Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」
第14章+BLACK・KNIGHTS

第156話 BLACK・KNIGHTS -1-





大都市カーソンを裏で牛耳る実力者ベイダ=サバスはソファーに深く腰を下ろし、グラスを傾けていた。


黒髪をしっかりとオールバックにした、でっぷりと肥えた男。口元には細いひげを生やしている。
まさに成金趣味を絵に描いたようなその男は足を組みながら、目の前に座る客人に顔を向けた。

客らしき者が座っている場所は丁度影になり、その姿をよく確認することができない。




「……で、黒騎士殿。わざわざこんな所までお越しとは……一体何の御用ですかな?」
ワインの香りを楽しみながら、サバスは口元を歪めながら言葉を発した。

「ゆっくりとお話を伺いたいが、今夜は大切な催し物があってね。まぁなるべく手短に頼みますよ」




「ミスターサバス。我々の用件は、今夜のサバス・コレクションに関係しているのですよ」
ボソリ、と低い声が発せられる。黒兜を身に付けた騎士風の格好をした若い男の声だ。


「あなたが今回出品される物の中には……封魔石イデアのスペルも含まれていると聞きましたが」



「イデアのスペルかね? あれは偶然手に入ったものでしてな。呪いを解く力があるといわれているらしいが、
生憎私には解きたい呪いというものがないですよ。物好きな貴族連中に高値で売ってしまおうと思いましてね」

特に興味がなさそうに、サバスは指輪だらけの手に持ったパイプに口を付ける。



「それがどうかいたしましたかな? スペルがご入用ならば、特別にお譲りしても構わないのですがね」

「……いえ、我々が求めているのはスペルではなく……」
抑揚のない口調で声を発した騎士風の若い男は、一度間を空けるとしっかりとした声で言った。


「そのスペルを求めてやってくる者達が欲しいのですよ。これがその者達の顔写真です」




「ほほう? それはまた興味深いお話ですな。それで、この私に一体何を手伝えと……?」
笑みを浮かべて身を乗り出したサバスの前に、背後に立っていた騎士が大きな袋を放り投げる。


「その者達が会場に現れたら、捕らえる許可を頂きたい。できれば詳しい話は聞かないで欲しいのです。
……これはほんの礼ですよ。ミスターサバス、あなたは悪魔族の死体コレクターだとか」



黒騎士の言葉にパイプを口から落としたサバスは、ゴクリと生唾を飲み込むと大きな麻袋の中を覗いた。

中には、殺されてから間もない美しい女の死体。断末魔の表情でさえ、悪魔族独特の美しさを保っている。
死しても尚、艶かしさを感じさせられる死体に、サバスは震えながら口を開いた。


「ほう……これはこれは……これ以上にないくらいの品ですな。やはり悪魔族は死しても美しい……」
極度の興奮のために、どこか声が掠れてしまっている。

「いいでしょう、分かりました。ご自由に捕獲でもなんでもして下さって結構ですよ」



「ご協力感謝いたします、ミスターサバス」
麻袋から取り出した全裸の死体に触れているサバスを眺めながら、黒兜の青年はギュッと拳を握り締めた。


(もうすぐだ……もうすぐあなたに会うことができる……!)





**********





封魔石イデアのスペルの情報を求める為に、サバス・コレクションへ参加する会員証を手に入れたティエル達。

サバス・コレクションとは、サバスという町の実力者の珍しいコレクションを会員に売りつけている催しなのだ。
彼のコレクションの中にイデアのスペルがあるのかは分からない。しかしスペルは確かにこの町にあるはずだ。


ほんの少しの可能性であっても、手がかりがない今はそれを信じて進むしかない。




サバス・コレクションは夜9時から開催するので、それまでの間ティエル達は銘々に時間をつぶしていた。
ティエルとリアンは買い物に出かけ、クウォーツは部屋で読書を、ジハードはいつものように眠り続けていた。

──そして、夜が来た。




「いいですわね? サバス・コレクションが開催される会場ではおとなしくしているんですのよ。
あまり目立った行動をしてしまいますと、ガードマン達に睨まれて外に連れ出されてしまいますからね」


サバス・コレクションの会員証を握り締めながら、リアンは部屋に集まった一同をぐるりと見渡した。



ジハードは会員証に付属していたパンフレットを眺めながら、鈴の腕輪が欲しいなぁなどと言っている。
一方ティエルは、会員証に記載されている注意書きの難しい単語の意味をクウォーツに聞いているようだ。

サキョウがいない今、しっかりと皆をまとめなければならないのは自分だと固く誓ったリアンは、
そんな彼らの状態に深く溜息をつく。




「ちょっとあなた達、聞いているんでーすの? 本当にこんな調子で大丈夫かしら……」


「大丈夫大丈夫、きっとすぐにスペルを手に入れることができるよ。
物事は少しぐらい気を抜いてから挑んだ方が、何かとうまくいくものなんだよ。なぁんてぼくの持論だけどね」

実に気楽な調子で微笑みを浮かべたジハードは、ぱたんとリグ・ヴェーダを閉じて立ち上がった。


「じゃ、そろそろ行かない? 三つ目のスペルを求めていざ出発ってね」





パンフレットに記載されている地図を頼りに薄暗い路地裏を歩き続けていたティエル達だったが、
やがて黒の礼服に身を包んだ紳士淑女達の姿をちらほらと見かけるようになる。



……オレンジ色の街灯が点々と続く狭い路地裏の行き止まりに、その扉はあった。


黒く頑丈な扉の両脇には、同じく黒いスーツに身を包んだ大柄な男が二人、周囲に目を光らせている。
その中の一人と目が合ってしまったティエルは、思わず気の抜けるような笑みを浮かべてしまった。

クウォーツ以外の場違いな服装の彼女達に気づいた黒スーツの男が、怪訝そうな顔つきで歩み寄って来る。




「おいおい、貧乏人がこんな場所に何の用だ? ここは金持ちしか入れないんだよ、さあ早く帰った帰った」
「貧乏人ですって? ふふん、おバカさん。その目でよーくこれを御覧なさいな」


片手を腰に当てたリアンは、胸元からサバス・コレクションを取り出して男達に見せ付けた。



「げっ!? な、何でこんな奴らが持っているんだよ」
「こ、これは失礼いたしました、どうぞ中へお入り下さい。そろそろサバス・コレクションが始まりますので」

会員証を見た男達は慌てて頭を下げると、さっと入口への道を譲る。
それを満足そうに眺めたリアンはティエル達に顔を向けると、行きましょうと目で合図を送った。




扉を開けて中に入ると、赤い絨毯が敷き詰められた広く長い廊下が続いている。
サバス・コレクションが始まるまでの時間を談笑でつぶしている、着飾った男女達の姿が見受けられた。


「へえー……なんだか楽しみだね。一体どんな商品があるのかワクワクしちゃう!」
天井に吊り下がっている豪華なシャンデリアに目を輝かせながら、ティエルがはしゃいだような声を発する。

「イデアのスペルが無事に手に入るといいなー。あ! ねえねえリアン、あっちの方に行ってみようよ!」



「ティエルったら、前を見ないで歩いていますと転んでしまいますわよ。もう、本当に仕方がないですわねぇ」

リアンは呆れた言葉を発しつつも、少しずつ元気を取り戻しつつあるティエルに嬉しいようであった。
一緒になって騒いでいる。




「……あーあ、二人共どんどん先に行っちゃって。会場ではおとなしくしてようって言ったのはリアンなのにね。
まぁ、ティエルも少しは元気が出たみたいで良かったけど」

リグ・ヴェーダを抱えながら、遠ざかっていくティエルとリアンの後ろ姿を眺めつつ口を開いたジハード。



「少し不安だったけど、会員証を持っていれば黒服の人達も親切だったし。特に問題が起こる様子もないかな」
「さあ、どうだかな。……気を抜いていると、何かが起こった時に対処できなくなるぞ」

抑揚のない声と同じく無表情で、クウォーツが青い前髪を払いのける。


先程から黒服達の妙な視線を感じるのだ。
彼が顔を上げてそちらを睨みつけると、黒服達は何事もなかったかのように視線を外す。




「気を付けろ、見られている様な気がする。気のせいだとは思いたいがね」


「やだなぁ、クウォーツったら自意識過剰なんだから。それはぼくやティエル達が正装をしていないからだと思うよ」
にっこりと笑みを浮かべたジハードは、会員証を取り出して座席番号を確認する。

「そろそろ始まるんじゃないかな。目立たないためにも、早いところ席に着いた方がいいよ」



「……自意識過剰とはなんだ。本当に失礼な奴め」
未だ納得できない表情のクウォーツだったが、もう一度周囲を見回してから仕方なくジハードの後に続く。




そんな彼らを、黒服達はどこか品定めをするような目つきで眺めていた。

「間違いない……ゲストの黒騎士が言っていた者達だ。五人組と聞いていたが、一人足りないようだな」
「なんだ、ただの若造と小娘達じゃないか」


「わざわざ目立つ格好で来てくれて幸運だったな。早速サバス様にご連絡を」







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