| Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」 第10章+勇気の条件 第120話 勇気の条件 時計広場で焚かれた火の前で、ティエルは頭からバスタオルをかぶりながらガタガタと震えていた。 こんな寒い季節に、噴水の池にザンギと共に落ちたのである。寒くないはずがない。 ボコボコに殴られた盗賊達はザンギと共に、広場の端の方でかたまっていた。皆ロープで縛られている。 周囲には棍棒を携えた厳つい体格の町人達が見張っているのが見えた。 どうやらザンギ一味はギルドから手配されていたらしく、高額な賞金も手に入るのだそうだ。 それは恐らく町の再建に使われるのだろう。 あれだけ大騒ぎをしていた割には、町の被害も死亡した者も少なかったらしい。 町のあちこちに松明が掲げられ、人々は壊れたビンや転がった看板などの掃除をしていた。 宿の方は現在掃除中で、それが終わるまでティエル達は仕方なくこの時計広場にいるのである。 「……へくしゅん、ぐしゅん!」 盛大にティエルの唾がかかったらしく、ジハードは顔を拭いながら微妙な顔つきで彼女を振り返った。 「ティエル、お願いだからくしゃみをする時は口を押さえてよ。それにひとに向けてしないこと。 仮にもお姫様なのに、そのオヤジくさいくしゃみは一体何なんだい。いくらなんでもぐしゅんはないでしょう」 「そんなこと言われても、こんなくしゃみなんだから仕方ないじゃない!」 ずびずびと鼻をすすりながら、ティエルは隣に座っているジハードを睨み付ける。 「あーん、何だかわたし一番貧乏くじ引いてない?」 「そんなことはないぞ、お前はよく頑張った。まさか水に飛び込むとは思わなかったが」 苦笑を浮かべながら、サキョウは自分の外套をティエルにかけてやった。 こんな気温の中、腕をむき出しにした格好でサキョウは寒くないのだろうか……とも思うが。 「心頭滅却すれば火もまた涼し。修行を重ねれば、寒さとて感じなくなるものだ」 「ふーん……寒さを感じないのでしたら、今ここで私が氷の魔法唱えても寒くないんですのね?」 青い巨大な水晶玉がはまる杖を握りしめながら、リアンはどこか小悪魔的な笑みを浮かべる。 「それより私寒いでーすわぁ。このままじゃ風邪引いちゃいますわよ!」 「心配するな、何とかは風邪を引かないと言うだろう」 夜の闇に半分溶け込みながら、向こうの方からコツコツと足音を響かせてクウォーツが歩いてきた。 「もう騒ぎは終わったのか」 「うん、なんとかね。無事……とまではいかないけど、解決したみたい」 また盛大にくしゃみを一発したティエルは、鼻の頭を擦りながら顔を上げて笑みを浮かべる。 そしてゴソゴソとポケットに手を入れると、中から折れた銀色のネクタイピンを一つ取り出した。 「助けてくれてありがと。これね、全部集められなかったの。もう使い物にならないよね、これじゃあ……」 「別に構わん、どうせ安物だ」 興味なさそうにそう呟いたクウォーツは、青い髪をかき上げながら樽の上に腰掛ける。 「おねーちゃん達ー!」 その時、ドタドタと大きな足音を立てながらケビンが息せき切って走ってくるのが見えた。 ティエル達の前まで来ると、彼は立ち止まって呼吸を整える。 「あの……その、ボクを助けてくれてありがとうって……それだけ言いたくて……」 「いえいえどういたしまして。とは言っても、本当は助けられるかどうか不安だったんだけどね」 まだ雫の垂れている髪を拭きながら、ティエルはケビンに向かって顔を向けた。 「もう危険な所に行ったりしたら駄目だよー」 「あなた、やっぱり勇気を認めてもらいたかったんでしょう。ほーんと、素直じゃないクソガキでーすわ」 両手を腰に当て、リアンはふんぞり返るようにしてケビンに言う。 「友達が欲しかったのなら、別にそんな勇気の見せ方しなくてもいいじゃない」 「う、うるせーよっ。花柄パンツの女なんかに言われたくねーよーだっ」 「なんですって!? やっぱこのガキもう一度殴る!」 「まあまあ落ち着いて。とにかく盗賊達はいなくなったといっても、あの廃墟には近づかない方がいいよ」 悪気のない笑みを浮かべながらジハードはリアンを宥めると、ケビンの頭をぽんと叩いた。 「また善からぬ奴が巣くう場合もあるしね」 「……うん、ごめんなさい。白髪のおにいちゃん」 「なんでこのガキ、ジハードの言うことは素直に聞くのかしら。私には超反抗的なのに……」 ジハードに言われ、素直に頭を下げるケビンをどこか不服そうにジロジロと眺めるリアン。 「それに花柄パンツ花柄パンツってうるさいでーすわ。エロガキ」 「お前……」 長く伸びた足を組み替えながら、クウォーツは実に呆れた視線をリアンに向けながら口を開いた。 「そこまで貴様が露出狂だとは思わなかったな。まさか子供にまで下着を見せるとは……」 「だっ、誰が露出狂なんですのよ!? このガキが勝手に私のスカートをめくり上げたんですのよ!」 「おねーちゃん、そんな怖い顔ばかりしてると男ができないって言ってるだろ?」 鼻の頭をこすってへへへ、と笑みを浮かべたケビンは、くるりと身体の向きを変える。 「もう無茶はしないよ。それにもうボクは、一人で廃墟に行くことができない臆病者じゃないしね。 あいつらが何か言ってきたとしても、これからはガツーンと言い返してやるよ」 「ケビーン!」 そうケビンが言ったとき、片づけをしている大人達の間を縫って数人の少年達が走ってきた。 ケビンを弱虫扱いしていた、あの少年達である。 その少年達を前にするとケビンの表情に怯えの色が走ったが、キッと前を向いて睨み付けた。 「な、何か用かよ!」 「……いやな、あのな。悪者に捕まってただろ、お前。大丈夫かなって……」 「オレ達が廃墟に行けとか言ったから、お前捕まっちゃったんだろ?」 申し訳なさそうに顔を見合わせる少年達は、それから意を決したようにして口を開く。 「お前、悪者に捕まっても泣かなかったしよ。すげぇなって思ってさ。……弱虫って言葉、取り消すよ」 「……」 その言葉に一瞬だけ驚いていた顔をしていたケビンであったが、やがて顔中に笑顔が広がり始めた。 「うん……!」 ・ ・ ・ 「ばいばーい、元気でね! ……へくしゅんっ!!」 去っていく子供たちに向かって大きく手を振り続けていたティエルは、盛大なくしゃみをする。 「ええと……そんで、とりあえず行き先はセレステール王国でいいんだよね? あまり気が進まないけどさぁ」 「そうそう、この地図によりますと光の点の位置はセレステール王国らしいですからね」 本屋で買ってきたと思われる地図を広げながら、リアンは一同を見渡した。 「ここからだと、近道の大草原を越えて……歩きで一週間もあれば到着する距離ですわよ」 「ふむ……そこにイデアの失ったスペルがあるのだろうか。とにかく、行ってみなければ分からぬがな」 焚き火を見つめ、そして隣で大あくびをしているジハードに視線を移動させるサキョウ。 「ジハード、今日は買い物につき合って疲れただろう。眠いのなら寝てもいいぞ。ワシが運んでやろう」 「んんー……そうするよ……」 ぼんやりとした瞳でそう呟くと、ジハードはサキョウに寄りかかって熟睡し始めてしまった。 「よーしっ、明日からはセレステール王国に向けて出発だね! ……ふ、ふぇっ、ふえっくしょん!!」 元気よく立ち上がったティエルは、吹いてきた冷たい風に思わずへっぴり腰になる。 「こ、このままじゃ、わたし本格的に風邪引きそうなんだけど……」 「……なんなら、私が暖めてやろうか? なんてな。冗談だ」 無表情のまま平然と口説き文句を口にしたクウォーツは、横目でティエルを一瞥した。 その瞬間リアンは目を見開いて唖然としていたが、当然ティエルは言葉の真意が分からず笑顔で口を開く。 「……でもクウォーツって、わたしよりも体温低そうだしなぁ。抱きつくならサキョウの方が温かそうかな?」 ズズ、と鼻をすすったティエルは、バスタオルを再び頭からかぶると背筋を伸ばした。 「さてっ、そろそろ宿屋の方に戻らない? もう片付いている頃でしょ」 「そうであるな。ワシも何か手伝えることがあれば力を貸したいしなァ……よいしょっと」 トタトタと歩き始めるティエルの後を、サキョウが熟睡をしているジハードを背負いながら歩き始める。 「……あなたって、平気であんな口説き文句が言えるんですのね。ほぉぉーんと慣れたものですわねー」 寒いのか、焚き火を見つめたリアンは、それから隣を歩くクウォーツに恨めしそうな表情で顔を向けた。 「ここにも一人、寒さに震えている女の子がいるんですのよ。気づかう台詞の一つもないんでーすのぉ」 「そんな薄着じゃ寒いのは当たり前だ。馬鹿なことをいつまでも言っていないで、邪魔だからさっさと歩けよ」 「邪魔ですって!? あなたの無意味に風で広がるそのコートの方が思いっきり邪魔ですわよ!」 「リアン、クウォーツ! 何やってるの、早くおいでよー」 「あらら、ちょっと待って下さいな!」 遠くから自分達の名を呼ぶ声にハッと顔を上げたリアンは、慌ててその方向へと走り始める。 その後を、やれやれと肩をすくめたクウォーツがゆっくりと歩いていった。 +DeadorAlive+ |