Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」 第3章+麗しき闇の貴公子


第22話 ハイブルグ城





「あのう、すみませーん!」

町を突っ切り小さな森を抜けると、目の前にドッシリとした古びた城が現れた。
所々野生のツタが絡み付き、壁の煉瓦は完全に黒ずんでいる。鉄製の門は錆びてしまっているようだ。


窓には皆分厚いカーテンが引かれ、中の様子を伺い知ることはできない。



思わず気後れしてしまったが錆びた門を開け、玄関へと続く煉瓦の道を歩いて行く。
そして意を決し、黒塗りされたベルを2回だけ鳴らした。

リーン、リーン、と重いベルの音が、気味が悪いほど静かな辺りに響き渡る。
暫くするとゆっくりと扉が開かれた。



「……ここはハイブルグ地方統べる伯爵様の住まう城。何かご用でしょうか」

中から現れたのは若い女性。
身につけているのは一瞬喪服かと思ってしまったが、どうやらメイドの制服のようである。



「ワシらは迷ってここに辿り着いた旅人だ。夜分遅くに申し訳ないが、地図があったら譲ってくれないか」
スッとサキョウが前に進み出ると、簡単に事情を説明した。


「それはお気の毒に……この森は道が複雑で、夜の行動は避けた方がよろしいかと。
それに、元々ここの地図など存在しないのです」

メイドはニッコリと笑みを浮かべる。


「どうでしょう、この城で一夜を過ごされては? ここの伯爵様方は心優しい方です。
あなた達のように森で迷った旅人達をお泊めして、旅の話をお聞きするのが趣味なのですよ」



「……明るくなれば、少しは地理がはっきりするかもしれんしなぁ。ご厚意に甘えるか?」

どうする? とばかりにサキョウはティエルとリアンを振り返る。
暫く顔を見合わせたティエル達だったが、


「また暗い森の中に逆戻りして、彷徨い続けるのは嫌でーすわ」
半分疲れ果てたようにして呟いたリアンの言葉により、この城に泊まることとなった。




中は少し薄暗く、しかしそれでも立ち並ぶインテリアは高価なものだと一目で分かる。

少し気になったのは、所々に蜘蛛の巣がはっていることであった。
掃除が行き届いていないのだろうか。……埃も目立ち、どこかカビ臭くもある。



まるで血のように濃く赤い絨毯が敷き詰められる応接間に通され、暫くソファーに座って待っていると、
ゆらゆらと揺れるロウソクが乗った燭台を持つ一人の老婆が姿を現した。

顔中にボツボツと小さな瘤が浮き出ており、小柄で、枯れ木のように痩せ細った醜い老婆であった。


赤紫色の長いローブを引きずりながら、老婆はティエル達の顔を順々に眺める。
老婆に見つめられたとき、ティエルはゾクッと鳥肌が立ったのだが、それを顔に出さずに会釈した。



「ヒッヒッヒ……ハイブルグ城へようこそ。お前達が今度の旅人かい? いやぁ随分と若いねぇ……。
あたしはギョロイア=メクセプトル。我が主である伯爵様からこの城のことを全て任されている者さ」

ギョロイアと名乗った老婆は、数本抜け落ちた歯を見せながら低く笑い声を上げる。
上瞼に半分ほど埋もれてしまっている目を見開き、彼女は愉快そうに暫く笑っていた。

そのあまりに恐ろしい笑顔に、ティエル達は完全に凍り付いてしまっている。



「あたしは昔から旅人を泊めるのが趣味でねぇ……お前さん達、愉快な話を色々聞かせてくれよ。
この老いた身では自由に世界を駆け回ることができんからね」

「あ、はい! 今日は泊めて下さって本当にありがとうございました」
「助かりましたわ」

静かに礼をしたサキョウに倣い、慌ててティエルとリアンもお辞儀をする。



「まぁまぁ、そう硬くならんでよい。お前達はあたしの大切な客人だ。
退屈ならばこの城の中を自由に歩き回ってもいいが……三階と地下には決して近づいてはならぬぞよ」

そう言ってギョロイアは、枝のようにひょろひょろとした指でティエル達を指し示した。


「三階には、我が高貴なる主……伯爵様がいらっしゃるからのう」



「伯爵様が? けれど……わたし達泊めてもらっているのに、その方に挨拶をしなくてもいいんですか?」
ギョロイアの言葉に少しだけ眉をひそめたティエルは、サキョウを振り返る。

「挨拶しないままだと、なんだか悪いよね」
「うむ……しかしそう簡単に会って下さるともかぎらんし……ギョロイア殿、お目通りは願えますでしょうか?」



「心遣いは感謝するが、遠慮しよう。我が高貴なる主様は、繊細な上にひどく人間嫌いのお方でな……」
スッとロウソクを手に持つと、ギョロイアは近くのメイドに目配せして立ち上がった。


「部屋はこの者が案内する。夕食は夜8時、メイドが呼びに来るじゃろう」









メイドに二階の部屋まで案内され、扉を開けたリアンは思わず感激の声を上げる。


「きゃーっ! サキョウと一緒の部屋っていうのが気になるところですけど、豪華な部屋でーすわっ。
あのギョロイアってお婆さん、顔はメチャクチャ怖いけどいい人なんですのねー」

ベッドの上でぴょんぴょんと飛び跳ねるリアンを一瞥し、ティエルも寝転がった。



「あ〜……今日も一日疲れたなぁ。明日こそは森を抜けられるといいね」
「うむ、ティエルを先頭にして歩いてはいかんということが今日分かった。お前は考えなしに進むからな」

ティエルとリアン、そして自分の分の荷物まで背負っていたサキョウはドサリとそれを置く。



「明日からはちゃんと計画的に行動することにしよう」
「サキョウそれひどい! わたしだって一生懸命計画的に行動していたんだから」

拗ねたように口を尖らせると、ティエルはカーテンをサッと引いて窓を開けた。


下には、昼に散歩をしたらさぞかし気持ちが良いだろうと思われる大きな薔薇の庭園。
しかし満月の下で静かに佇む白い像達を眺めるのも、なかなか魅力的かもしれない。



「……ねえ、わたし散歩に行ってくるね! 誰か一緒に行く?」
窓から身を乗り出して、ティエルは背後の二人に声をかけた。

「私は夕食までここでのんびりとしてまーすわ」
「早めに戻って来るんだぞ、この部屋にちゃんと戻ってこれるのかが心配だが……」



「大丈夫、すぐ戻ってくるから!」
冒険できるのが嬉しいのか、ティエルは機嫌良さそうに二人に向かって手を振ると、扉の向こうへと消えた。






+DeadorAlive+