Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」
第10章+勇気の条件

第118話 サンドラ盗賊団戦-2-





「親分、宿屋に向かわせた奴らが全滅しちまいました!
よりにもよって、凄腕の冒険者共ばかりが宿泊していやがったみたいで……」

「なんだとォ……それでテメェ逃げ帰ってきやがったのか!?」




大きな時計台が印象的な広場の中心でタバコをふかしていた男の元へ、盗賊が駆け寄っていく。
計算どおりに全てがうまくいくと思っていたが、どうやら予想外の事が起きているらしい。



「申し訳ねぇ親分……けど、どうやら青い髪の悪魔らしき男もいたって話ですぜ!」

「バッカ野郎! こんな町中に悪魔がいるわけねぇだろうが……とにかく、言い訳は後だ。
町を奪うのは中止して、早いところ金目の物を奪ってとんずらするぞ!」


苛立ったようにバシンと座っていた樽を叩くと、下っ端は弾かれたように飛び出して行った。



「チッ……調子に乗るなよ冒険者共めが。畜生、オレとしたことが一番厄介な存在を忘れていたぜ……」
そう呟いて咥えていたタバコを地面に吐き捨てた男の耳に、随分とのほほんとした声が聞こえてくる。




「ねえねえジハード、ここが時計広場でいいんだよね。リアン達もう到着しているかなぁ?」

「いくらなんでもまだでしょ。先に向かったぼくらでさえも、こんなに時間がかかったのだから。
それにしても……意外に町の中心部は騒がしくないね」


振り返ると、冒険者風の格好をした者が二人キョロキョロと辺りを見回していた。



一人は間の抜けた表情をした栗色の髪の少女。もう一人は、異国風の独特の顔立ちをした白髪の少年。
無論ティエルとジハードである。

二人は話すことに夢中になっており、盗賊の親玉には気づかず彼の前をごく自然に通り過ぎようとしていた。




「……おい、ちょっと待てよ」

幾人もの血を吸った巨大なオノを握りしめ、親玉はドスの利いたような声を二人に向かって発する。
その声でようやく二人は振り返り、あっと驚いたような顔になった。


「てめぇら冒険者だろ? オレは今、計画を冒険者共に邪魔されてムシャクシャしてるんだ。
……悪ィが、ちょっと斬らしてくんねえかなァ?」




「えっ? ……ええーっ!?」

状況を段々と飲み込んできたティエルは、目の前に立ちはだかる大男に気圧されて後ずさりをする。
町人達を馬で追い掛け回していた盗賊達も、口元に笑みを浮かべながらこちらを眺めていた。



「ちょっと、なんでいきなりそんな事になるの!?」

「……一言で言うなら、単なる八つ当たりだよ。リグ・ヴェーダを持ってきていて良かったなぁ」
虹の魔本リグ・ヴェーダを抱えながら、ジハードはかなり面倒くさそうにボソボソと口を開く。

「盗賊と思わしきあなたも、力で解決しようとするのは良くないよ。ここはやっぱり話し合って平和的に……」




「うだうだうるさいんだよ、おとなしく斬られればそれで満足なんだ。オレ様が!!」
ジハードの言葉が言い終わらぬうちに、親玉は手に持った巨大な斧を二人に向かって振り下ろした。

ガァァァンと凄まじい音を立てて煉瓦の地面に突き刺さるオノ。
そばで見守っていた町人達はその瞬間皆目をつぶっていたが、やがて恐る恐る開いてみる。




「あ、危ないじゃないか! ひどいよ、怪我したらどうするんだい。ぼくは何もしていないんだよ!?」

尻餅をついた自分の両足の間に突き刺さるオノを眺め、ジハードは憤慨したように抗議する。
反射的に後ろへ飛び退いたティエルは、青い顔をしながらオノと親玉を交互に見やっていた。


「……ジハード、大丈夫!?」
キッと毅然たる眼差しで親玉を睨みつけたティエルは、背からイデアを引き抜く。

「一体わたし達が何したっていうの!? これ以上邪魔をするなら……叩き切るわよ!」




月の光に反射して、鋭い銀色に光り輝くイデアを見た親玉は、その美しさに思わずホウと溜息を漏らす。
そして、その表情が段々と欲に支配されたものへと変化していった。


「オイオイ、こりゃ驚いた……封魔石持ちのガキかよ……。
そりゃ子供のオモチャじゃねぇんだぜ? まさか、こんな地で超ド級のお宝と出会うなんてなぁ……」

封魔石の美しさに魅せられた親玉は、口の脇から唾液を垂れ流しながらティエル達へと歩み寄っていく。


「やっとオレ様にも運が巡ってきたぜ!」




「ところでティエル。……イデアの扱いは慣れたのかい?」
眠そうな表情のままジハードは、封魔石イデアを構えるティエルを振り返った。


「ううん、まだ分かんない。でもなんとかなるでしょ。なんとかしてみせる!」
しかしティエルは、あっけらかんと空恐ろしいことを口に出す。

「え!? な、なんとかって一体何をする気なんだい、あまり危険なことはしないでおくれよ……」




それには答えず、ティエルは大剣を握りしめながら親玉へと向かって行った。

カキィィン、と金属の打ち合う音。
しかし大男の持つ巨大な斧相手に、いくら封魔石といえども力勝負では勝ち目がない。



「だから言ったのに……」

段々と押されていくティエルを眺めていたジハードは、助太刀をするために呪文詠唱を始めようとするが、
彼の得意とする極陣の範囲では、大男はおろかティエルまでも巻き込んでしまう。


「ティエル! もう少し彼から離れてくれないと、魔法で援護すらできないのだけれど」



「そんなの離れろって言う方が無理だよー! ……きゃああぁっ!?」

ゴインと鈍い音が響いたかと思うと、ティエルはオノによって弾き飛ばされてしまったのだ。
しかし、しっかりとイデアは握りしめている。




「この盗賊団ボス、オノ使いのザンギに歯向かった奴はたとえガキといえども生かしちゃおかねえ。
それがオレ様の決めたルールだ。世界はオレがルールで全てだ、分かったか!」

地面に強く打ちつけた所為で暫く動けない彼女に向かって、親玉はゆっくりと歩み寄って行く。
周囲で見守っていた町人達は、皆心配そうな表情で顔を見合わせる。




「なあ……おい、あんな少女が盗賊団ボスに立ち向かって行っているんだ。
オレ達もただ黙ったまま町が荒らされるのを見ているわけにはいかないんじゃないか?」

「盗賊共に好き勝手されて、黙っているほどお人好しじゃないんだ」
「そうだ、オレ達の町じゃないか!」



「わ、わァ!? 何だてめーら、急に元気になりやがって!」

ティエルの姿に勇気づけられた町人達は、皆ジリジリと一斉に盗賊達を囲み始めた。
武器らしい武器を持っていなくとも、数では圧倒的に盗賊よりも町人達が多いのだ。


「それっ、オレ達の町を荒らしてくれた礼をしてやるんだ!」
「おおーっ!!」


「ヘッ、面白ェ……戦闘のプロの腕を、愚か者共に嫌というほど思い知らせてやる!」

反撃に出た町人達に盗賊らは皆ギョッとするが、武器を握り直すと威嚇するように振り回す。
ちなみに親玉は唖然とした顔つきで、突っ立ったままその様子を眺めていた。




「……おや、穏やかじゃないねえ……」

たちまち町人と盗賊達の大乱闘場となってしまった周囲に、未だ座り込んだままジハードが肩をすくめた。
それから弾みをつけて立ち上がると、同じく剣を支えにして立ち上がったティエルに歩み寄る。


「背中を強く打ちつけたみたいだったけど、大丈夫かい? 治癒魔法かけた方がいいかな?」

「ん、大丈夫」
慌ててジハードに向けて片手を振ったティエルは、周囲で暴れる町人達を目をまん丸にしながら見回した。



「なにこれ? なんでまた、いつの間にこんな騒ぎになってるの??」
「ぼくに聞かれても困るなぁ。けれど、こんな騒ぎじゃリアン達と合流するのも難しそうだね」







+DeadorAlive+