| Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」 第3章+麗しき闇の貴公子
第26話 麗しき闇の貴公子-4- 「ねぇ、ギョロイアさんって旅人の話を聞くのが好きなんじゃなかったっけ?」 メイドに連れられて大食堂まで案内されたティエル達は、これ以上ないくらいのもてなしを受けた。 しかし肝心のギョロイアの姿はなく、面白い話を色々と考えていたティエルは拍子抜けしてしまったのだ。 そして今は、自分たちの部屋に戻るところである。 「わたし、せっかく何話そうかなって色々考えていたのに」 「大体あのギョロイアってお婆さん、人間好きって顔してないですわよ。どっちかと言うと人間嫌いタイプ」 ガックリとしているティエルの隣で、リアンは首を捻った。 「それなら、何故私達を泊めてくれたのかしら? 何かメリットでもあるのかしらね?」 「……身分が高い者は変わり者が多いのだ。まぁ、あまり深く考えすぎるとハゲるぞ」 「うわー、楽観主義でーすわねえ! 人生楽しそうで羨ましいですわ」 ハッハッハと豪快に笑いながら何も考えずに言うサキョウに、リアンは呆れたように呟いた。 段々と自分達の部屋が近づいてきたとき、ティエルはポケットの指輪を思い出す。 (クウォルツェルトさん……もしかしたら食事の時に会えるかと思っていたけど、会えなかったな……。 わたし達明日には出発するし、今夜のうちに指輪……彼に返した方がいいよね) 「先に部屋戻ってて。わたし、ちょっと思い出したことがあって」 ポンと手を打って立ち止まったティエルは、向きを変えると部屋とは反対方向へ歩き出す。 「……迷子にならないで下さいねー」 「ワシらは先に寝ているぞ?」 リアン達の声を背に、ティエルは所々ロウソクが灯る薄暗い廊下を歩いて行った。 壁に飾られている高価な絵画が、ボンヤリとオレンジ色に照らされている。 こんな赤い絨毯の敷かれる長い廊下を歩いていると、メドフォード城を思い出す。 しかしメドフォード城はもっと明るく、どこかしら漂うこの陰気な空気はなかったが。 ……そして、決して立ち入ってはならないと言われた三階。 二階と違い、廊下に並ぶ扉の数は非常に少なかった。それだけ、一つ一つの部屋が広いということだ。 廊下に無言で佇む剥製が、ジッとこちらを見つめているような錯覚さえ起こす。 (そういえば、クウォーツさんの部屋ってどこなんだろ……) まさか一部屋ずつ扉を開けて確かめるわけにもいかず、ティエルは廊下を歩きながら困ったように俯いた。 そんな彼女の瞳に赤い薔薇の花びらが映る。随分と大きく立派な扉の前に、花びらが数枚落ちていたのだ。 まるで人目を避けているかの様に、そこの周囲だけロウソクが灯っていない。 この部屋は彼の部屋だと、何故か変な確信があった。 大きく息を吸い込み、呼吸を整える。それからティエルはそっと扉を叩いた。 コンコン、と二回優しく。しかし、暫く待っても返事はない。 勝手に入るのはさすがにまずいだろうと、ティエルはもう一度だけ叩く。 (う〜ん、弱ったなぁ。今夜は会えなさそうだし、このままじゃ明日も会えないかもなぁ……) 手のひらの上に指輪を乗せ、ティエルは暫し思案する。 ギョロイアかメイドに預ける手もあるのだが、もう一度ティエルはクウォーツに会いたかったのだ。 もしかしたら、自分は何か理由を付けているだけで単に彼と話をしたかっただけなのかもしれない。 ギュッと目を閉じたティエルは、それから意を決したようにドアのノブを静かに回した。 ──薄暗く、広い部屋だった。 明かりらしい明かりは、凝った細工が施してあるテーブルの上に燭台が乗っているだけである。 窓は分厚いカーテンが引かれており、外の月明かりが全く入らない。 パタンと後ろ手で扉を閉めると、ティエルは部屋の中を見渡した。 足元に赤い薔薇の花びらが数枚散らばっており、しゃがんでそれを彼女が手にしたとき、 中央の大きなベッドに寝転ぶクウォーツを見つける。 (……うわっ、寝てたのか。起こさないうちに部屋に戻った方が良さそう) 心の中でクウォーツに詫びながら、ティエルは向きを変えてドアノブを回した。……と。 「……もう帰るのか?」 低い声が、ベッドの方から発せられる。 心臓が口から飛び出しそうな程驚いたティエルは、バッと振り返ってぎこちない笑みを浮かべた。 それから、そろりそろりとベッドの方へと歩み寄って行く。 「……ごめんなさい、勝手に入って。あなたの落とし物を届けに来たんだけど、返事がなかったから」 見ると、クウォーツは靴のまま気怠そうにベッドに寝転がっていた。 それを見たティエルは思わず苦笑する。 「やだ、靴くらい脱ごうよ。シーツ汚れちゃうよ?」 ティエルはゴソゴソとポケットをあさり、手のひらに銀の指輪を乗せて静かに差し出した。 「これ庭園で拾ったの。クウォルツェルトさんがいた所に落ちていたから、きっとあなたのかなって」 「……」 暗闇でもロウソクの光を反射して鈍く光る指輪。 暫くジッと見つめていたクウォーツだったが、身を起こしてそれを受け取る。 「……何か飲むか? 何がいい」 「えっ、いいの? 寝るところだったんでしょ、わたし邪魔じゃないかな……?」 慌てるティエルをよそにクウォーツは立ち上がり、 テーブルの上に伏せられていたグラスを取ると橙色の液体を注ぐ。 「別に邪魔ではないよ」 オレンジジュースだから心配するな、と彼はそれをティエルに差し出した。 +DeadorAlive+ |