Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」 第2章+旅の幕開け


第14話 H U N T I N G -2-





日も暮れ、町にぽつぽつと明かりが灯り始めた。
冒険者達の集まる店のあちこちから、食欲をそそる香りが風に乗って流れてくる。


「もー、さっきのティエル! 信じられないでーすわ、あんなガラ悪そうなハンター達に言い返すなんて」

フォークとナイフを華麗に操りながら、リアンが呆れたようにそう呟いた。

ティエルとリアンはとりあえず殺人騒ぎのあった宿に泊まることになった。
靴擦れのティエルのために薬草やら色々と必要な物を買いそろえ、手近なレストランに入ったのだ。



──そして、今に至るのである。


「へ、なんで? ただ単に腹が立ったから言い返しただけだよ」

こちらは、これが元王女であったのかと疑いたくなるほど怪しいナイフの扱い方を披露しながら、
ティエルはサラダを切り刻んで口に入れる。


「リアンはあそこまで言われて怒らなかったの? 本当は、もっと言ってやりたかったんだけど」



「うう……確かに怒りましたけど、言い返すと後々面倒じゃないでーすの」
誰に対しても物怖じしないティエルの性格を、この時リアンは嫌というほど思い知らされたのである。

「もっと賢いやり方は、殺人犯が現れた時どさくさに紛れて一発か二発殴るんですのよ。ホホホ。
てゆうか見てらっしゃい腐れハンター、この私の超魔法をお見舞いしてやりまーすわ」



「……リアンの方がよっぽど、信じられないほど図太い神経してると思うけどねえ」
「何か言いましてティエル!?」

「あう、なーんも」


リアンに睨まれながらも、ティエルは心の底から笑った。

──こんな風に同じ目線で話しかけてくれるのが嬉しかった。
『王女』であった頃は、いくら親しみやすいティエルであっても、誰もが一線を引いて彼女と接していた。


リアンは間違いなく、『王女』や『賢王ミランダの孫』としてではなく、『ティエル』として見てくれているのだ。



急にクスクスと笑い始めたティエルに、リアンは赤い瞳を瞬いて首を傾げる。

赤い瞳は確かに不吉なものとして伝えられているが、ここは古いしきたりに縛られた村ではない。
様々な人々が行き交う町なのである。


……第一そうでもなければ、瞳を隠すこともなく旅を続けられるはずがない。

しかしリアンにも今までの人生色々と辛いこともあったのだろう。
そんなことを微塵も見せずに明るいリアンを見ていると、自分もしっかりしなくてはとティエルは思う。



本来であったならば、二度と笑顔を浮かべることができなくなるくらい凄惨な体験をしたのだ。
それも10年や20年の昔のことではない。つい──1週間前の出来事なのだ。

そんな自分が今こうして自然に笑顔になれる大きな理由の一つは、リアンがいるからでもあった。



「おーう、どっかで見たことがある姉ちゃん達だと思ったら、昼間の命知らずなガキ達か」


聞き覚えのある声。

丁度食事が終わったのかゾロゾロと席を立った集団は、同じ宿に泊まるハンター連中だった。
リーダーらしき顔に大きな傷がある大男は、ティエルの顔を覗き込んでニヤッと笑う。


「てっきり尻尾巻いて逃げちまったかと思ったぜ。本当にあの宿に泊まる気なのかい?
命知らずというか、勇気がある姉ちゃんというか」


「あそこまで言って、今更逃げる気にもなれないよ。わたしはティエル、姉ちゃんじゃない」

軽く口の周りを拭うと、ティエルは顔を上げて男をキッと睨み付けた。
そのあまりにも真っ直ぐな瞳に少々毒気を抜かれてしまった男は、大きな手をポンと彼女の頭に乗せる。


「その威勢のよさは気に入ったぜ。オレの名前はファング。ここらでは有名なハンターさ、覚えておきな」
ファングはそう言うと、仲間達を引き連れてレストランから出ていった。



「なんか、意外に優しい顔してましたわね。あのファングって男」
彼らの出ていった扉を暫く眺めていたリアンが口を開く。

「でも、私の嫌いな野蛮な男には変わりないでーすわ」


「……うん、そうだね」
優しく頭の上に置かれた大きな手の感触に、ティエルはどことなく懐かしい気持ちに駆られながら頷いた。









宿屋に戻り、ティエル達に宛われた部屋は、例の事件があった部屋の右隣であった。
おそらく例の部屋にはファングや他のハンター達が泊まっているのだろう。

「いいかい、危険なことは頼むからやめてくれよ? ハンターの言うことをよく聞いて……」
と、渋々ティエル達の部屋まで案内した従業員は何回もそう繰り返していた。



「ねえ、リアン」


ゴロンとだらしなくベッドの上で寝転がっていたティエルは、髪を梳かすリアンに向かって声をかけた。
どうやら枝毛を発見したリアンは、それをナイフでちょんと切る。

「嫌ですわ、旅をしてると髪が痛んで。私の自慢の髪に枝毛なんて……って、何か呼びまして?」
鏡に向かってブツブツと悪態をついていたリアンは、ティエルの声に気付いてやっと振り返った。



「別に大したことじゃないんだけどさ。……犯人今日も現れるかなあって。
そもそも何の目的があって、あの部屋に泊まった人たちを殺しているんだろう……」

ぼんやりと天井を眺めながら、ティエルは静かに目を伏せる。
「死ぬのって、痛いんだよね。苦しいんだよね。わたし……犯人に何でそんなことをするのか聞きたい」


「……あなたは純粋すぎるんですのよ」


リアンはそう言いながら、ティエルの頭をよしよしと撫でてやった。
ぐしゃぐしゃになった髪を、ティエルは苦虫を噛み潰したような顔で整える。

「犯人はこの私がバッチリとっちめてやりますわ、あなたは剣を握ることだけを考えて。
私だって無敵じゃないんでーすのよ。……背後を守ってくれる剣士様が必要なんですの」


「……うん」
その言葉にどことなく安堵感を覚えたティエルは、深い眠りに落ちていった。









──深夜。


「で、出たぞ──っ!!」

耳をつんざくような大声と、バタバタと廊下を乱暴に走る足音でリアンは思わず飛び起きる。
どうやらお出ましのようである。


ガシャンと何かが割れる音と、男の怒鳴り声が辺りに響き渡っていた。


「ちょっと、ティエル行きますわよ。ハンター達に後れを取っていいんでーすの?」
右手に愛用の杖を持ち、左手で未だ眠り続けるティエルの頬を軽く叩く。

「う、うぅ〜ん……ゴドーあと五分……」

「何がゴドーなんでーすのっ、私はそんなゴッツイ名前じゃなくてよ!!」
ガバッと毛布をめくり上げると、リアンはティエルの両肩を掴んで強く揺さぶった。


「賞金105万リンが現れたんでーすのよ、早く剣持って倒しにいきますわよ!」



「あ……あれ? リアン、おはよう……そうだったね、賞金賞金……」

やっと目を覚ましたティエルは、ノロノロとした足取りで剣を掴んで扉を開ける。
その途端、扉に寄りかかっていたと思われる何かが、ドサリとティエルの足元に倒れてきた。


「なんだろう、これ。リアン……何かが倒れてきたよ……?」
寝ぼけ眼でそれを一瞥したティエルは、ガクガクと震えているリアンに向かって指し示す。

そしてもう一度、今度はしっかりと倒れてきた何かに視線を移した。



「あ……こ、これって……!!」

ティエルの足元に倒れてきたのは、昼間ティエル達をからかったハンターの一員である。
全身を鋭い爪で切り裂かれ、見るも無惨な姿となっていた。この分では恐らく息はないだろう。


「あんまり見るんじゃないでーすわ、とりあえず廊下に出ますわよっ」

呆然としているティエルを突き飛ばすようにして廊下に出たリアンが見たものは、
そこら中に倒れているハンター達の姿。



「あ……ありゃ化け物だ、オレ達が勝てるわけねえよ……オレはまだ死にたくねぇ!
105万リンのはした金のために、命を捨てたくねぇよ!」

これもまた、見覚えのあるハンターが例の部屋から飛び出して来た。
彼も相当深い傷を負っていた。


「さあ、どうしますティエル? 逃げるか戦うか。命に比べれば105万リンなんてはした金ですわよ」


ちらり、とリアンは返答を求めるようにティエルを一瞥した。
その視線に彼女は暫く迷ったように瞳を泳がせていたのだが、

「……うわぁぁぁぁ!!」
という部屋から響いてきたファングの絶叫に、無意識のうちに剣を握りしめて例の部屋に飛び込んでいた。






+DeadorAlive+