Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」
第14章+BLACK・KNIGHTS

第157話 BLACK・KNIGHTS -2-





「さあさあ紳士淑女の皆様、お待たせいたしました。これよりサバス・コレクションを開催いたします!」


水玉模様の大きな蝶ネクタイをつけた司会らしき男が、ライトに照らされた壇上に颯爽と現れた。
その途端、観客席から一斉に拍手が起こる。

座席は階段状に一列ずつ高くなっており、壇上を見下ろす形になっている。
ざっと見渡したところ二百名はいるようだ。




「レアなアイテムから、妖精族に始まり美しい悪魔族のミイラまで!
ありとあらゆる珍しい品物を揃えております。どうぞ、最後までごゆっくりとお楽しみ下さいませ!」

ワーッと上がる歓声、そして拍手。
司会者は気味の悪い笑顔を浮かべながら頭を下げると壇上から消え去った。




「悪魔族のミイラだって……そんなものまでコレクションにしてるの? サバスってひと、趣味が悪いな」


「珍しい種族は死体ですら売り物にされるんだ。ミイラなんかはまだその中でもマシな方かもしれないよ」
司会者の台詞に思わず眉をしかめたティエルの隣で、ジハードがどこか諦めたように口を開いた。

「珍しいコレクションというから、ある程度は覚悟をしてきたけれど。実際に目で見るのは嫌だな……」



「イデアのスペルが紹介されましたら、すぐに手に入れて会場を出ましょうよ」

早速紹介されている一番目のアイテムの様子を眺めてからリアンが振り返る。
一番目のアイテムは、昔どこかの王が愛用していたらしい宝石がちりばめられたガウンである。


「王様のガウンって……こんなものを一体どうやって手に入れたのかしらね」




「大方、盗まれたものが闇で売買されてサバスの手に渡ったんだと思うよ。
でもガウンを使っているのが見つかったら、捕まっちゃうんじゃないかな。盗品は買わない方がいいよ」

とジハード。


「おや、大金出してもあんなもの買う人がいるんだね」




サバス・コレクションの売買の仕方はこうである。アイテムを紹介し、購入希望者のみが壇上に集まる。
そこで、一番高い値を出した者がそのアイテムを手に入れることができるのだ。

現在もガウン購入希望者達が壇上に集まっており、司会者を挟んで商談を続けている。


購入者達が出し合っている金額は常に壇上の大きな水晶玉に映されており、
他の観客達もその様子を眺めながら売買の様子を楽しんでいるのだ。




王のガウンは現在360万リンまで値上がりしているようである。

暫く値上がりが続き、やがて壇上で若い男が諦めたように力なく頭を振った。
その前では初老の男が勝ち誇ったように笑っている。どうやらこの男が王のガウンを手に入れたらしい。




「結局400万リンで決着がついたみたいだね。あー400万リンのガウンかぁ……着るのが勿体無いよね」
固唾を飲み込みながら様子を見守っていたティエルは、水晶に拡大して映し出されたガウンを溜息と共に眺める。

「わたしはガウンよりも、400万リン分のアイスクリームが食べたいな。ストロベリーにバニラ、それから……」



「やめておきなさいな。400万リン分もアイスクリームを食べたら、絶対にお腹を壊しますわよ」
リアンは色々なアイスクリームを想像しているご機嫌なティエルを眺め、それから壇上に視線を戻す。


失われた古代遺跡の鍵、ドラゴンの骨で作られた彫刻、ハーピー族の羽。様々な商品が紹介されていく。



ハーピー族の羽が紹介された時には、さすがにジハードの表情はどこか曇っていた。
──セレステール王国で、セイファによって見世物にされていたハーピーの青年を思い出したのだろうか。

そして次の商品が紹介される。




「さーて、お次の商品は……いかなる呪いも解くことができる、不思議な不思議な水晶玉の登場です!」
赤いシートが取り除かれ、台には薄紫色に輝く水晶玉が浮かんでいた。今まで目にしたスペルと全く同じもの。

「呪いを解く効力の他に、ご覧下さいこの美しさ。どこか妖しく魔性の光を発する水晶玉でございます。
勿論インテリアにも最適ですよ! それでは購入ご希望の方は……壇上……に……?」



そこまで司会者が意気揚々に口叫んだ時だろうか。会場の至る所から紫色の煙が立ち込め始めたのだ。


煙のすぐ近くに座っていた観客達は、物言わぬまま倒れ込んで動かなくなってしまう。
壇上に目をやると、司会者もうつ伏せになって倒れているのが見えた。




「い、いきなり何なの!? あの紫色の霧を吸い込んだ人達が次々に倒れていくみたい……!」
思わず席を立ち上がったティエルは、倒れていく観客達を眉をひそめながら眺めて言った。

「もしかして毒? あの人たち死んじゃったの!?」



「大丈夫、死んではいないようだよ。……会場に霧が充満する前に逃げないと」
「スペルを目の前にして逃げるのは悔しいですけど、この場合は仕方ありませんわ!」

倒れている者の様子を調べてホッとしているジハードの隣で、リアンが壇上のスペルを見やった。
出入口付近では、観客達が詰め寄せてごった返していた。鉄の扉は固く閉ざされ、開く兆しが見えない。




「閉じ込められたな。……他の出入口を探した方がよさそうだ」
力づくでは扉を開けることができないと悟ったクウォーツが、早足でティエルらの方まで戻ってくる。

「それにしても……こんなふざけた真似をして、一体何のつもりなんだ」



そう言っている間にも霧は会場に充満しつつあり、立っている者達の方が少なくなってきているようだ。
朦朧とした意識の中、ティエル達は鼻と口を押さえながら出口を求めてふらふらと彷徨い始めた。

しかし扉という扉はしっかりと封鎖されており、段々と歩くことも困難になってしまったティエルは膝をつく。
それはリアン達も同じことのようで、地に手をついて何とか身体を支えている状態である。




(もう駄目……これ以上は歩け……ない……)




地に倒れこむ寸前、ティエルの瞳に辺りの様子が映った。立っている者は一人もいない。
あんなにも大騒ぎをしていた会場は、今では不気味なほどしんと静まり返っていた。


「畜生……」

小さくクウォーツの呟きが聞こえた。
ナイフを突き立てて意識を保とうとしたのだろうが、刺そうとしても力が入らずナイフが頼り無げに転がる。


その光景を最後に、ティエルの意識は闇へと落ちていった。





暫しの時が過ぎ。誰も動く者のいなくなった会場に、マスクをした黒服の男達が足を踏み入れる。
ぐるりと辺りを見回し、ティエル達の姿を発見するとそちらに数名が歩み寄って行った。

残った男達は倒れている観客達を座席まで運んでいく。
やがて会場は何事もなかったかの様に元通りとなった。ただ一つ違うのは、観客達の意識がないことだけである。




「おい、この者達で間違いないな。黒騎士から貰った手配書で確認しろ」

倒れているティエル達を囲むように、男達は手に持った紙に印刷されている顔と見比べる。
画像は大分荒いものではあったが、その紙には間違いなくティエル達の顔写真が印刷されていた。


「……ああ確かに間違いない。早速サバス様の元へ運び込め。黒騎士達も随分とお待ちだろうよ」

「他の観客達には、指名手配犯を捕まえる為に仕方がなかったと言い訳しておけ。
色々と騒ぎになると厄介だからな……サバス・コレクションはそのまま何事もなかったように続けろと」


「はっ、了解いたしました」















「サバス様! 例の者達を部屋に運び込みました。ご命令どおり、傷一つ付けずに捕らえております」

自室でくつろいでいたサバスは、その部下の言葉に満足そうに口元を歪める。
黒騎士からは金貨の他に、サバスが涎を垂らさんばかりに求めている悪魔の死体を譲ってもらったのだ。


『無傷で拘束する』というのが黒騎士の出した条件である。そのためにも、決して失敗は許されない。




部下の報告を受け、捕らえた者達に興味を示していたサバスは、彼らが運び込まれた部屋まで歩き始める。
地下に屋敷を構えるサバス邸は窓一つなく、煌びやかではあるがどこか陰鬱とした雰囲気を出していた。

やがて更に地下に位置する部屋まで辿り着いたサバスは、入口の黒服に目配せをすると中に入った。


灰色の壁に四方を囲まれた、飾り気のない部屋。まるで牢獄のようである。
中には、まだ薬の霧が効いていると思われる四人の若者達が地面に転がされていた。







+DeadorAlive+