Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」
第11章+華の都セレステール

第121話 セレステール王国





「どこまでも続く青い空、わたあめみたいな白い雲、緑の木々……自然ってなんて素晴らしいんだろう!」


大げさに息を吸い込んだティエルは、感極まりないといった風に芝居じみた言葉を発した。
少し強めの涼しさを含んだ風に、彼女の長い髪がさらさらと軽くなびいていた。

冷たい空気はティエルの胸いっぱいに広がっていき、徐々に彼女の心を満たしていく。





冷徹なる氷の女王と謳われているリダ=クイーンの総べるゾルディスから脱出したティエル達は、
怪我の療養のためフィークテルの町に留まっていた。


しかし前々からこの町を狙っていたサンドラ盗賊団の襲撃によって、一気に平穏は破られてしまう。
盗賊団のボス・ザンギの力は凄まじく、ティエルですら危うかったのだ。

だが自分達の町を襲われた怒りに燃えている町人たち、
そして宿に滞在していた歴戦の冒険者たちの活躍により、騒ぎは無事に解決となった。





次の目的は、封魔石イデアの失われたスペルを集めることである。

イデアに映し出された不思議な地図を頼りに、彼女たちはセレステール王国へと向かっているのであった。
目の前には平地が広がっている。寒さもさほど感じず、太陽の光が青々とした緑を照らしていた。




「それにしてもさぁ、突然盗賊団が襲ってきたときは驚いたよね。本当に何事かと思ったんだもん。
サキョウもクウォーツも調子悪かったじゃない? だから宿の方が心配で心配で……」

てくてくとなだらかな砂利道を歩きながら、ティエルは両手を頭の後ろで組む。



「ケビンくんも友達ができて良かったよね。町出るとき、皆で見送りに来てくれたじゃない」

「……ふーん。それにしてもあのエロガキ、最後まで私の下着の柄をいちいち連呼していましたしね。
将来はバアトリみたいなどうしようもないエロ大魔神になる素質充分でーすわ」


長い青緑の髪を軽く払いのけ、リアンは整った顔を随分と機嫌の悪そうにしかめながら口を開いた。




「多分、ケビンくんはリアンが好きだったんじゃないかなぁ。好きな女の子に意地悪するっていうじゃない?」
「ティエルったら何を言い出すんですのよ。あんなエロガキに好かれても困りますわ!」



「……貴様を気に入るなど、随分と趣味の悪い子供がいるものだな」

「あらやぁだ。クウォーツったら妬いているんでーすの? 根暗な男のヤキモチはみっともなくてよ」
「本当に頭の中がおめでたい奴だ。鬱陶しいから、あまり私に構わないでくれ」


「なんですって!? あなたからちょっかい出してきたんじゃない!」




涼しい顔でスタスタと歩いていくクウォーツの背を、リアンが怒りの表情を浮かべながら追っていく。
いつもの見慣れた光景である。

それを呆れた表情のサキョウと、まだまだ眠そうな表情のジハードが、大あくびをしながら眺めていた。



「……何故二人はいつもこうなるんだろうなぁ。もっと仲良くできないものか……」
「ふふふ、サキョウはいつも苦労するねえ。それにしてもどこかにベッドが転がってないかなぁ。眠いよ」

「お前はお前で平和だなぁ……」
実に緊張感のない柔らかな笑顔を浮かべたジハードに、サキョウは余計に肩を落としたのだった。





暫く歩き続けていると、前方に大きな城が見えてくる。

遠くからもはっきりと分かるほど、色とりどりの旗や巨大なバルーンなどが至る所に飾られていた。
城を含め、城下町の建物は皆白で統一されている為もあり、それが余計に目立っているようだ。


まるで白い紙にカラフルな絵の具を点々と落としたような町である。




「想像以上に派手派手しい国ですわね。ま、これぞまさしくお祭り好きの王様が治める町かしら」
「でも楽しそうじゃない? わたし、こんな賑やかそうな平和な町、好きだなー」



セレステール王国城下町が近づくにつれて、楽しそうな音楽が風に乗って聞こえてくる。
あまりのお祭り騒ぎに半分呆れているリアンとは裏腹に、ティエルはずいぶんと上機嫌のようだ。

色とりどりの紙吹雪が青空へ吸い込まれていく。
大きな通りを行き交う人々の顔は、幸せそうな笑顔。どこからか流れてくる陽気な音楽。




この国を治めるお祭り好きの王バルバロ四世は、一ヶ月に一回祭りを行っている。

祭の名称は特に決まっていないらしい。しかし、この国の住人にとっては何の祭かは問題でないのだ。
ようは、日頃の疲れを癒すために一ヶ月に一度くらいは羽目を外す事も大切だということだ。




「わたしの国にも、こんな一ヶ月に一回お祭りをしようっていう決まりごとがあったら良かったな。
うちの国じゃ、お祭りらしいお祭りと言ったら……水霊祝賀祭か誕生祭に剣術大会くらいしかないんだもん」

子供のようにはしゃいでいる周囲の人々を眺めながら、ティエルはどこか羨ましそうに呟いた。



「ひとの楽しそうな顔を見てると、こっちまで楽しくなってきちゃうよね」

「でもねティエル、こんなお祭り騒ぎを一ヶ月に一回もやっていたら財政が厳しくなると思うよ」
ジハードはリグ・ヴェーダを両腕で抱え込みながら、すれ違う人々を避けて小首を傾げてみせる。


「……一体何のお祭り騒ぎなのだろうね? 皆そろいも揃って赤いワインのグラスを持っているようだけど」




確かにジハードの言うとおり、彼らは皆手に赤いワインらしき液体が入ったグラスを持っていた。
その赤い色は通常の赤ワインのような色合いではなく、まるで血のようなどす黒い赤であった。




「はいよ! あんた達もご加護を受けるためにこれをお飲みよ。少しでも歌が上手くなりますようにってね!」

その時一番端を歩いていたサキョウに、鼻の赤い中年の女性が赤い液体の入ったグラスを押し付ける。
勢いあまってグラスの中身が少しだけ飛び散り、彼の服に血のような染みを作った。



「うむ? ところでこれは一体何の祭なのだ? ご加護とは誰からのであるのだ??」

押し付けられたグラスの中身は確かにワインなのだが、どこか血生臭いような気がする。
その臭いに思わず眉をしかめながら、サキョウは赤鼻の女性に問いかけた。




「あらやだ、あんた知らないのかい!?
ハーピー族だよ、ハーピー族! 彼らが口ずさむ歌はどんな音色よりも美しいっていう話だよ」

サキョウの問いかけに、女性はさらに顔を上気させながら興奮したように口を開く。



「この国の王子セイファ様が……そりゃあもう、とびっきりの美男なんだけどねぇ。あらいやだね、うふふ。
そのお方が狩りに行った時につれて帰ってこられたんだよ。文武両道で、まったく素晴らしいお方なんだ」


「王様もハーピーの歌声にご機嫌で、オレ達にも公開してくれたんだよ。それでこんなお祭騒ぎのわけさ。
ああ、でも残念ながらこのワインの中に入っている血は牛の血なんだけどな。結構いけるぜ」

話し続ける女性を押しのけて、片手にグラスを持って興奮した様子で隣の男性が口を挟んできた。



「肝心のハーピーは広場に飾られているよ。彼らの歌声に興味があったら見に行ってごらん」
「ハーピー……?」

聞き慣れない名前が出てきたので、ティエルはその話を黙ったまま聞いていたジハードへと顔を向ける。
一瞬だけだが、彼の表情が曇ったような気がしたからだ。



「……そうかい、ありがとう。早速見に行ってみるよ」
しかし彼は、普段と変わらぬ様子でやんわりと口を開いた。







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