Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」
第14章+BLACK・KNIGHTS

第150話 サバス・コレクション





「きゃーっ、かなり大きな町ですわねぇ! ティエルじゃないですけど、新しい町はワクワクいたしますわ」
様々な格好の人々が通りを歩く大きな町に、思わずリアンは弾んだ声を発しながら隣のティエルに顔を向ける。



「うん……そうだね」

だが、ティエルは彼女らしからぬ実に暗い面持ちで言葉を返した。
そんな彼女の落ち込んだ様子を眺めたリアンは、一つ大きな溜息をつくとポンポンと優しく彼女の肩を叩く。


「……サキョウのことなんですのね。けれどあなたがこんなに暗くちゃ、彼が帰ってきた時にびっくりしますわよ」
「うん……」




エルキドを離れて一日が過ぎた。

突然来襲した悪魔族・死神ミカエラによって愛する者達を惨殺されたサキョウは、
ティエル達がエルキドを離れる日ですら姿を現さなかった。あの日、雨の中墓地で会った以来である。


「こんな状態で、大したお構いもできなくてすまんな」

「またエルキドに来て下さいよ! その時にはオレ、サキョウ先輩やトガクレ師範代を支えられるような、
皆をしっかりと守れるような……強い男になっていますから。いや、必ずなります!」



港にはトガクレと、そしてジハードの治療によってすっかり回復したコウが見送りに来てくれていた。
船がエルキドから出港する際に、ティエルはトガクレから淡い紫色に輝く水晶玉を受け取ったのだ。


サキョウから渡して欲しいと頼まれたそうだ。




それはイデアの失ったスペルのうちの一つ、宵闇のスペルであった。これで二つが集まったのである。
しかしそれとは裏腹に、ティエルの心は全く晴れなかった。

エルキドを離れる前にサキョウの顔を一目見たかったのだが、それも叶わずに終わってしまったのだ。
どんどんと離れていくエルキド港を見つめながら、ティエルは一人、声を殺して泣いたのだった。





──そして現在。彼女達は新たな町にいた。

イデアへ新たに浮かんだ地図は、ここ大都市カーソンである。この町に次なるスペルがあるのだろうか。
エルキドから乗った船が到着した港町から、ずっと東に行った所に位置する町だ。

普段なら町に着いた途端にはしゃぎ出すティエルなのだが、到着してから依然黙ったまま歩き続けている。
それを見かねたリアンが、先程からずっとわざとらしいほど明るい声でティエルに話しかけているのだ。




「ねえねえティエル、見てご覧なさいな。ほら、あなたの好きなアップルパイの店がありますわよ!」

リアンの指さす先には、甘く酸っぱい香りが漂ってくるパイの露店があった。
店の前は小さく広場になっており、可愛らしい椅子やテーブルが並べられていた。


そこには香ばしいパイやコーヒーを前に談笑している者達が多く集まっているのが見える。




「ちょっと歩き疲れましたし、あそこで一休みしましょうか。ね、そうしましょ。それがいいですわ!」
やはり黙ったままのティエルにリアンはニッコリと笑いかけると、背後で歩いている男二人を振り返った。

「ねえジハード、クウォーツ。そろそろここらで一服しませ……ん!?」




「二人共かっこいいねー、あなた達この町は初めてでしょ? それだったら、あたし達が案内してあげるわよ」
「男二人で歩いているより、私達みたいな女の子と一緒の方が楽しいよー」

背後で歩いていたはずのジハードとクウォーツは、なにやら二人連れの女性達に呼び止められているようだ。
勿論クウォーツは素知らぬ顔をしているので、全てジハードが応対していたのだが。


「ねー、あっちの青い髪のお友達も一緒にさぁ。面白いところ沢山知ってるからさ、どう?」
どうやら、逆ナンパに引っかかっているようである。女性二人はいずれも遊び慣れた雰囲気であった。




「え? ああ……その申し出は嬉しいのだけれど、ぼくらは観光に来ているわけではないんだよ」

困り顔のジハードが相手の気分を害さないように言葉を選びながら、なんとか丁重に断ろうとしている。
クウォーツの方は相手にもせず、そのままスタスタと歩き始めてしまっていた。


「だから本当に申し訳ないのだけど……ってちょっとクウォーツ待ってよ!? 先に行かないでったら!」



「まったくジハードっ、一体何してるんでーすの! ナンパにいちいち足を止めて応対しないで下さいます!?」
クウォーツと入れ替わりに、頬を膨らませたリアンが大きな足音を立てながらやってくる。

「あなた達も、ナンパは間に合ってますから! ……それとも私も一緒に行こうかしらね?」


「え? なぁんだ、女連れだったのぉ?」
「つまんないの。次いこ、次」

鬼のような形相のリアンにキッと睨まれた女性二人は、口々に文句を言いながら去って行った。




「いやあ、さすがだねリアン。助かったよ」
「さすがだねじゃありませんわよ……ああいう人達には、はっきりと言ってやらないと駄目なんですの!」

のほほんとした笑みのジハードを前に、リアンはがっくりと肩を落としたのであった。















「イデアに映し出された地図を頼りにここまで来たけれど……一体この町のどこにスペルがあるんだろう」
溜息をついたジハードは、目の前に置かれたいい香りのするコーヒーを眺めつつ口を開いた。


「手がかりが何もない今は、焦らず気長に情報収集をした方がいいかもしれないね」



「情報収集ねえ……まさか通行人にイデアのスペルはどこかなんて聞くんですの? 気が遠くなりそうですわ」
香ばしいブルーベリーパイを上品に口に運びながらリアンが言う。

隣に座っているティエルは、ぼろぼろとパイの破片を落としながら沈んだ表情でそれを食べている。
落ち込んでいても、やはり食欲はあるらしい。




その時、新聞を買いに出ていたクウォーツが片手にそれを持ちながら席へと戻ってきた。


「……案外、すぐに見つかるかもしれんぞ」
そう言いながら彼は新聞を広げ、とある記事を指さす。そこには黒い服を着た集団の写真が印刷されていた。

記事の端の方には、見るからに成金趣味の肥えた男の写真が写っている。



「ミスターサバス・コレクション明日から開催……? この男がサバスかしら。で、それがどうしたんですのよ」
「阿呆、もっとよく読め」


写真にざっと目を通しただけのリアンを軽く睨み付けたクウォーツは、長い爪の先で記事の一文をなぞった。



「例年通り珍しい財宝に加え、今年は封魔石関連もコレクションに入っているという噂らしい。
会員制で行われているこの催しは、サバスという町の実力者の珍しいコレクションを会員に売りつけていると」

「……もしかしたら、そのサバスって人のコレクションの中にイデアのスペルがあるかもしれないってこと!?」


今まで黙ってパイを食べていたティエルが突然口を開いた。口の周りには大量の食べかすがついているが。
大好物のパイを口にしたことで、先程よりは元気が戻ってきているようである。




「その可能性は高いね。だって、イデアがこの町を映し出したのは……ここにスペルがあるからでしょ?」
心地よい陽気に目がとろんとしているジハード。このままでは寝入ってしまうのも時間の問題であろう。

「けれど会員制なんだろう? 明日までにどうにかして会員になる方法を考えなくちゃね」




「うーん……このテのものは、案外ダフ屋で買えることが多いんですのよ。勿論、高額な代金と引き換えにね」
リアンは口の周りを汚したティエルにハンカチを手渡すと、もう一度記事を最後まで読んでから手を打った。

「私が今日中にダフ屋の居場所を突き止めますわ。そのコレクションっていうのは、明日の深夜からなんでしょ。
もしもコレクションの中にスペルがあれば、あとはサバスという男を脅して安く買い取るだけでーすわ」



「……リアンがダフ屋の居場所を突き止めるの?」
彼女の言葉に思わず目を瞬いたティエルは、それから心配そうな眼差しでリアンに顔を向ける。


「そういうことは私に任せて下さいな。あなた達もエルキドで色々とあって疲れているでしょう?
ホテルにいるなり町を見物するなり、今日はゆっくりと休んでいて結構よ」

形の良い自慢の胸を反らしながら、リアンは心配するなと笑顔を浮かべた。
しかしティエルはまだ納得がいっていないようで、リアンから借りたハンカチを握り締めている。




「ダフ屋というのは、結構危険なところにある場合が多いと聞く。あなた一人では行かせられないよ」
飲み慣れない為なのか、ジハードは熱いコーヒーを苦そうに顔をしかめて飲みながら彼女を見た。

「ぼくも一緒に行こう」



「やーだ、ジハードったら私の強さを甘く見てますわね。心配ご無用。一人でも大丈夫ですわ」
無理矢理一人で締めくくったリアンはガタガタと音を立てながら席を立つと、彼女達に背を向けて歩き始める。

「それじゃ、ホテルで部屋取っておいて下さいね。夜までには戻りますから、夕飯も先食べておいて下さいな」




「え? ねえ、リアン……この町ホテル沢山あるみたいだけど、わたし達が予約するホテルが分かるの?」

さすがに大都市だけあって、ここにはホテルが数多く存在する。
どのホテルに部屋を取るか決めていない今、リアンは全てのホテルの名簿帳を見るつもりなのだろうか。


それに気づいたティエルは慌ててリアンの後を追おうとするが、既に彼女の姿は見えなくなっていた。




「あーあ、行っちゃった……リアンったらどうするつもりなんだろ」
「それならば、できるだけ分かりやすいホテルにしたらいいよ。ほら、あそこに見える大きな所とか」

がっくりと項垂れているティエルとは裏腹に、実にのんびりとした雰囲気でジハードが指をさす。
その方向には、20階はあると思われる大きなホテルがそびえ立っていた。

これならリアンも一番初めに探してくれるだろうか。




「うっわー、こんな大きなホテル見たことないよ……お城みたい。なんだか宿泊代が高そうだなぁ」
席に戻ってきたティエルは、少し落ち着かない様子でそれを見上げてみた。

「でも確かに滅茶苦茶目立つかもね。よーし、今日の宿はあそこにけってーい!」







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