| Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」 第4章+メビウスの指輪 第36話 レヌール遺跡-2- 今までは気にしていなかったが、注意しながら進んで行くと数々のトラップの跡が見受けられる。 その場所には必ずと言っていいほど大量の血の跡があるのだが、やはり死体はない。 首を捻りながらティエルは顔を前に向けると、目の前には大きな扉があった。 どす黒い血のように赤くベッタリと塗られた扉の縁には、金で細工したツタが巻き付いている。 「も……もしかして、この奥にメビウスの指輪があるのかな?」 扉を指さしながら、ティエルは背後で書物を広げているリアンを振り返った。 「メビウスの指輪は、ベルゼブブの棺の中にあると言われてますわ。本格的に墓荒らしですわね。 まぁ、指輪をいただくだけですからベルゼブブも許してくれるでしょ。死人にくちなしですし」 「……そうかなぁ。思いきり呪われそうだけどなぁ」 リアンの根拠のない発言に、ティエルは眉をしかめながら扉を開いていった。 一面、金、金、金。思わずティエルが目を細めてしまったほど、中は眩いばかりの黄金で溢れていた。 意外なほど広く、ここだけ綺麗な赤い絨毯が敷き詰められている。色も褪せている様子はない。 所狭しと様々な黄金細工が並ぶ中、中央には金色に輝く大きな棺が置かれていた。 その上には無惨に殺されている死体が覆い被さるようにして倒れている。 まるで食い散らかされたようにズタズタの死体は、服装からして墓荒らしだろう。 ティエルは一瞬大きく顔を歪め、思わず視線を逸らしてしまった。 「……まさか、あの死体が例のトレジャーハンターさんなんじゃ」 「だってその人は女性でしょう? あれはどう見たって男の死体でーすわよ」 案外ケロリとした様子で髪を後ろに払いのけながら、リアンがティエルに向かって言う。 「でも……分からないのは、何でこんな所で死んでいるのかしら? トラップの前ならともかく」 「とりあえず、一刻も早く指輪を手に入れて脱出した方がよさそうだ。指輪は棺の中にあるのだったな。 本来ならば墓荒らしという行為は重罪に値するのだが……仕方ない」 前に出たサキョウは、棺の上に覆い被さっている死体を部屋の隅に運んでいく。 そっと死体を部屋の隅に横たえたとき、恐らくそれが致命傷であろう首筋の傷に目を留めた。 「これは……何かに食いちぎられたあとに見えるな。いやでも、まさか」 そこまで呟いて、サキョウは首を捻る。 (まるで獣のような生き物にに貪り食われたあとだ。獣……トラップでそんなものがあったのだろうか) 「……調べてみたんですけど」 死体の傷口を見つめながら思案するサキョウに、静かにリアンが寄ってきた。 「この墓荒らしがどこかから這いずってきた跡は見受けられなかったですわ。 それにこの部屋には、間違いなくトラップは一つもないみたい。……とすると」 そして彼女はその死体に目を落とす。 「この墓荒らしはトラップに殺されたんじゃなくて……ここで誰かに殺害されたんでーすわ」 「誰かとは……一体誰だ? 我々以外の何者かが、この遺跡内に潜んでいると?」 「私が知るわけないじゃないでーすの、そんなのこちらが聞きたいくらいですわよ」 そして声をひそめ、リアンはティエルに聞こえないようにコソコソと話し始める。 「ティエルには知られない方がいいみたいでーすわ。無意味に怖がらせても可哀相ですし」 「ああ……承知した、しかしリアン……お前は怖くはないのか?」 眉をしかめつつ言ったサキョウの言葉にリアンはフッと寂しげな笑みを浮かべると、 片目をつぶって人差し指を口の前に持ってきた。 「……乙女にそんなことを聞くのは無粋ですわ」 「ねえ、二人して何をこそこそ話しているの?」 先程から死体を囲みながら話し続ける二人の様子を訝しげに見つめながら、ティエルが口を開いた。 「早くメビウスの指輪を手に入れて、ここから逃げ出そうよ……」 「何でもないんでーすのよ、ええじゃあ棺を開けましょうか? サキョウ、私達はか弱い女の子なんですから、全面的に任せまーすわ」 「うむ、承知。ほ! ……おっ? うっ、ぬぬ……これは開かんぞ! ちょっと手伝ってくれないか?」 顔を真っ赤にさせて棺の蓋をこじ開けようとしているサキョウに近づいたティエルは、 その蓋との境目に小さな鍵穴を見つける。 「……あれ? 鍵穴があるよ。もしかして、リアンが町長さんから貰った鍵じゃない?」 「あ。これいつ使うのかと思ってたら、こんな所で使うんでしたの」 ゴソゴソとポケットから古びた鍵を出したリアンは、それをティエルに手渡した。 鍵を受け取ったティエルは、ゴクリと固唾を飲み込むとおそるおそる鍵を差し込んでいく。 ……カチャリ。 確かな手応えがあった。ティエルは深く頷くと、それを見たサキョウは棺の蓋を一気に持ち上げた。 「……!」 中には白骨化した一体の死体が横たわっていた。 頭から生やす巨大な二本の角は、所々欠けてしまっている。 頭蓋骨に空く3つの空洞から、魔王ベルゼブブは三つ目であったことが伺えた。 そしてその指には、リアンが持っていた本に記されている指輪と全く同じ指輪がはめられていた。 「これが魔王ベルゼブブと……メビウスの指輪……!」 銀色に輝く指輪と魔王の白骨を交互に見比べていたティエルは、ギュッと唇を噛みしめると手を伸ばす。 「……ごめんなさいベルゼブブさん、どうしてもこの指輪が必要なんだ……!」 しかしその指先が指輪に触れるか触れないかの所で、白骨に鋭いナイフが突き刺さった。 自分の手から数センチ程度しか離れていない場所に突き刺さるナイフを見て、 ティエルは一瞬何か起こったのか理解できずにナイフの投げられた方向を振り返る。 「残念! その指輪はアタシがいただくわよ」 いつの間に部屋の中にいたのか、豪華な金の椅子にゆったりと腰掛ける人物がいた。 ボサボサの茶の髪を短く切りそろえ、上向きの丸い鼻にそばかすを散らした……女。 棒のように細い足に弾みをつけて立ち上がり、女は余裕の表情でこちらに歩み寄ってきた。 手には数本のナイフを持ち、いつでもティエル達に投げられるような体勢を保っている。 「な……あなたは一体誰なの? いきなり現れて指輪をいただくも何もないんじゃないの??」 ゆっくりと歩み寄ってくる女を、ティエルは怒ったようにして睨み付けた。 リアンやサキョウも、いつでも飛び出せるように構えの姿勢を取る。 「……アタシ?」 女は黒の目を数回瞬くと、口元にニッと笑みを浮かべて口を開いた。 「アタシはトレジャーハンター、クロス。そのメビウスの指輪は前々から狙っていたのよねー。 あんた達には悪いけど、邪魔をするというなら……死んでもらっちゃおうかな?」 +DeadorAlive+ |