Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」 第2章+旅の幕開け


第13話 H U N T I N G -1-





イーストビレッジ。


濃い色をした煉瓦造りの家が建ち並ぶ、お洒落な雰囲気漂う町である。

ここはベムジンへ参拝しに行く旅人が比較的多く集まる町で、
長い旅の間に色が褪せてしまった外套を羽織った旅人達が行き交っていた。


なによりも、ティエルは今までメドフォードの城下町しか見たことがない。
城下町とは違った煉瓦の町並みに、人目をはばからずに思わずキョロキョロと辺りを見回していた。



「わぁーっ、煉瓦の家だ! すごい、綺麗! こんなの本でしか見たことがないよ……!」


「……あなた、今までどんな生活してきたんでーすのよ。自分の町から出たことなかったんですの?」

飛び跳ねているティエルの後ろを歩きながら、リアンが呆れたような口調で呟いた。
すれ違う通行人達は、ティエルの大声に一体何事かと振り返る。


その様子を見たリアンは穴があったら入りたいといった様子で、恥ずかしそうに顔を赤くしていた。



「ねえ、お願いだからちょっとおとなしくして下さいな。あなたの声はただでさえ大きいんですから」
「あ、ごめん。わたし今まで自分が住んでいたところから出た事なくてさ」

クルリと振り返ったティエルは、申し訳なさそうに両手を合わせる。
その仕草がどことなく面白くて、苦い顔をしていたリアンも笑みを浮かべたのだった。


「自分の町から出た事なかったのに、いきなり旅を始めるだなんて……ちょっと無謀じゃなくて?」

「うーん、ひとにはそれぞれ理由があるのよ」
一瞬だけ寂しげな表情になったティエルは、ぱっとすぐに表情を戻す。



「それにしても、世界にはこんな色々な人たちが生活しているんだね。わたし今まで何も知らなかった」


「これだけ人間がいるんですから、一人や二人美男子が声をかけてきても不思議じゃないんですけどね。
……ま。こんな小さな町に、この私のお眼鏡に適ういい男がいるとは思えませんけど」

すれ違う旅人達を眺めながら、リアンは軽く髪の毛を払いのけた。



「リアンは黙っていればすごく可愛いよね」
「私は黙っていても喋っていても美人ですわよ、失礼でーすわねえ」

ようやく落ち着いてきたティエルの隣をゆっくりと歩きながら、リアンはブスッと頬を膨らませる。


「私よりも強くていい男なんて、そうそう見つかりませんわ。心もとびっきりのいい男でなくちゃ。
……あっ、先に宿屋に行きません? ティエルの靴擦れも手当しなきゃ。賞金首探しはそれからですわ」

「はーい賛成! ……ところで宿屋ってなんだっけ?」









この時期は季節的にベムジン寺院への参拝者が多いので、宿屋が満室の場合も多い。
早い内に予約をしておくのが、賢い冒険者のやり方なのだ。

やはり四軒ある宿屋のうち、三軒が既に満室であった。


リアンはティエルに簡単な宿屋の説明をしてやりながら、最後の宿屋へと向かっていた。
そして宿屋の前に辿り着いたとき、その建物の異様な雰囲気にティエルは眉をひそめる。

先程の三軒は、入口付近に大勢の冒険者達が立ち話をしながら陽気な笑い声を上げていたのだが、
ここは閑散としていて、どことなく寂しい印象を受けた。



「……なんか、おかしいよね。ここ」

暫く建物の前で立ち止まっていたティエルは、静かにリアンを振り返る。
リアンも雰囲気の違いに気付いたのか、首を捻りながらも宿屋のロビーへと歩いて行った。


「ちょっとー、誰かいないんでーすの?」


ガランとしたロビーに、リアンの声が響き渡る。
そして暫く経ったのち、奥の方から窶れた白い髪の男が姿を現した。

「おや、お客さんかい? ハンター以外のお客さんは、嬢ちゃん達で今日最初だよ」



「……わたし達で最初の客? さっきまでの三軒はみんな満室だったのに、どうして?」
背後で異様な雰囲気に眉をしかめているリアンを一瞥し、ティエルは宿屋の主人に問いかけてみた。


「ああ……噂が広まるのは早いからね。この宿のとある部屋に泊まった客が、三週間連続殺されたんだ。
朝食の時間になっても起きてこないからおかしいと思って、様子を見に行ったら……」

そこまで言いかけて、宿屋の主人はハッと口を押さえる。



「……おっとすまない、こんなお嬢さん方に話すような事じゃなかったな。気を悪くしないでほしい。
こんなことになっても営業をやめないのは、殺人犯に対するせめてもの抵抗だよ」


「なんだか血生臭いお話ですわね。ティエル、次の町まで頑張れます?」

ゾッとしたリアンは、ため息をつきながらティエルに話しかけた。
しかしティエルは何か考え込んでいるかのように押し黙っている。


それからポン、と手を打って顔を上げると、宿屋の主人に歩み寄って行った。


「ねえ、違う部屋ならいいんじゃない。その例の部屋以外に泊まれば問題なしだよね?」



「ティ、ティエルーっ! 何言ってるんですのよ、正気ですの!? 人が殺されたんですのよー!
私まだこの若さと美貌で死にたくないでーすわ!」

ティエルの思わぬ発言に、リアンは飛び上がって彼女の肩をガシッと掴む。

てっきりティエルは自分以上に怯えていると思っていたのだが、案外彼女はさほど気にしていないようだ。
それはティエルが筋金入りの世間知らずで、状況の恐ろしさをいまいち把握していないからであるが。



「だ、だから、その殺されちゃう部屋に入らなければいいんでしょ? それに……この人可哀相だよ」
リアンにガクガクと揺さぶられながら、ティエルは何とか言葉を発した。

「リアンだってさっき言っていたじゃない、賞金首捕らえたいって」


「うう……確かにここまで騒ぎが広まっていれば、ギルドが黙っていないですけど」
ようやくティエルの肩から手を離したリアンは、顎に手を当てながら宿屋の主人を振り返る。

「……そいつ、賞金かかっているんでーすの?」



「勿論だよ。賞金額105万リン、この町で一番の賞金首さ。現行犯で仕留めないと駄目だがね」
「105万リン!?」

疲れ果てたようにソファーに腰掛けた男は、投げやりな様子で肩をすくめた。


「やって来る奴は全部ハンターばかり。こんなんじゃ普通の客も寄りつこうとしない。
しかし例の部屋に泊まって無事だったハンターはいないよ」



「ふーん、犯人は何でその部屋に執着するのかな? ねえ、リア……」

首を傾げながら隣のリアンに視線を移したティエルだったが、思わずギョッとする。
完全に目の据わった彼女は口の中でブツブツと低音で105万、105万と呟いていたのだ。


「あ、あのー……リアン?」

「105万リン! 私達がゲットしてやろうじゃないでーすのっ!! 
その許すまじ連続殺人犯、105万リンのため……でなく、人々の平穏な暮らしのために倒しますわよ!」



「ハッハッハ! べっぴんさん、威勢だけはいいな」
鼻息荒くリアンが叫んだとき、奥の方の廊下からハンターらしきガラの悪い男達が歩いてきた。

「悪いが賞金首はプロのハンターであるオレ達のモンだ。ガキはミルクでも飲んですっこんでな。
まぁ、姉ちゃん達が酒のお相手してくれるっつーんなら、1万リンくらいは恵んでやってもいーぜ?」


「うわわ、私が一番嫌いな野蛮な男でーすわ」
気分悪そうに顔をしかめたリアンを一瞥し、思わず頭にきたティエルはハンター達の前に進み出る。

「……ミルク飲んでるのはあなた達の方よ。今の言葉絶対に後悔するからね!」


「おおぉ〜?」

顔に大きな古傷を持った大男は、目の前に立ちはだかるティエルを面白そうに眺めた。
上から下まで、観察するように。


「こっちも随分と威勢のいいガキだな。そうだなぁ、後悔させてくれよ是非な」
ガハハハ、と笑い声を残すとハンター達は宿らから出ていった。



「……と、いうことでわたし達も泊まるから」
ティエルの行動に唖然としているリアンと宿屋の主人に向かって、彼女はきっぱりそう言った。






+DeadorAlive+