| Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」 第2章+旅の幕開け
第12話 イーストビレッジ 「ねえ、リアン。ちょっと休もうよー……わたし疲れたよー」 さくさくと軽快な足取りで進むリアンの背を恨めしく眺めながら、栗色の髪の少女が呟いた。 ……名はティエル。 彼女は数日前まで、何不自由ない王宮生活を送っていたのだ。 こんな整備されていない道を長時間歩き続けるには、些か彼女の足は脆弱すぎる。 「……だってまだ、3キロちょっとしか歩いてないんでーすのよ。今日はあと5キロ近く進む予定ですのに」 呆れた口調で振り返ったのは、波打つ長い青緑の髪が映える娘リアン。 まるで人形のように整った顔を大きく崩し、口をへの字に曲げながらティエルを一瞥する。 彼女とティエルはマンティコラの森で出会い、共に力を合わせて凶悪なモンスターを退治したのだ。 偶然行き先が同じ事もあって、暫く行動を共にすることになったのだが……。 「あと5キロも!? そんなに歩けるわけないじゃない! これ以上歩いたら足が動かなくなっちゃうよー!」 そう言いながらティエルは履いていた靴を脱ぎ、リアンに靴擦れだらけの足を見せる。 白い素足のあちこちが、皮がめくれて血が滲んでいた。 それを見たリアンは一言小さくうげっと呟くと、早く靴を履けとジェスチャーで訴える。 「そんなになるまで気付かなくてごめんなさい。そうですわね、どこかの町に入って休んだ方が賢明ですわ。 とりあえず町を探しますから、ちょっと座っていて下さいな」 ゴソゴソと荷物の中から大きな地図を取り出したリアンは、それを地面に広げた。 ここはマンティコラの森から真っ直ぐに東へ進んだ所で、辺りは緑の山々に囲まれている。 今のところ、近くに町らしきものは見当たらない。 たとえ町に向かうとしても、また暫くは歩かなければならないだろう。 そう考えたティエルはリアンに気付かれないように一つ、大きなため息をついた。 「ん〜……ここから一番近い町は、東に0.5キロほど行った所にあるイーストビレッジかしら。 あと0.5キロ程度なら頑張れますわよね、ティエル?」 「なんとか頑張ってみるよ」 リアンの言葉に静かに頷いたティエルは、目を細めて東の方向を眺める。 ……やはり町は見えなかったが。 「あなたの足が限界みたいですから、今日はそこに落ち着きましょう。料理美味しいといいんですけど」 そう言いながら地図をしまい、ふとリアンは思い出したようにポンと手を打った。 「けど、そろそろ路銀が乏しくなってきているんですのよ。ティエルは手持ち金いくらなんですの?」 「手持ち金……?」 そういえば、出かけに墓守イエシュからいくらか渡されたような気がする。 それを思い出したティエルは、自分の荷物の中から可愛らしい小さな財布を取り出した。 「……この銀貨って1000リンだよね、どっかで見たことあるもん。10枚あるから1万リンかな?」 「ゲッ、やっぱり少ないですわね」 黙っていれば誰もが認める可憐な顔立ちの娘であるのだが、リアンはそんなことはお構いなしに顔を崩す。 彼女も、ティエルと引けを取らぬ程コロコロと表情が変わるのだ。 「私も2万リンちょっとしか持ち合わせがないんでーすのよ。これじゃあ5日も持たないですわぁ。 イーストビレッジで、賞金首ポスターが貼ってあればいいんですけど」 「ねえ……旅をするのにお金って必要なものなの?」 「……え?」 その、何気なくティエルが呟いた言葉にリアンは大げさに驚いて振り返った。 「今なんて言いまして?」 「だから、旅をするのにどうしてお金が必要なのかなあって。そもそもお金ってどうやって稼ぐんだっけ? 授業たびたびサボっていたからなぁー。教えてもらったような気がするんだけど、忘れちゃった」 大きな目を瞬いて、ティエルはまさにキョトンとした瞳でリアンを見つめる。 「あなた……どっかのおバカなお姫様じゃないんですから、お金の稼ぎ方くらい知っていて下さいな……」 クラクラとめまいを感じたリアンは地に手をつき、脱力したように座り込む。 「世の中は、ご飯を食べるにも宿屋に泊まるにも、物を買うにも全てお金が必要なんでーすの。 お金がなくちゃ、なぁーんにもできないんですのよ」 「ふむふむ」 「それで私達旅人達は一体どうやってお金を稼ぐかというと……賞金首及び賞金モンスター退治ですわ。 それらを退治してギルドから報酬をいただくんですの。まぁ、腕に自信がある者じゃないと無理ですけど」 「ふむふむ……」 保安官達では手に負えない凶悪犯は、通称ギルドと呼ばれる組織に依頼する。 ギルド名簿に登録せずとも、凶悪犯を倒しその身柄や死体を持ち込めば賞金が手に入るのだ。 勿論、そこで『是非登録しないか』というギルドからの誘いもあるのだが。 登録すると年間10万リンの会費と引き替えに、いち早く凶悪犯の情報を知ることができるメリットがある。 それを本業としているハンター達はともかく、本業ではない冒険者達の大半は未登録だそうだ。 「幸い私は超優秀な魔法の使い手、ティエルは剣の使い手。 賞金首を倒すには、もってこいでーすわ。けれど……ティエルにはまだ無理かしら?」 リアンはそう言いながら試すようにティエルをチラリと見ると、ティエルはグッと拳を握って立ち上がった。 かなり興奮している様子でリアンに詰め寄る。 「面白そう! やるやる、絶対やるっ。世の中にはこんなワクワクすることがあったんだ! わたしとリアンで、賞金首をとっ捕まえよう!!」 既に足の痛みも忘れてしまっているのか、ティエルは意気揚々と町に向かって歩き始める。 ポカーンと口を開けたままその様子を眺めていたリアンだったが、 「……ち、ちょっと私を置いていかないで下さるー!?」 と叫んで彼女の後を追って走り始めた。 +DeadorAlive+ |