Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」
第4章+メビウスの指輪

第35話 レヌール遺跡-1-





翌日出発しようとも考えたのだが、
行動は早い方がいいと一行は早速レヌール遺跡へと向かうことにした。

夕食から結構な時間が過ぎ去っていたので、時刻は深夜と言ってもいいだろう。




静かな街を抜けて暫く進んでいくと、草木がはげ、ザクザクに切り立った岩が目立つ荒野へと出る。
靴の裏で踏みしめるものは柔らかな草から、大きな石が混じるジャリジャリとした砂へと変わっていった。



むき出しの地面には、かつてここへ探索しに来たと思われる冒険者達の持ち物が転がっている。

所々に野営したあとも見受けられたが、それらはかなり月日が経ったもののようだ。
コロンと力無く転がっている拉げた水筒を、ティエルはどこか暗い眼差しで見つめる。

底の方には穴が空いており、否応にも長い間ここに放置されていたことを物語っていた。




……レヌール遺跡。
巨大な煉瓦をいくつも積み重ねたような建物であり、見る者を圧倒してくる。

まるでこの周囲だけ豊かな恵みを受けられなかったような錯覚さえティエルは覚えた。
しかし荒廃したこの地に建つ巨大な遺跡は、魔王ベルゼブブの寝床にこそ相応しい。




少し進むと入口付近に半分ほど砂に埋もれた白骨が見える。
窪んだ二つの穴からは、志半ばにして死んでしまった無念さが伝わってきた。



「そ……想像以上だね」

中に入ることを躊躇しているような心細い声を呟きながら、ティエルが立ち止まる。
彼女の目の前には、出口のない迷宮に誘うような入口が待っていた。扉はしっかり閉まっているようだ。

入口の両隣には、吹きさらしの所為か半分欠けてしまっているデーモン達の彫像。
口は耳まで裂け、長い尻尾を生やし、手には巨大なカマを持っている。


──まるで侵入者達を見張っているような不気味な像である。




なんとなく像が動いたような錯覚を覚えたティエルは、隣のサキョウの服をギュッと握りしめた。

「この遺跡に入って、無事に戻ってきた冒険者はいないんだよね。
とすると、メビウスの指輪はまだ持ち去られていないかもしれない。指輪は中に……ある」


「どんなトラップでもどんと来いでーすわ。この私に解けない謎なんてないんですのよ」
入口の前で立ち止まるティエルの横を、元気な声を出しながらリアンがスッと横切っていく。

「さっ、行きますわよ!」




重い石の扉をサキョウが前に進み出て開け、ティエル達が中に入ったのを確認した彼が手を離すと、
ゴゴンという音と共に扉はピッタリと閉まった。

中は意外にもうっすらと明るく、誰がつけたのかオレンジ色に燃える松明が所々に置いてある。




「この松明……燃えてはいるが、全然木が焦げておらんぞ」

不審に思ったサキョウが松明に歩み寄り、暫くまじまじと見つめる。
本当にその通りで、確かに燃えているはずの松明は全然熱くもなく、ただオレンジ色の光を発していた。


「これも魔王ベルゼブブの墓ならではの魔力ということなのだろうか……」



「へぇー、この松明便利だね。一つくらい貰っちゃってもいいかな?」
興味深そうに松明を覗き込みながらティエルはリアンを振り返った。それを彼女は片手を振って制す。

「駄目ですわよ。ベルゼブブの魔力で灯っている松明なんて持っていたら、
どんな恐ろしい呪いが降りかかるか分かったもんじゃないでーすわ」



「あ……そういえばそうだよね」


既に松明に手を伸ばしかけていたティエルは、その言葉に思わず手を引っ込める。
そして松明が点々と灯る奥の道をキッと見つめた。

通路は狭く、ティエルとリアン、身体の大きなサキョウの3人が並んで通るのがやっとのほどである。
ティエル達を誘っているかの様に、風もないのに左右に揺れる松明が不気味であった。




「さあ、メビウスの指輪と……行方不明のトレジャーハンターさんを探しに行こう!」
ティエルは自分を勇気づけるように大きな声を上げ、罠があるにも拘らずズンズンと進んで行く。




「ちょっとティエル、勝手に一人で行くのは危険ですわ! ……って、滅茶苦茶張り切ってますわね」

入口付近のトラップは、昔ここを訪れた冒険者達が解除してくれたのであろう。
ティエルは罠にはまることもなく進んでいく。



「それほど、あのヴァンパイアの青年を助けたいのだろうな。……自らの身を危険にさらしてまでも」
ティエルの背を見つめながら、サキョウは腕を組んで大きな溜息をついた。

「反対していても、こんな所にまでついて来るワシもワシだが」



「……きっとティエルは色男に甘いんですのよ」
松明の光に揺られてゆらゆらと動く自分の影を見つめ、リアンは長い髪を払いのける。

「悪者にさらわれた私を助けに来てくれる白馬の王子様との出会いを待っていた私が、
まさか逆に、囚われの王子様を助けに行くことになるとは思いもよりませんでしたわ……」



その何気なく呟いたリアンの言葉に、思わずサキョウはブハッと笑いを吹き出した。

「わははは、リ、リアンは悪者などにはさらわれんよ、逆に悪者をさらってしまいそうだな!」
「……さりげなく失礼なおっさんですわね。あ、ティエルっ、むやみに変な物触るんじゃないでーすわ!」





**********





真っ直ぐな一本道を歩くこと数十分。

迷路のように道が複雑でないのは、よほどトラップに自信があったのだろうか。
しかしティエル達は一度もトラップに出会うことなく、難なく奥まで進み続けていた。




「……なんかおかしくありません?」
「どうかしたの?」

隣を黙々と歩き続けていたリアンが、ふと立ち止まって形の良い眉をひそめる。



「ここに入って無事に戻ってきた者はいないんでしょう? ……こんな楽に進めてしまうのも変ですわ。
仮にも魔王ベルゼブブの墓ですのに……トラップが一つもないのはおかしすぎますわよ」

「……いや、トラップはどうやらあったようだぞ、リアン」
壁や地面を調べていたサキョウがふと口を開いた。


「今までいくつもトラップがあったが、皆解除されていた。それも……つい最近だ」




「つい最近? それじゃ、このトラップを解除した誰かは、まだ生きて中にいるってことだよね?」

確かにサキョウの言った通りで、ティエルが地面に膝をついてよくよく調べてみると、
何かを引きずったあとや微かな血痕が見受けられる。


大岩が転がってくるトラップを解除するために、岩の前には削り取られた煉瓦が積み重なっていた。
しかも、まだ新しい。




「じゃあ……今まで帰ってこなかった人たちは、みんなここのトラップで命を落とした事になるの?
それにしては死体が見受けられないんだけど……」

血の跡はあっても、死体がない。白骨化した死体がいくつも転がっていてもおかしくはないのだが。



「誰かが片づけたのかなぁ」

「片づけるって一体誰がですの? ここは命知らずの冒険者達しか近づかないんですのよ!」
大きなロッドをギュッと握りしめ、リアンはガタガタと震えながら口を開いた。


「私達の他に誰かがいるってことですわよね。その行方不明のトレジャーハンターだといいですけど」



「まぁ深く考えても仕方あるまい、とりあえず今は進むしかないであろうな」
そのサキョウの一声で、一行は再び進み始めることにした。







+DeadorAlive+