Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」
第14章+BLACK・KNIGHTS

第158話 BLACK・KNIGHTS -3-





「この者達が……黒騎士達が言っていた例の者達なのか?」
見張りを続けている黒服の男に声をかけたサバスは、怪訝そうに倒れている若者達を眺める。



「はい。全員顔を写真で確認しましたが、間違いありません。どんな者かと思えば、小娘や若造ばかり。
何故こんな者達を黒騎士達が求めているのかは分かりません……あまり深く係わり合いにならない方が」


「確かにそうだな。しかし見てみろ、この青い髪の小僧は間違いなく悪魔族だ。
あっちの方は不死鳥族特有の刺青をしているじゃないか。できれば死体を譲り受けたいものだが……」

物欲しそうな目つきで彼らを眺めたサバスは、ゆっくりとパイプをふかした。















冷たい床の感触に思わずぶるっと身震いをしたティエルは、その瞬間勢いよく飛び起きる。
ここはどうやら会場ではないようだ。四方を灰色の壁で囲まれた、窓一つない肌寒い部屋であった。

周囲で微かな呻き声が聞こえ、振り返るとリアン達もまた目覚め始めているようだ。
しかし自分達の置かれた状況をあまり把握できていないのか、どこか朦朧とした顔つきで辺りを見回している。




「……お目覚めになられましたか。少々手荒な真似をしてしまい、申し訳ありませんでした」




突如部屋の中に響き渡るくぐもった男の声に、ティエル達はハッとしてその方向に顔を向けた。
部屋の出入口に、鉄兜を身に付けた騎士風の男が立っていた。その背後には同じく騎士が五人ほど。

周囲には黒服の男達が、ティエルと騎士達を見比べるようにして並んでいる。



「あ、あなたは一体誰なの……? 会場に紫の霧を撒いたのは、わたし達を捕らえるためにやったことなの?」
黒騎士達に身体を向けたティエルは、先頭に立っている鉄兜の男を睨み付けた。


「一体何の目的でこんなことを」




「……確かに、何も分からないままというのは失礼ですね」
鉄兜の男はそう言葉を発すると、一歩前に進み、ティエルの前に跪く。そしてゆっくりと鉄兜を外していった。


さらさらとした絹のような柔らかいプラチナブロンド。優しげな青い瞳。誠実そうな眼差しの青年。
その顔は、メドフォード女官ならば誰もが憧れた、ティエルがよく知る人物の顔であった。




「我が名はガリオン=バロナッティ。リダ=クイーン様の命により、あなた方をお迎えに参りました」




「ガ……ガリオン……!!」
ティエルは一瞬大きく目を見開くと、がたがたと震えながら、信じられないように目の前の人物を眺める。


メドフォード城が襲われたあの日。ティエルが全てを失ってしまったあの日。

炎に包まれる城。ヴェリオルの笑い声。祖母の死に顔。ゴドーの温かい手。血に濡れたガリオンの剣。
目の前で跪き、こちらを真っ直ぐに見つめている人物は、メドフォード城で殺されたはずのガリオンであった。




「ガリオン、あなたはヴェリオルに殺されたはずじゃ……!!」


「……ええ」
スッと立ち上がったガリオンは、どこか悲しげな眼差しで自分の剣を見つめ、それから目を伏せた。

「しかしオレは殺されてはいなかったのですよ、親愛なるティエル姫。
あの日、あなたの運命が大きく動き出したように。……オレの運命もまた、大きく動き始めたのです」




──全てが始まった運命の日。


ティエルをゴドーの元へと逃がし、ガリオンは仲間の騎士と共にヴェリオルやゾンビ兵士達と戦い続けていた。
しかし一人倒れ二人倒れ、友人でもあり仲間でもあった者達が次々に倒されていく。辺りは血の海であった。

背後から剣を振りかざしてきたゾンビ兵士の首を刎ねると、ガリオンは息も荒く地に膝をついた。
剣を握る手が血で滑る。体力の限界なのか、それとも恐れなのか。かたかたと手が小刻みに震えていた。




「小僧、よくぞここまで頑張った。オレを相手にここまで粘ったのはお前が初めてだよ」
薄い笑みを浮かべながら、目の前にヴェリオルが立っていた。彼の歪んだ顔が炎でオレンジ色に染まっている。

「このまま殺してしまうには勿体無い。どうだ、ゾルディスに来ないかね? お前ならば生かしてやってもよいぞ」



「ふざけるな……! オレはメドフォードで生まれ、そしてこの剣を一生メドフォードに捧げると誓った!!」
唇を噛み締め、ガリオンは力を振り絞って立ち上がった。ぼたぼたと流れ落ちる鮮血。


「それならばオレは最期まで戦い続ける! たとえこの命、尽きたとしても……!!」




「愚かな」
剣を強く握り、血走った目で向かってきたガリオンをヴェリオルはいとも簡単に斬り捨てた。


「ぐああぁぁっ!!」


斬られた脇腹が、焼けつくように痛かった。思わず剣を手放してしまい、カランと気の抜けた音と共に床に落ちる。
そしてガリオンもまたゆっくりと倒れていった。


もう二度と立ち上がることはできないと自分でも悟っていた。脳裏に、ぼんやりと家族の姿が浮かび上がる。


最後に浮かび上がったのは栗色の髪の少女。屈託のない笑顔を浮かべて、自分を見上げてくる少女。
彼女のために、自分は剣を握ることを誓ったのだ。




「……ティエル……姫……」




身体中の血が流れ出ていくのを感じる。ぼんやりとした意識の中、ガリオンは無意識に彼女の名を呟いていた。
できれば最後まで彼女を守りたかった。もう一度だけでもいいから、彼女の声が聞きたかった。

(オレはどうやら……ここまでのよう……です……)
ただひたすら彼女の無事を祈りながら、ガリオンの意識は途絶えたのだった。





「──メドフォード騎士団のガリオン=バロナッティはそこで死んだのです。
次に目を覚ましたのはゾルディス国でした。……皮肉にも、オレはヴェリオルに助けられたのですよ」


こちらをジッと見つめてくるティエルに寂しげな微笑を浮かべ、ガリオンは腰に携えていた大剣に顔を向ける。



「ティエル姫、今あなたの目の前にいるのは……ゾルディス騎士団のガリオン=バロナッティなのです」
「でも……ガリオン、わたしと一緒に国を取り戻すために戦ってくれる……んだよね?」

悲痛な表情で語りかけるティエルに、ガリオンは静かに目を閉じて首を振った。




「くれない……の……?」

「……ティエル姫。オレはリダ=クイーン様と出会い、あの方のお考えが間違っていないことに気づいたのです」
瞳を開けたガリオンはギュッと拳を握り締め、それから彼女を見つめる。


「いつの時代も、力を持つ者は強い者なのです。弱い者など強い者に支配される運命。
争いの起こらない世など、所詮は夢のまた夢。どこかが戦争を終えた途端、他の国が戦争を始めるのですよ」

ガリオンは続ける。


「今この世には、圧倒的な支配者が必要です。まさに恐怖こそが全てを支配する大きな力。
そしてゾルディスにはその力がある。親愛なる我が姫様……オレと共にゾルディスへ参りましょう」




「ガリオン……」

ティエルはガリオンの言葉を呆然としながら聞いていた。何も考えられない。頭が真っ白であった。
ただ一つ言えることは、目の前の青年はメドフォード騎士であったあの頃のガリオンではないということ。




「貴様はティエルを守りたいと言ったな」
その時、今まで沈黙に徹していたクウォーツが口を開いた。

「ならば貴様は知っているのかね? ……リダ=クイーンが、生きたティエルに用がないことを」



「……お初にお目にかかります、伯爵殿。オレはただリダ=クイーン様の命に従うだけです」
深々とクウォーツに頭を下げたガリオンは、それからティエル達四名の顔を順繰りに眺めていく。


「できればあなた達に手荒なことはしたくはないのですよ。分かって下さい。ご同行、お願いできますか」




「ガリオン」
生気の抜けた顔を上げるとティエルはガリオンを見つめた。その拍子に、ぼろぼろと大粒の涙が零れ落ちる。

「行けない。行けないよ。行くことなんかできないよ……!」



「そうですか……残念です、ティエル姫。ならば無理矢理にでもお連れしなければなりません」
どこか暗い面持ちのガリオンは、背後に控えている騎士に顔を向けた。


するとそれが合図かのように、黒騎士達がこちらに向かって歩み寄ってくる。

武器は全て取り上げられていた。
彼女達は現在丸腰同然なのだ。大剣を携えている黒騎士達を相手に、勝てる確率など僅かであろう。




その時。

「これはこれは、ゾルディス王国の騎士殿だったとは。超強国の騎士殿が、こんな者達に一体何の御用で?」
扉が開き、今まで会話を盗み聞きしていたと思われるサバスが姿を現した。


どこか下心のあるサバスの笑みに、ガリオンは顔を向けて相手の意図を探ろうと睨み付ける。



「しかし、我が家で乱闘騒ぎを起こされても困りますよ。……場合によっては許可してもいいですがね。
どうでしょう、悪魔か不死鳥か、どちらか一つでも死体を譲ってもらえませんかね?」



「あの金貨の量では不服ですか、サバス殿? 残念ながら、お譲りすることはでき……」



そうガリオンが口を開いた瞬間であった。
突然部屋の中に吸血コウモリの群れが現れ、辺りを黒で埋め尽くしたのだ。

勿論これは密かに詠唱を終えたクウォーツが召喚したものであり、
思わずガリオンが怯んだ隙に、ティエル達はサバスが開け放ったままのドアに向かって駆け出した。


……丸腰ではまずい。まずは武器を取り戻さねばならない。




「追え、追うんだ! 決して逃がしてはならん!!」
ガリオンは背後の騎士達に怒鳴ると、突然のことで呆気に取られているサバスを振り返る。

「サバス殿、これ以上首を突っ込まない方が身のためですよ。あなたは黒騎士団を敵に回すおつもりか?」



「……ひっ!」
ガリオンに向けられた剣に固唾を飲み込んだサバスは、青い顔で何度も頷いて見せたのだった。







+DeadorAlive+