| Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」 第2章+旅の幕開け
第20話 風に祝福された少女 「……それだけ?」 自分を責めようとしないサキョウに対し、ティエルは思わず立ち上がって彼に詰め寄った。 「どうしてそれだけなの!? どうしてわたしを責めないの!? 言ってよ、お前のせいでゴドーは死んだと!!」 静かに目を開け、自分に詰め寄る少女を暫くジッと見つめていたサキョウだったが。 「兄上は……ゴドーは……毎月欠かさず送る手紙におぬしのことばかり書いていた。 メドフォードの姫君は、跳ねっ返りでとんでもないお転婆姫だと。どの授業が好きだとか、嫌いだとか」 ──その内容は、まさに愛に満ち溢れていた。 兄がどれだけこの姫君のことを愛しているのか。……サキョウにも手に取るように分かったのだ。 「ワシはその手紙を読んで、おぬしに会ってみたかった。あの頑固な兄上が溺愛する姫君に。 そんな兄上が愛したおぬしを、どう責めよと言うのだ? それこそ兄上に顔向けできんではないか……」 「……どうしてそんな風に考えられるの?」 ギュッと唇を噛みしめ、ティエルが苦しそうな声を発した。 「わたしには分からない。どうして責めないの!? 上辺だけの優しい言葉をかけるのはやめてよ!!」 最後の方は声が震えていて、声を発することができなかった。 サキョウの服を掴んだまま、ティエルはぼろぼろと涙を溢れさせて泣いていた。 ……分からない。もしかしたら、自分はこんな優しい言葉を待っていたのかもしれない。 全てを包み込んでくれるような、優しい言葉を。 サキョウはそんなティエルを見つめ、大きな手をポンと優しく彼女の頭に乗せる。 ゴドーと同じ、温かくて厚みのある手。 「大切な姫様を泣かせたと、ワシが兄上に怒られてしまう。だから、どうか顔を上げてほしい」 それから彼は意を決したようにして次の言葉を発した。 「……その代わり、ワシをおぬしの旅に同行させてくれないか。無理にとは言わぬ」 兄がこの者に一体何を託したのか……それを、この目でしっかりと確かめてみたい。 そうサキョウは思ったのだ。 無邪気に笑ったかと思うと、すぐ表情の変わる少女。ただの娘と思いきや、魔法剣の使い手。 暫く彼女を近くで見ていたかった。 自分でも突拍子のない考えだと思った。ここのモンク僧たちを育てる仕事だってあるのだ。 「サ、サキョウ、何を言っておるのじゃ!? お前はここのモンク僧達をまとめる仕事がある!」 思いがけぬサキョウの言葉に、シグン大僧正は目を丸くして驚く。 「それにお前が行きたいと申しても……ティアイエル様が何と言うか」 「……わたしは構わない、断る理由なんかないよ」 ゴシゴシと涙のあとをこすりながら、ティエルは笑顔を浮かべた。 ・ ・ ・ ──ベムジン寺院、門の前。 大僧正を先頭に、筋骨逞しい男達がズラッと所狭しと並んでいる。なかなかこれは壮観だ。 「おぬし達の力がなかったら我らは全滅していたかもしれない……感謝する」 一斉に頭を下げられて、ティエルはそわそわと落ち着きなく視線を泳がせている。 隣に立つリアンは、まるでどこかの女王の如く満足そうにその光景を眺めているのだが。 「わたしでも、人の助けになってあげられたのかな。役に立ったのかな?」 「あらやだ、自信持ちなさいな! あなたは今回立派に人を助けたのだから」 だからもっとしっかりしなさいよ、とリアンはその言葉の後に付け足した。 「……そだね」 「ティアイエル様」 その時静かにシグン大僧正が歩み寄ってきた。 「折れた剣の代わりにこれをお持ちいただけませんか? あなた様ならば、きっと扱うことが出来るはず」 大僧正が差し出したものは、竜の細工が施されているベムジンらしい質素な作りの剣。 しかし松明の炎に照らされた刃は青白く研ぎ澄まされ、充分魔法剣に耐えうる剣だと分かる。 「これはベムジンの剣匠が作り上げた武器、竜鱗の剣と申します……これを、お受け取り下さい」 「ありがと! 丁度剣が折れちゃって、どうしようかと思っていたところだったの」 受け取った剣はそれなりにズッシリと重さを感じたが気になるほどではない。 柄の部分は彼女の手のひらに、意外なほどしっくりと馴染んでいた。 「リアン殿はこれからどうされるおつもりで?」 「私は当初の予定通り、四つの捜し物を続けますわ。灰色の封魔石イデアのお話も聞けたし。 封魔石を追って、ゲバの黒ミサのことを調べてみることにいたしますわ」 リアンはそう答えると、ティエルを振り返る。 「ティエルと……それにサキョウさん。あなた達はどうしますの?」 「うん……ねえ、シグン大僧正さん。さっき封魔石があったら国一つ滅ぼすことが出来るって言ったよね」 「え、ええ……使い方を間違えれば、の話なんですが……」 ティエルは少し考え込んで、それから迷いを打ち消すように口を開く。 「……それじゃあ使い方によれば、国を取り戻すこともできるかもしれないんだね」 「ティアイエル様、まさか」 大僧正はその言葉にハッと気がついて眉毛に隠れている目を大きく見開いた。 「封魔石をお探しになるおつもりで……?」 「だって今のわたしにはそれしか考えられないしさ! 国を取り戻して、おばあさまとゴドー達の仇を取る。 封魔石があったら、それを可能にすることが出来るかもしれないんでしょ?」 「確かにそうですが……あなたは意志のお強い方みたいだ、止めてもやり通すんじゃろうて」 そう言うと大僧正は、長いあごひげをなでる仕草をした。 「その頑固で真っ直ぐなところだけは、亡きミランダ様の若い頃そっくりじゃのう」 「わたしは生きて、必ず国を取り戻す。ゴドー達が守ってくれたこの命、そう簡単に手放すものですか!」 「ティエルも封魔石を探すということは、私と大体目的が同じってことでーすわ。 ……ふふっ、どうやら私とあなたはまだ縁が続きそうですわね」 大きなロッドをくるくると回し、ティエルの方に顔を向けたリアンがクスリと笑う。 今ではすっかり見慣れたこの赤い不思議な瞳は、とても心安らぐ色となった。 「それならば、ワシも全力で封魔石探しに協力しなくてはな」 こちらもニッと笑みを浮かべると、サキョウはズラリと整列するモンク僧達の前に進み出る。 「急ですまぬが、ワシは彼女らと共に行くこととなった。ワシがいない間、ベムジンと……大僧正様を頼む」 「お任せ下さいサキョウ殿!」 「留守は我らモンク僧がしっかりと守ります!」 「それではティアイエル王女、リアン殿。改めて自己紹介する……ワシはサキョウ、以後よろしく頼む」 深々とお辞儀をするサキョウに対し、ティエルは慌てて両手を振った。 「わたしのことはティエルでいいよ、一緒に旅するんだし気楽にいこうね!」 「そうでーすわ、堅苦しいったらありゃしない。私達に敬称はいりませんわ」 「う、うむ、そうであるな……」 「さあ、行くがよい冒険者達よ!」 その光景を眩しそうに見つめていた大僧正は、スッと息を吸い込むと大きな声で言った。 「はーい、行ってきま〜す!」 「ああん、言われなくても行きまーすわ」 「それでは行って参ります、祖父殿!」 三人は口々にそう言うと、背を向けて歩き始める。 並んだモンク僧達は、その後ろ姿に静かに想いを込めて祈りをささげた。 (本当に……気をつけて行くのだぞ) シグン大僧正は心の中で彼女らの安否を祈り、それからクルリと表情を変えてモンク僧達に向き直った。 「さあ、修行の再開じゃ! モンスターなどには負けてられんぞ!」 「御意!」 今日もこのベムジンを象徴するモンク僧達の力強い声が、寺院内に響き渡る。 +DeadorAlive+ |