| Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」 第10章+勇気の条件 第117話 サンドラ盗賊団戦-1- 「冒険者達が多い宿屋が一番厄介だ。奴らは戦い慣れているからな。野郎共、まずは宿屋を狙え!」 ヒゲ面の厳つい男が声を大にして言うと、そばにいた数十名の盗賊が散らばっていった。 この町の構造を知り尽くしている盗賊達は通路の先に回りこみ、逃げ惑う人々を片っ端から追い詰める。 馬に乗った数人の盗賊達は、狂った様な笑い声を上げながら剣を振り回していた。 「……宿屋っ!? いけない、サキョウ達が! 早く宿屋に向かわないと……!」 燃え上がる炎と人々の悲鳴に、メドフォード城での出来事を思い出したのだろうか。 ティエルの表情に重く暗い影が差す。 ひとまず細い路地に逃げ込んだティエル達は、この混乱の中どうやって宿まで辿りつくか思案していた。 「ねえ、この封魔石の……イデアの力で何とかできないのかな。盗賊達、やっつけられないかな」 背に携えている美しい銀色の剣を振り返りながら、ティエルはボソリと口に出す。 「……あのね、ティエル。気持ちは分かりますけど……あなたはまだイデアを使いこなせていないでしょ?」 近くでガラスの割れる音が聞こえた。思わずビクッと身を震わせたリアンは、ティエルを振り返った。 「盗賊達をやっつけるどころか、反対にあなたの方が殺されますわよ。命は大切にしなくちゃ。 封魔石っていうのは簡単に扱えるような代物ではないんですの」 「盗賊達が一つの場所に集まっていてくれれば、ぼくの極陣で一発なんだけど」 耳をつんざくような悲鳴と物が壊れる音に、ジハードは眉をひそめながらリグ・ヴェーダを抱える。 「こうも皆バラバラに動いてくれると、極陣の仕掛けようがないよ。結構厄介な相手だね」 そんな二人の言葉にしょんぼりと項垂れてしまったティエルに、リアンは大きな溜息をついた。 「……仕方ないですわよ、無理なんですから。厄介な事に巻き込まれないうちに早く逃げましょう」 「ぎゃはははは! 逃げろ、早く逃げないとザックリとやられちまうぜぇ!?」 「オレ達は優しいからよ、死人は出さないでおいてやるぜ。金と食い物は全て奪うけどな!」 とうとう路地裏にも盗賊達数名が、逃げ惑う町人達と共になだれこんで来る。 その人波にティエルとジハード、そしてリアンは反対方向へと流されてしまう。 「ティ、ティエルっ、ジハード!」 盗賊達の方向へと突き飛ばされていった二人に、リアンは思わず手を伸ばすが届かない。 「そっちの方向なら宿に向かえるはず、リアンは早く宿に戻って二人に知らせてきて! 町の中心に大きな時計があったじゃない? そこで待ってるから!!」 どんどんと反対方向に流されていってしまうリアンに向かって、ティエルは飛び跳ねながら叫んだ。 「絶対に待ってるからっ!」 「ち、中心って……わざわざ危険な町の中心を待ち合わせ場所にしなくてもいいじゃないですの……」 しかし、それ以外に待ち合わせに適した目立つ建物がない事も確かである。 既に二人の姿が見えなくなってしまったので、リアンは唇を噛み締めると大通りへと出た。 「お前らっ、よくもオレ達の町を!」 「出て行け、お前達の好きにはさせん!!」 「ほーう? そんな台所の包丁なんか持ち出して、オレ達に勝てるとでも思っているのかよ」 そこでは数人の町人達と盗賊達が乱闘をしていたが、やはり戦い慣れた盗賊達に敵うはずもなく。 あっという間に一人二人と殴り飛ばされていく。 その横を全速力で駆け抜け、リアンは杖を握りしめながら宿へと走って行った。 既に宿屋には数人の盗賊達が乗り込んでおり、宿泊していた冒険者達が応戦している。 冒険者達の中には歴戦の戦士もいるらしく、あっけなく斬られて倒れている盗賊もいた。 大きく開け広げられている扉の中に飛び込み、リアンは二階へと駆け上がる。 既にそこも荒らされており、戦い慣れた者が多い冒険者達が泊まる宿を重点的に攻めたのか、 あちこちの部屋から剣を打ち合う音が聞こえていた。 (クウォーツ……サキョウ、無事でいて!) ギュッと唇を噛み締めたリアンは、廊下で盗賊の一人と向かい合っているサキョウを発見する。 盗賊の剣をサキョウは素手で受け止めているのだ。 「サキョウ!」 「おお、リアンか! 一体これは何の騒ぎなんだ!? 隣のクウォーツの方にも数人向かって行った。 ……あいつは今体調が悪いんだ、ワシはいいから早く隣の部屋へ!!」 リアンに気づいたサキョウは剣を両手で押し戻しながら、瞳でクウォーツの部屋の扉を示す。 「分かりましたわ!」 そう言って彼女は頷き、地面を蹴るように駆け出して部屋の扉を開け放った。 中には黒塗りされた棺を囲む二人の盗賊の姿。 「なんだァ? この棺は。中に死体でも入っているのかよ」 「もしかしたら貴金属を身につけているかもしれねぇぜ。オレ達は死体にも容赦ないんだってな」 ニヤニヤと笑みを浮かべた盗賊は、武器を手にしたまま棺のふたに手をかける。 (あの体勢から攻撃されたら、いくらクウォーツだって避けようがないですわ!) 「だ……だめ──っ!!」 杖を振り上げながらリアンが突っ込んでいくが、もう片割れの盗賊に腕を掴まれてしまった。 「おいおい、こりゃまたとびきりいい女が飛び込んできたな! 姉ちゃん、オレ達と遊んで欲しいのか!?」 一方。 棺のふたを開けて中を覗き込んだ盗賊は、中で眠るクウォーツの美貌に暫く目を奪われる。 「……おい相棒、ちょっと見てみろよ。すげえ兄ちゃんが入ってやがんぞ……うわぁっ!?」 思わず盗賊がクウォーツの顔に手を触れたその瞬間。 突然目を見開いた彼から勢いよく両手が伸ばされ、盗賊は棺の中へ引きずり込まれてしまった。 同性でさえも心奪われそうな妖しげな笑みを浮かべたクウォーツは、そのまま盗賊の首筋に喰らいつく。 「う、うわあっ、ぐ! や、やめろ、たす……たっ……助け……あぎゃぁぁぁぁ!!」 「一体何が起こってやがるんだ……?」 尋常ではない叫び声に、リアンと取っ組み合っていた盗賊は訝しげに棺を見やった。 ここからでは悲鳴と、棺に引きずり込まれてジタバタ暴れる盗賊の足しか見えない。 「私に馴れ馴れしく触らないで下さるっ!?」 腕を掴んだ手が緩んだ隙に、リアンは持っていた杖の水晶の部分で思い切り盗賊の頭を殴り飛ばした。 白目をむいて倒れる盗賊。それと同時に、棺の中で暴れていた男の足も動かなくなる。 「……ねえ、調子が悪かったのはもしかして……血を吸っていなかったからなんでーすの?」 口元の血を拭いながら身を起こしたクウォーツに向かって、リアンは恐る恐る口を開いた。 彼が立ち上がった拍子に、血を吸われ尽くして絶命した盗賊の死体がゴロンと床に転がる。 「人間ごっこをしていても、太陽の下に出ることができても、私は吸血鬼だ。それは絶対に変わらない」 ここ数日彼の調子があまり良くなかったのは、そろそろ血を我慢するのも限界だった為なのだろう。 先程の吸血によって青アザから切り傷まで、ゾルディスで負った傷全てが跡形もなく完治しているようだ。 「──それでも、私と共にいたいと思うか? いつかは貴様達を欲望のままに殺してしまうかもしれない私と」 「残念。私、簡単に殺されるほどヤワじゃないですから。その時は平手で頬叩いて正気にしてあげますわ」 クウォーツの言葉に、リアンはふふんと笑みを浮かべながら言った。 それはいつか来るであろう『その時』が来ても、それでも、彼と共にいるという意味なのだろうか。 「……」 一瞬だけ戸惑った表情を浮かべたクウォーツだったが、すぐに普段の無表情に戻る。 「……で? 一体何の騒ぎなのだ、これは」 やれやれと肩をすくめながらクウォーツは口を開き、机の上の妖刀幻夢を腰のベルトに吊り下げる。 そっとカーテンをめくって外の様子を見ると、下ではまだ宿泊客達と盗賊の戦いが続いていた。 「私だって分かりませんわよ、いきなり奴らが襲ってきたんですもの」 「おおクウォーツ、リアン、無事だったか!」 そうリアンが唇を尖らせたとき、サキョウが走りながら部屋に入ってくる。特に怪我はしていなさそうだ。 「宿の中にいた盗賊共は、皆と力を合わせて退治したぞ。冒険者達をあまり甘く見るなということだ。 それよりティエル達は無事なのか? 早めに合流した方が良かろう」 「時計台で待ってるって言っていましたわ。急ぎましょ!」 「承知!」 頷き合い、駆け出すリアンとサキョウの後ろ姿を眺めながら、クウォーツは気怠そうに肩をすくめる。 「せわしない奴らだな……」 +DeadorAlive+ |