Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」
第14章+BLACK・KNIGHTS

第159話 BLACK・KNIGHTS -4-





慌てふためいている黒服を突き飛ばし、廊下に出ることのできたティエル達は長い廊下を走り続けていた。
赤い絨毯が敷き詰められた廊下を挟んで、左右には数々の扉がある。

一体どこに奪われた武器があるのだろうか。




「どこも同じような扉だね。これじゃあ見分けがつかないよ」
全力で走り続けているために息が荒いジハードが、ティエルの隣で諦めともつかない声色で呟いた。


その言葉にティエルは彼の方へ顔を向け、それから暗い面持ちで再び前方に視線を戻す。



死んだと思っていたガリオンが生きていたのだ。……この上なく嬉しい再会になるはずだった。
彼が生きていて正直、涙が出るほど嬉しかった。しかし彼はすっかりと変わり果ててしまっていたのだ。

できれば戦うようなことはしたくない。あのガリオンに剣を向けることなど、ティエルにできるはずがない。




「ちっ、ご丁寧に召喚妨害までされているようだ。一体どこに武器を隠しているんだか」

舌打ちと共にクウォーツが呟く。
彼は妖刀幻夢を自由に呼び出すことができるのだが、どうやらそれも何らかに妨害されて不可能らしい。




「いっそのこと、その辺の黒服さんにでも聞いた方が良さそうですわね!」
「そうだな。手近なところで……こいつに聞くか」


リアンの言葉に軽く頷いたクウォーツは、前方で呆気に取られている黒服の襟首を掴む。



「命が惜しくば、私達から取り上げた武器のありかを吐け。生か死か、選ぶのはご自由に」
「うわーっ、助けてくれ! オレは命令されていただけなんだよ……言う、言うからその手を離してくれ!!」

クウォーツの口元から覗く鋭い牙に思わず恐怖を感じた黒服は、震える指で廊下の向こうを指し示した。




「この角を曲がって真っ直ぐ行くと、黒い扉があるんだ。さっき先輩達がそこに放り投げていたはず……。
ほ、本当だよ! 嘘なんかついていない、ついても意味がないからな。だから助けてくれ!」




「角を曲がって、黒い扉」
黒服の言葉を繰り返したティエルは、ギュッと手を握り締める。

「……けれど武器を取り戻しても……わたし、ガリオンと戦うことなんかできない……!」



「そうですわね、分かりましたわ。ティエル、あなたは戦うことよりも逃げることだけを考えて」
そんなティエルにリアンが慰めるように言った。それから細くしなやかな指で曲がり角を指し示す。

「行きましょう!」





角を曲がると、先程の男が言ったように黒い扉が現れた。案の定剣を構えた黒服が前を守っている。


「リアン、最小限に威力を抑えた爆発の魔法を! ついでに扉も吹き飛ばせるんじゃないかな!?」
「了解いたしましたわ! ロッドがありませんと、少々違和感を感じますけど……」

ジハードの声に頷いたリアンは右手を前に突き出すと、早口で魔法の詠唱を始めた。
彼女の指先に白い光の粒が集まっていくのが見える。




「ふふん、黒服の皆さん……心配しなくても手加減してあげますわよ。
大気に潜む怒りの粒子大きな力となり、慈悲なき女神の怒りとなれ! ……バーストスプラッシュ!!」



「わ、なんだっ!?」
「急に扉が爆発したぞ!」

黒い扉を吹っ飛ばした爆発の魔法は、その前で剣を構えている男達をも吹っ飛ばす。




辺りにもうもうと煙が立ちこめるが、ここは換気設備が整っているのか、すぐに煙は晴れていった。

完全に破壊された扉の中には、見慣れた武器が置かれていた。
ティエル達の武器の他にも、盗品と思われるような高価な品物も多々見受けられる。


床に魔法陣が描かれている。どうやらこれが、外部から呼び出すのを封じている魔法陣なのだろうか。




「封印レベル1……これくらいなら軽いですわね、簡単に解除できそうですわ」
にやりと口元に笑みを浮かべたリアンは、軽く詠唱を始めた。

「ウェル・ナン・マヌラナ・アンテ・リトゥ・アバカム!」


紫色の光が魔法陣を囲み、次の瞬間には床に描かれたその魔法陣は完全に消え失せていた。
封印が解除されたのだ。




「いつもながら、あなたの魔法には感服するよ。人間でこれだけ唱えられる者は滅多にいないと思うよ」
床に無造作に置かれていたリグ・ヴェーダを拾い上げると、ジハードはリアンを振り返る。

「ぼくも攻撃魔法を何度も覚えようとしたのだけど、リグ・ヴェーダがなければ駄目だった」



「やぁね、褒めても何もでないですわよ。さ、武器も取り返しましたし……あとはスペルを頂かなくてはね」
自分のロッドを強く握ったリアンは、胸元から数百万の価値があると思われる白金のコインを取り出した。

「これを置いていけば、買ったことになるでしょ。泥棒にはなりたくありませんしね」



「ここは何階なのかな? なんとなく地下のような気がするんだけど……とりあえず上に行っ──!!」




そう言いかけたティエルの言葉が止まる。既に廊下には、数人の人影が並んでいたからだ。
黒い衣装に白のマント。どこかヴェリオルを連想させる、ゾルディス黒騎士団の衣装である。

先頭には見慣れた大剣を手にした金髪の青年。
青い瞳を真っ直ぐこちらに向ける様子は、あの日ヴェリオルと対峙するガリオンそのものであった。


あの日と唯一つ違うのは──彼の手にした大剣は、ティエルに向けられるかもしれないということ。





「……ティエル姫、できればオレはあなたに剣を向けたくはない。それはあなたも同じことのはず」
どこか辛そうにティエルから視線を外したガリオンは、やがて意を決したように真っ直ぐに彼女を見つめる。


「だが、あなたがゾルディスへの同行を断るというのなら。……オレはあなたに剣を向けなければならない」




「ガリオン……」
イデアを握り締める手に汗が滲んだ。

いつも自分に笑顔を向けてくれたガリオン。今、目の前でまさに自分に剣を向けようとしているガリオン。


メドフォードで、何不自由なく平和に暮らしてきたあの頃とティエルが同じではないように、
ガリオンもまた変わったのだ。自分の道を選んでいったのだ。……彼女が止めることなど出来はしない。




もう逃げてばかりではいけない。これ以上逃げ続けているわけにはいかない。
逃げずに真っ直ぐガリオンと向かい合うことこそが、自分が本当にやるべきことではないだろうか。




「……わたしも」
顔を上げた。もう二度と目を逸らさないように、彼の顔を見つめる。

「あなたがわたし達を連れて行くというのなら。
わたしの大切な友達に剣を向けるというのなら。……わたしは迷わずあなたに剣を向ける」




そんなティエルを見てどこか寂しそうに、そして優しげに微笑んだガリオンは、銀色に輝く大剣を抜き放った。


「それでいいのです、ティエル姫。オレは……いつも全力で受け止めてくれる、そんなあなたが」
──好きだった。




「我が主、リダ=クイーン様の命により……あなた達をゾルディス国へお連れする!」
ガリオンが剣を抜き放つと同時に、背後の黒騎士達も一斉に剣を抜き放つ。背後は七人。皆大剣である。



「まったく……リダ=クイーンもいいかげん、ぼくらのことを諦めたらどうなんだい」
リグ・ヴェーダを右手に、ジハードは左手で素早く魔法陣を完成させた。

「戦うのは気が進まないけど。ティエルが言っているように、剣を向けてくるのなら相手になるけど……」



全く手加減をする様子もなく、黒騎士の一人が剣を振り上げて突っ込んでくる。
ヴェリオルの剣技には程遠い腕前だが、ゾルディス黒騎士団というだけあり、並みの騎士の腕前ではない。


大剣を振るうその体勢には、一片の隙すらない。急所を狙って的確に攻めてくる。




「氷雨陣!!」
虹色の魔法陣が発動し、氷の刃を降らせた。しかし、さほど効果はないようである。


「お前達が魔法に長けているのは既に承知。……この白いマントは、魔法効果を半減以下にするマントでな」
肩の氷の粒をぱらぱらと軽く払った黒騎士は、ジハードに向かって笑みを浮かべた。

「しかしあまり大きな魔法を使えば、この地下が崩れるかもしれん。お前達も危なくなるだろう?」



強力な魔法の詠唱を始めようとしたリアンに向けてか、黒騎士が言葉を投げかける。
その言葉に彼女はハッとした顔つきで思わず詠唱を止めた。

──確かにそうだ。大きな魔法を使用すれば、ここが崩れてしまう可能性がある。




「大丈夫。あなた達は、わたしが守るから」
ジハードに斬りかかろうとした黒騎士の一撃をイデアで受け止め、ティエルが振り返った。

容赦のない重い一撃に手が痺れる。
これでは長期戦はまず無理だ。早めに勝負をつけなければ、ティエルの体力が持たないであろう。



「ここまできて、ゾルディスに戻るわけにはいかないんだから……!!」




「……ぼくも同感だよ、ティエル。それに負ける気はない」
いつになくどこか不敵な笑みを浮かべたジハードは、左手を上げると軽くぱちんと指を鳴らした。

その瞬間。
巨大な魔法陣が現れると、地面に溶け込むように消えていく。見たこともないような大きな魔法陣である。



「遮断の陣。この魔法陣の中ならば、魔法陣外への魔法の影響をゼロにすることができる。
この空間は完全に建物から遮断されたというわけさ。勿論、大きな魔法を使っても建物に影響はないんだよ」

にやりと笑みを浮かべるジハード。


「……黒騎士殿、あまり魔術士をなめてもらっては困るね」







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