めながら形の良い眉をきりきりとつり上げた。 「まあまあ、リアンも落ち着いて。あなたは確かケビンといったね、今日は一人なのかい? 友達は?」 「あんな奴ら友達じゃないよ! ……あいつら貧乏人だから、お金持ちのボクが羨ましいんだ。きっと」 丸い鼻を小さな手でこすりながら、ケビンは覗き込むジハードから目を逸らす。 「そうママが言っていたもん」 「び、貧乏人って……なかなか激しいことを言うママだねぇ」 経緯がほとんど飲み込めていないティエルは、ケビンを見つめながら栗色の瞳をぱちぱちと数回瞬いた。 「……ボクが羨ましいからって、ボクのことを弱虫呼ばわりするんだ。あいつら」 昨日のように、先程までからかわれていたのだろうか。グッと唇を噛み締めながら、ケビンは俯く。 「町の外れの廃墟に行って帰って来れば、仲間として認めてやるとか言うんだ……」 「町外れの廃墟?」 その台詞に、ジハードは眉をひそめた。昨日果物店の女性から、廃墟について聞いたような気がする。 『いい町だよ、確かにいい町なんだけどね……町のはずれに、盗賊がアジトにしている廃墟があるんだよ。 実際そこに遊び半分で行った若者達が、みんな殺されるか金を巻き上げられるかされているのさ』 「……町外れの廃墟は、盗賊のアジトがあって危険なんじゃないのかい? そんな所に行っては駄目だよ」 「ボクは別に、あいつらの仲間に入れて欲しいわけじゃないから……そんな所には行かないよ」 口を尖らせながら、ケビンはリアン達にくるりと背を向けた。 「それじゃボク、ピアノのレッスンがあるからお家に帰らなくちゃ」 「町の近くに盗賊のアジトがあるなんて、物騒な話だね」 とぼとぼと歩いて行くケビンの後ろ姿を眺めながら、ジハードは一つ大きな溜息をつく。 「みんな盗賊が怖くて追い出せないのかなぁ?」 転んだ時に汚れた服を叩き、ティエルがリアンを振り返って見る。 「まぁ、別に私達には関係ありませんし。どうでもいいことでーすわ」 長い髪を後ろに跳ね除けると、リアンが別段興味のなさそうに口を開いた。 +DeadorAlive+ |