Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」
第11章+華の都セレステール

第125話 Moonlight waltz -2-





「やあやあティエル姫、パーティはお楽しみいただけておりますかな?」


今夜のパーティのために仕立てたのだろうか。
赤い絹のマントを軽やかに翻しながら、ティエル達が腰掛けているテーブルまでセイファが歩いてくる。

勿論通りすがりにはきっちりと、ご婦人方に自慢の極上のスマイルを向けて挨拶をしていたが。




「どうです、このなめらかな絹のマント。今夜のために国一番の仕立て屋に作らせたものですよ」
ティエル達の前まで来たセイファは一度会釈をすると、クルッと優雅に回って見せる。

しかし。そもそも城にいた頃から、このパーティというものに対して退屈を感じていたティエルは、
セイファの自慢のマントには目もくれず、ただひたすら食に勤しんでいた。




「いやあ、さすがはセイファ王子殿。気品溢れる上品な赤いマントがとてもよく似合っておられますな!
これでは更にご婦人方におモテになるでしょうなぁ……」


ティエルもジハードもお世辞を言えるような性格ではないので、仕方なくサキョウが口を開く。
しかし実際赤い絹のマントは優雅な雰囲気のセイファによく似合っており、彼は嫌味なくそれを着こなしていた。

ちなみにジハードはテーブルに頬杖をつきながら、退屈そうに大あくびをしている。




「それにセイファ王子殿は聡明なお方だと聞く。頭脳明晰、容姿端麗。王はさぞかしご自慢でしょう」

「ハハハ……僧侶殿、あなたはなかなか分かっておられる。今夜は本当にご婦人方のお相手で大変ですよ。
できるなら、あの青緑の髪をした美しい女性に是非とも言って頂きたかった言葉ですがね」


サキョウの言葉に満足そうに頷いたセイファは、肩をすくめながら軽い笑みを浮かべた。




「そうそう……後ほど、僕が狩りに出かけた時に捕らえた大変面白い物をお見せいたしましょう。
きっとあなた方にも気に入っていただけるかと思いますよ」

セイファはそう言いながら額にかかる柔らかな金髪をそっと払い除けると、
先程からもぐもぐとフルーツを食べることに専念しているティエルへ顔を向ける。




「姫、頬に食べかすがついておりますよ。やはりメドフォードの姫君は、噂どおりの山猿……おっと失礼。
確か姫は剣を学んでおられるとのこと。あまり感心のできないご趣味ですねえ」



「失礼なら言わなきゃいいじゃないの! ……あなた、さっきから本当に嫌味な……」




「……半死半生のハーピーを広場で見世物にしているのも、あまり良い趣味とは言えないけれどね」
思わずテーブルに手をついて立ち上がったティエルを制し、実にやんわりとジハードが口を開く。

どこか刺のある口調や内容に反して、ジハード本人はまるで天使のような笑顔を浮かべていたが。




そんな調子の物言いであったので、セイファは暫しの間言葉の毒に気づかなかったのだが、
やがて薄い笑みを浮かべつつ明らかに怒りの表情でジハードを見下ろした。

「ほう? これはこれは……若いながら見事な白髪でおいたわしい。不幸事でもあったのですかな。
そしてその額の青い札は、何か異国風の冗談でしょうかね? 確かに大変愉快ですが」



「おや、そうかな? けれどこの白髪は生まれた時からの天然物なので、心配は要らないよ」



セイファの嫌味にも表情一つ変えることはなく、ジハードは穏やかな口調で言葉を返す。

落ち着き払った彼の態度に不満なのか、暫くセイファは何か言いたそうな顔つきをしていたが、
やがて綺麗に着飾った婦人達の集団が目に入ると、踵を返して立ち去って行った。





「……」
セイファが去った後でも、ティエルとサキョウは呆気に取られたような表情でジハードを眺めていた。


「……ジハードってさ、何だかすごいよね」




「え? どうしたんだい二人共。そんな顔をしながらすごいとか言われても、何て答えたらいいんだい」
「わたし、あれだけ言われたら笑顔なんて浮かべらんない。絶対引っ叩きそう」


「まぁ、どんな性格でも相手は一応王子様でしょ? ……それに、仮にもビンタでもしてごらん。
スペルの情報を教えてもらうどころの話じゃなくなっちゃうよ」

まるで少女のような笑顔をにっこりと浮かべ、ジハードは白髪に一回手櫛を入れる。




「……それよりも。ティエルはすぐに手が出そうだから、ぼくも引っ叩かれないように気をつけなきゃね」
「ひどーいジハード。人を乱暴者みたいに言って!」


「あはは、その方が元気が良くてティエルらしいと言えばらしいけどね」
ぽかぽかと両手で叩いてくるティエルを苦笑しながら避け、ふとジハードは顔を曇らせた。




「でも、セイファの言っていた『狩りで捕らえた面白い物』が気になるね。嫌な予感がするのだけど」


「うーむ。凶悪な魔物ではないことは確かだぞ。あの王子殿は見たところ、あまり鍛えておらんみたいだからな。
そんな魔物など捕らえる事などできまい。トロルを倒したと言っているが、それもどうだか……」

うんうんと頷きながら口を開いたサキョウは、テーブルの上にあったワインを飲み干す。




「それにしても、どうもワシはこのワインという物は口に合わんよ。エルキド酒か麦酒はないものか……」
「ぼくの取り越し苦労だといいのだけれどね。エルキド酒? ぼくは白龍酒が好きだな。口当たりが良くて」

「白龍酒とは聞いたことがないなぁ……お前の故郷の酒なのか?」



「わたしはお酒よりもジュースの方がいいなー。オレンジジュース探してこようっと」
サキョウとジハードが熱心に酒の話を始めてしまったので、ティエルは席から立ち上がって歩き始めた。





四方がガラス窓に囲まれた大ホール。

きらびやかに着飾った女性や男性達が、楽しそうに談笑しているのが見える。
今夜のパーティは、どうやらセイファが狩りで捕まえたという『面白い物』を公開する為のものらしい。


勿論ティエル達は旅の服装のままなので、このパーティの集団の中では非常に浮いていた。
『メドフォードの王女』と正式に紹介をするというエルフィの申し出を、ティエルはやんわりと断ったのだ。




世間では死亡した扱いになっているメドフォード王女であるのだ。
いつか国に戻るその日まで、『王女が生きている』ことはあまり知られない方がいいと思ったからであった。

それに、いつ、どこで、ヴェリオルの耳に入るか分からないのだ。
ゾルディス勢には絶対に居場所を知られたくはない。このセレステールに迷惑がかかるかもしれないのだ。




「あら? こんなみすぼらしいお嬢さんが紛れ込んでましてよ」

「先程セイファ様とお話していたようにも見えましたけど……一体どんなご関係なのかしら?」
「ほんと、どこの馬の骨かしらね? でもセイファ様は、あんなお嬢さんなんて相手にしませんわよ」



わざとらしく聞こえてきた陰口に心底ムッとしたティエルだったが、突然驚いたように表情を崩す。




「……ふん。ベラベラと品性疑われるような陰口を大声で話しているのもどうかと思いますわよ」

小指を立てて笑いながら、リアンがこちらに向かって歩いてきたのだ。
その言葉に表情を強張らせた女性達だが、特にそれ以上ティエル達に何も言わなかった。




「リアン! 今までどこにいたの?? ……クウォーツを全然見かけないんだけど、一緒じゃなかったの?」


「……あんな男の事なんか知りませんわよ。何で私がクウォーツと一緒にいなくちゃいけないんですの!」
ティエルの前まで歩いてきたリアンは思い切り不機嫌そうに顔をしかめる。何かあったのだろうか。

「根性ひねくれまくったクウォーツに比べたら、自意識過剰のセイファ王子の方がまだマシでーすわ」




「えー? セイファ王子のことが好きなの?? さっきからリアンのこと探してるから、行ってあげれば?」
唇を尖らせながら言うティエルに、リアンは数回だけ目を瞬き、それから軽く笑いを吹き出した。


「やーだ、冗談じゃないですわよ。私には既に、心に決めた方がいるんですもの」




「心に決めたひと!? うそ、リアン、好きなひといるんだ!? ねえねえ、そのひとどんな人??」
リアンの言葉にかなり驚いた様子で、ティエルは興味津々といった様子で彼女に詰め寄る。

「でもリアンが好きになる人だもん、きっと素敵な人なんだろうね」




「……ええ」
どこかほんのりと頬を赤らめながら、リアンは珍しく照れたように笑みを浮かべて見せた。

「言葉なんかでは言い表せないほど素敵な方ですわ。優しくて、こんな私を気にかけて下さった……」




──その時、騒がしかった会場が急に静まる。
見てみると、近衛兵に囲まれたセレステール王、バルバロ四世がホールへと姿を現したからだ。

数人の貴族達に挨拶らしきものをしていたバルバロ王は、離れた所にいるティエルの姿を発見すると、
人の良さそうな笑顔を浮かべながらこちらへ歩み寄ってきた。







+DeadorAlive+