Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」
第10章+勇気の条件

第119話 サンドラ盗賊団戦-3-





最初は押されていた町人達であったが、次第に圧倒的な数で盗賊達を確実に追い詰めていった。


樽を抱えながら突進して来る酒場の主人を慌てて避けたところへ、コックがフライパンで殴り飛ばす。
一人、また一人と盗賊達が地に倒れていった。




「お、親分! やべェよ……このままじゃオレ達の方がやられちまう……!」
鼻血を片手で押さえながら、欠けた歯が目立つ口を開いて下っ端が慌てて駆け寄ってくる。

「ここはひとまず引き上げましょう! まずは態勢を立て直さねぇと、盗賊団は壊滅ですぜ!!」



「うるせぇな、情けねぇこと言ってるんじゃねーよ。テメエそれでも盗賊団の一員か!?」
駆け寄ってきた下っ端を片手で殴り飛ばすと、まるでボールのように勢いよく飛んで行った。

ギリ、と強く歯軋りをした盗賊団ボス・ザンギはノッシノッシとティエルに向かって歩き始める。




とにかく今は、あの小娘から封魔石さえ奪えばいいのだ。
封魔石さえ手に入れば、後はその強大なる力とかで町を跡形もなく消し去ってやろう。

それが盗賊団ボス・無敵のザンギに歯向かった報いなのだ。


「……よう、小娘。それはてめぇみたいなガキが持つには出来過ぎた代物だ」
口元に冷笑を浮かべながら、ザンギはティエルの前に立ちはだかる。

「価値も使い方も分かってねェお前よりも、オレが持っていた方が有効に扱えるってもんだぜ?
さあ、おとなしくその封魔石をこっちによこせ……ッ!?」




警戒するティエルに手を伸ばそうとしたその瞬間、ザンギの肩が誰かの肩とぶつかった。


「テメェ……このオレ様の肩にぶつかって、命があると思うなよ?」

声をかけられただけで震え上がりそうなほど凄みのある声で、ザンギは振り返りながら口を開く。
しかし振り返ったザンギの目に入ったものは、大柄な自分よりも更に頭一つ分大きな男であった。


「いや、すまん。こちらも急いでいるのでな」
見事としか言いようがないほど美しく盛り上がった筋肉に、動きやすい修道着。サキョウである。

「おおティエルよ、それにジハードも! 一体この騒ぎは何なのかワシに説明してくれい」




「……ねえ、誰と一体話しているんですの、サキョウ? うわ、私の苦手な毛深いマッチョ男でーすわ」
そんなサキョウの背後に隠れるようにしていたリアンが、ひょいと顔を覗かせた。

「あら? きゃーっ、良かった! 二人ともよく無傷でここまで来れましたわねぇ」




「サキョウ、リアン! そっちも無事で良かった……って、クウォーツはどこにいるの?」
ホッと安堵の表情で駆け寄ったティエルは、クウォーツの姿が見えないことに気づいて首を傾げる。


「私が知るわけないじゃないでーすの、あの単独行動男! 知らない間に姿消していたんですから」
大げさに顔をしかめたリアンは、それから気を取り直したようにしてポンと手を打った。

「……それより、なんか町人がハッスルしてますわねぇ。この調子ですと、盗賊共をブチのめせますわよ!」




「ブチのめすとか言わないでさ、もっと平和的に解決できないのかなぁ」
辺りを見渡したジハードは、その後にニヤリと何か意味深な笑みを浮かべる。

「まぁ襲ってきた方が悪いのだから、どんな目に遭っても文句は言えないんだけれどね」



「うむ、そういうことだ。宿屋の方で戦っていた冒険者達も皆こっちに向かってきている。
ワシらも盗賊共を追い払うのに協力せねば!」

グッと拳を握り締めるサキョウ。




宿に泊まっていた戦士達も町人に加勢し、人々が入り乱れる時計広場は再び戦いの場となった。
武器を持たない町人達に武器を貸してやっている冒険者達もおり、また倒れた盗賊から奪う者もいる。


そんな広場を見下ろすような形で、一人家屋の屋根に座ってそれを眺めているのはクウォーツ。
「……こんな面倒事に巻き込まれるのはごめんだね、やりたい奴らだけで勝手にしているがいいさ」





──その時。

まるで雷が落ちたのかと錯覚するほどの凄まじい音が響き渡る。
あんなにも騒がしかった辺りは急にシンとして、町人達は音のした方へとゆっくりと顔を向ける。


見ると、大きな斧を石畳に突き刺したザンギが一人の子供を抱えているではないか。




「てめぇら……そろそろいい加減にしねぇと、温厚なオレ様もブチ切れるってんだ。
ここまで頑張ったのは褒めてやろう。だが、このガキの身体を真っ二つにされたくなかったら動くなよカス共」


「ケ……ケビン!!」
ザンギの腕に捕まれて、ガタガタと震えているのは……紛れもなくケビンであった。



「このガキは廃墟で捕まえたんだ。危ない所に行くなとママに教えられなかったのかい? ぼうや」
手に持った斧をピタピタとケビンの頬に当てながら、ザンギはニヤリと勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

「さあ、全員武器を捨てろ!」




その言葉に町人達は顔を見合わせて、それから武器を地面に叩きつける様にして手放した。


「廃墟で捕まえたって……やっぱりケビンは廃墟に行ったんだね」
「んもう、本当は弱虫じゃないって所を見せたかったんですのよ。あのクソガキは」

隣で呟くジハードに答えながら、リアンは悔しそうにロッドを地面に置く。



「あなたの不動陣で盗賊のボスを動けないようにできないんですの? このままじゃ私達まで危険ですわよ」

「範囲をできる限り抑えてやってみるけど、成功するとはかぎらない。
……ボスの動きを止めたら、ティエル。あなたがこの中で一番動きが早いから、よろしく頼むよ」


声でない声で詠唱を始めながら、ジハードは静かにティエルの方へと目配せをする。



「心配しなくとも、多分上からクウォーツが何とかしてくれると思うから」
「え? どこにクウォーツがいるの??」

キョロキョロと辺りを訝しげに見回すティエルに、ジハードはどこかに向かって軽く片目を瞑ってみせた。
おそらく彼には、クウォーツがどこにいるのか分かっているのだろう。




幸い今自分達のいる場所は、ザンギと近い位置である。
ティエルが全速力で走っていけば、子分達に阻まれる前にケビンを助けられるだろう。


「準備はいいかい?」
「……うん」

しっかりと頷いた面々にジハードは満面の笑みを浮かべると、くるりとザンギに向かって顔を向けた。




「不動陣……発動!!」
ヴィィィィンという音と共に、虹色に光り輝く魔法陣が突如ザンギの足元に広がっていく。



「な、なんだっ?」

思わずうろたえて下を向いたザンギの隙を狙って、ティエルは地面を蹴って飛び出した。
予想よりも早く盗賊達が前に立ち塞がるが、何故か皆揃って叫びを発しながら顔を押さえて転げ回る。



「痛ェ、なんか物凄い勢いで顔に当たったぞ!?」



盗賊達のそばにいくつか落ちていたのは、洒落た細工が施されている銀色のネクタイピン。
思わずティエルは背後の家々を振り返るが、どこにも人影はなかった。


そして彼女はイデアを握りしめたまま、不動陣によって動けない盗賊のボス・ザンギへと飛び掛る。
その拍子にケビンが放り出されるが、飛び出したリアンによって抱きとめられた。

ザンギの背後は丁度噴水になっており、ティエルはザンギを巻き込みながら水の中へと落下していったのだった。




「き、きゃーっ、嘘ぉ!? 落ちるー!!」
「うわぁぁぁぁ、何しやがるこの小娘ェ!?」


ザバァァァンと上がる大量の水飛沫。


それでも尚立ち上がったザンギの後頭部を、最後にサキョウがゴインという音と共に手刀を食らわせる。
それと同時に唖然としていた盗賊達の下っ端に町人達が飛び掛り、一斉に縄で縛り上げてしまう。




「よかった……」
水面にぷかぷかと浮かぶザンギを押しやって立ち上がったティエルは、その様子に笑顔を浮かべるが。

「……はぁーっくしゅん! ひくしゅん! えくしゅんっ!!」
と、盛大にクシャミをしたのだった。







+DeadorAlive+