Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」
第11章+華の都セレステール

第123話 セイファとエルフィ





「先程はうちの兵士達が本当に失礼いたしましたわ。ごめんなさいね、ティアイエル様とその従者さん達」




実に豪勢な客間に通されたティエル達の前には、皆が思い浮かべる姫君像を絵に描いたような容貌の女性。
くるくるとした長い巻き毛を、ピンク色のリボンできちんとまとめている。

そして、ティエルが着たこともないような白いレースがふんだんに使われた絹のドレスを身に着けていた。



剣など決して握ったことのないだろう傷一つない白い彼女の手を見たティエルは、
どことなく寂しい気持ちに駆られてしまう。……そして、ほんの少しだけ、羨ましかった。




「従者さん、ハーピーの件はお父様に言っておきます。けれど心配ご無用よ、お父様はわたくしには甘いですし」



「……あれは拷問だよ。声が出なくなるまで殴って歌わせるとは、あまり趣味が良いとは言えないけれど」
声をかけられ、ジハードは先程の事などまるで気にも留めていないかのように柔らかく笑みを浮かべる。

普段とあまり変わらぬジハードの様子に、ティエルは内心ホッとした。
だがそれでも平然と笑顔を浮かべることの出来るジハードが、どこか凄くもあり。寂しくもあった。




「……そうね、わたくしも反対だったの。できればあのハーピーを逃がしてあげたかったけれど……。
セイファお兄様がどうしても逃がさないと反対していたから、わたくしにはどうすることもできなくて」

ジハードの言葉にエルフィはつり気味の大きな目をさらに大きく開き、残念そうに唇を尖らせる。




「うーむ、そのお兄様とやらの顔が見てみたいがなぁ」
王族は苦手なのか、サキョウはどこかゲンナリとした表情で肩をすくめて見せる。


「ねえティエル、それにしても幸運じゃないですの。このまま本来の目的をこのお姫様に話しちゃいましょ」
いつの間にかティエルの隣に寄っていたリアンが、こそっと彼女に耳打ちをしてきた。

「この国はジハードにとってはあまり気分の良い国ではないですから、早々に出て行きましょ」




「……本来の目的? なんだったっけ」
「おバカ! 私達、このセレステール王国にはスペルを求めて来たんですのよ!」

「おバカなんてひどい……」




「やあやあ、エルフィ! ……この方がお前お気に入りのメドフォードの姫君か!?」
そんな一行の元へ、ドタバタと足音を鳴り響かせながら一人の若者が駆け寄ってくる。

エルフィとどこか似たような金の巻き毛と、海色の瞳。一つ一つの仕草が優雅で、色男風の容貌である。
全体的に白と水色を基調としたヒラヒラとしている衣服を身に着けていた。



金の刺繍が施された白いマントを払い除けると、青年はキザな仕草で頭を下げる。




「おっと、これは麗しきレディの前で失礼をした。僕はこのセレステールの王子、セイファと申します。
フッ……レディ達限定でセイとでも呼んで下さっても構いませんよ」

そう言いながら、セイファはまさに貴婦人達が目にしたら卒倒するような極上の笑顔を浮かべた。




「お初にお目にかかります、ティアイエル姫。おお、これはお噂と違いなんと美しく可憐な姫君だろうか……!」
早速ティエル達を見渡したセイファは、ササッと素早い動作でリアンの前まで歩み寄る。

「お噂では、まるで山猿の様なじゃじゃ馬姫君だと聞いておりましたが……いや、失敬。
貴方のあまりの美しさに、心奪われてしまった僕をお許し下さいレディ」


「や、山猿ぅ!?」
自分の前をあっさりと素通りしていたセイファを睨み付けながら、ティエルは思わず眉をしかめた。




「プリンセス・ティアイエル。貴方の魅力は、もはや罪だ。何故ならこんなにも僕の胸を苦しめる……」




「……あのう、盛り上がっている最中に申し訳ないんですけれど。ティエルはあっちですわよ」

女性ならば誰もが頬を染めるであろう美貌のセイファを前にしても、あまり関心がない様子でリアンが言った。
むしろ、どこか迷惑そうな表情でセイファを見ている。


「それにあなた、この私を口説こうだなんて一億年早いですわ」




「え……一億年早い!? じゃなくって、貴方がティアイエル姫じゃないって!?」
リアンの言葉に愕然とした様子のセイファは、それから震える指でティエルを指し示した。

「そ、それではもしや、このおサルの様なレディが……じゃなくて、随分と元気の良さそうな逞しいレディが、
実は本物のティアイエル姫なのかい! なぁエルフィ〜!?」



「おサルの様な!? しっつれいしちゃうわね、この王子様は!」

「セイファお兄様、そんな事を言ってはティアイエル様に大変失礼よ!
確かにこの方はお兄様好みの女性ではないけれど、男らしく、そして気高い方なのよ」


そう言ったエルフィは手を組み合わせると、ティエルに向かって満面の笑顔を浮かべる。
その言葉もかなり複雑であるティエルは、ガックリと落胆したように肩を落としたのだった。




「王族というのは変わり者が多いと聞くからな。まぁティエル、暫くは諦めろ」
そんな彼女をなぐさめる様に、サキョウが優しく背中をぽんぽんと叩く。

「ほれ、早く本題に入った方が良いのではないか? スペルのことを聞きに来たのだろう?」




「あっ、そうそう。ねえエルフィ姫……わたし達、封魔石イデアのスペルを求めてこの国に来たんだけど。
何かその事について知らないかなあ? ほんの些細な情報でもいいんだけどな」

気を取り直してティエルはソファーに座り直すと、エルフィに向かって口を開いた。



「封魔石イデアのスペル? 残念ながらわたくしは存じませんわ……お兄様は?」
「いや僕も聞いたことがないけど、あとで父上に聞いてみることにするよ」

「……お願いします」
顔を見合わせながら首を傾げる兄妹に、ティエルは深々と頭を垂れる。




「それにしてもメドフォードは大変なことになっていると聞きました。あのゾルディスの手に落ちたとか。
王家全滅という噂でしたが、こうしてティアイエル様が生きていらしたことが本当に嬉しいですわ」

先程までとはうって変わった真面目な表情になったエルフィは、しっかりとティエルの両手を握り締める。



「勿論国を取り戻すおつもりでしょう? このエルフィ、ティアイエル様のためなら何でもいたします」
「……ありがと、エルフィ姫。それからわたしのことはティエルでいいよ。敬語もなくていいから」

「ではそうさせていただくわね」
それからティエルとエルフィ姫は、向かい合ってニッコリと笑顔を浮かべた。




「けれど、従者の方々も素敵な殿方ばかりで。そんな畏まっていないで、どうぞおくつろぎなさって」

手を打ったエルフィ姫は、ピンと背筋を伸ばしているサキョウ、こちらに向かって会釈するジハード、
そして一人離れて、気怠そうに柱に寄りかかるクウォーツに顔を向けた。



「あ! あのね、エルフィ姫。この人たちは従者でもなんでもないの。わたしの友達。旅先で出会った仲間なの」
なにやら彼女が勘違いしているようなので、ティエルは慌てて両手を振ってみせる。

「だからあまり……わたしだけを特別扱いしないでね?」




「姫君と平民を同等に扱うことは出来ませんよ……しかし、まぁ姫がそう言うのなら仕方ないですね。
僕は会議がありますのでこれで。よろしければ姫君、お仲間の方々も今夜のパーティに出席して下さい」

ヤレヤレと肩をすくめたセイファは立ち上がると、静かに一礼をした。


「僕がこの間狩りに出かけた時に捕らえた、ハーピーよりも面白い生き物をお見せいたしましょう。
……そうそう僕は剣の腕も優秀でね。先日の狩りで出くわしたトロルを一人で倒したのですから」



その言葉に一瞬だけジハードの表情が強張るが、セイファは気づかずにリアンの前まで歩み寄る。




「特に美しきレディ、僕は貴方に是非とも来ていただきたい。素敵な夜になることを、お約束いたしますよ」
そう言いながら彼女の手の甲にそっとキスをして、自慢である必殺の笑顔を浮かべた。


しかし次の瞬間その笑顔が凍りつく。──視線の先は、腕を組んで立っていたクウォーツである。

見る者を圧倒させてしまうほど美しく整った顔立ちであるクウォーツのことが気に食わないのか、
セイファはどことなく忌々しそうに彼を睨み付けると、そのまま足音を響かせて去っていく。




「い、一体なんなんでーすの? クウォーツの偉そうな態度がセイファ王子の気に障ったのかしら」
「……さてね」

素っ気無く答えるクウォーツと、セイファの後ろ姿を交互に見比べながらリアンは首を傾げる。




「ごめんなさい、気にしないで。お兄様は、何でも自分が一番じゃないと気がすまない人なの」
見慣れた光景なのか、エルフィ姫は呆れたような笑みを口元に浮かべた。


「言いたいことは山ほどあるけれど……なんだか相手にしていると、ドッと疲れる兄君だね」
何ともいえないような雰囲気の中、ジハードは一人、溜息と共に口を開いたのだった。







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