Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」
第4章+メビウスの指輪

第37話 三眼の魔王ベルゼブブ





「は……!?」
当然とばかりに指輪をよこせと言う女クロスに、ティエルは口をあんぐりと開けていた。


「これね、マニアの間には億単位で売れる代物なのよね。後ろの金銀財宝も捨てがたいけど、
やっぱり一流のトレジャーハンターとしては財宝よりも秘宝を狙うってのがスジでしょ?」

へらへらと気の抜けるような笑みを浮かべながら、クロスはスキップをしながら棺を覗き込む。



「あんた達には後ろの財宝全部譲るからさ。それで手を打とうじゃない? 売ったら一生遊べるわよ。
アタシはトラップ解除、あんた達は棺の鍵を開けた。山分けってことで」




「……悪いけど、わたし達もメビウスの指輪が必要なんだよ」
棺の中の指輪に手を伸ばしたクロスの腕を、ティエルは慌てて掴んで止めた。

「ちょっと待って! ……もしかして、あのトラップは全部あなたが解除したの?」


「だから世界一のトレジャーハンターだって言ってるじゃない。……えー、アンタらも指輪目当て!?
こんな指輪手に入れても使い道ないわよ、それより後ろの財宝売った方が賢いんじゃない?」



唇を尖らせ、鼻の穴を軽くふくらませたクロスは、腰に手を当ててティエルを振り返る。

「そんだったら仕方ないわね……ちょっと痛い目みてもらおうかな?」
「ま……まさか、この部屋に転がっていた死体はあなたが殺したんでーすの!?」



既に呪文の詠唱を完了させ、目の据わっているリアンが杖を部屋の隅の死体へと向けた。
ベルゼブブの棺に覆い被さるようにして倒れていた死体である。

「え!? なによそれ、そんなの知らないってば。そいつアタシが来たときから死んでたんだって!」
鼻息荒く、クロスは頬を膨らませる。見たところ冗談を言っているような顔つきではない。



「それじゃあ一体誰が? わたし達とあなた、それ以外の誰かがもう一人ここにいるってこと……?」
そうボソリとティエルが呟いた──その時。




「……我の眠りを妨げるのは誰じゃ……」

まるで地の底から響いてくるような不気味な男の声が部屋中に響き渡った。
その声を聞いただけで全身の毛が逆立つような感覚を覚える。



「……貴様ら墓荒らしだな。……我が崇高なる眠りを妨げる者達に……死を!!」

嗄れた男の声と共に、今まで誰もいなかった部屋の隅にボウッと人の姿が現れた。
筋肉が盛り上がる紫色の身体、頭に生える巨大な二本の角。

こちらをギョロリと睨み付ける三つの目。全身が妙に毛深い異形の怪物が姿を現したのだ。





「ま……まさか、三眼の魔王……ベルゼブブ!?」
バッと後ろに下がり、竜鱗の剣を引き抜いたティエルはいつでも飛び出せるように構えの姿勢を取る。

「でもベルゼブブは死んだはずなんじゃないの!? もしかして……亡霊!?」



「嘘でしょ!? 魔王っていうくらいなら美形ってのがお約束なのに、こいつってばブサイク」
同じくナイフを構えて棺の上に飛び乗ったクロス。


「どういうことよ、生き返ったってこと? でも棺の中には死体だって入ってるじゃない!」



「ベルゼブブの亡霊と思ってもよろしいみたいですわね。あの墓荒らしも彼に殺されたんでーすわ!」
リアンにしては珍しく焦った様子で額の冷や汗を軽く拭った。だがしっかりと手には杖を握りしめている。

「戦いますの? 亡霊と言えど、相手は仮にも魔王と呼ばれた者なんですのよ」


「……指輪を取って、逃げよう。勝ち目のない戦いをする必要はない!」
そうティエルは決断すると、メビウスの指輪を取ろうと開け放たれたままの棺に向かって駆け出す。




「そろそろ腹が減った、我が餌となるがいい……死ね!!」
その行方を阻むかのように、巨大なカマが彼女の足下に突き刺さった。


「逃がしはせぬ……貴様らも永久にここで朽ち果てるがよい!」



ベルゼブブが耳まで裂けた口を歪めると同時に、重い音を立てて入口の扉が閉まる。

「くそ……やはり開かないぞ、我々をここに閉じこめて殺すつもりだな!?」
無駄だとは知りつつも思いきり体当たりしながらサキョウが声を発した。


重い石の扉はかなり頑丈のようで、サキョウが体当たりしたくらいでは壊れそうもない。




「ちょっと今は一時休戦ね。こいつを倒さなくちゃ、メビウスの指輪は手に入らない」
仕方なくベルゼブブと戦うことを選んだティエルは、隣のクロスを一瞥する。

「オッケー、それじゃ力を合わせてコイツぶっ飛ばしますか」
フフンと不敵な笑みを浮かべたクロスは、ギラリと光るナイフを顔の前にちらつかせた。


「でも、アタシの足を引っ張らないでね? 言っとくけどアタシ結構強いわよ」




「ねえ魔王ベルゼブブ、墓荒らしだと思われてもしょうがないよね……本当にごめんなさい。
でもね、わたし達にはどうしてもメビウスの指輪が必要なの……!!」


「ワハハハ! 人間ごときが我が宝、メビウスの指輪を欲するのか? 欲に目がくらんだ愚かな者よ」

ティエルの声にベルゼブブは振り返って三つの目をスッと細めた。
そして低い笑い声を発した彼は、巨大なカマを握りしめてティエルへと向ける。



「卑しい人間の豚共に我が宝を渡してなるものか……!」




「この私に向かって、豚だなんてよくもまあ言えますわね!」
ベルゼブブの発した言葉が思いきり頭にきたらしいリアンは大きくロッドを掲げる。

「私の最強魔法でもくらいなさい! 出血大サービス、超フルパワーでお見舞いしますわよ!!」


「ち、ちょっと待つのだリアン……そんなに大きな魔法を使われては、遺跡が崩れる可能性がある!
ここが崩れたらベルゼブブはともかく、ワシらも無事にはすまないぞ!!」

「……それじゃ、どうしろって言うんでーすの」
せっかくの所を強い調子で止めるサキョウに、リアンは思わずブスッと頬を膨らませる。




「我を起こした罪は重い……ここで朽ち果てるがよい、愚かな墓荒らし共よ!!」

そんな言い争いをしているリアンとサキョウを紫色の魔王はターゲットに決めたようである。
ベルゼブブはカッと口を開いて吠えると、大きなカマを手に持って飛び込んできた。



「リアン、サキョウ! 後ろっ!!」


ティエルの声で振り返ったサキョウはリアンを突き飛ばし、振り下ろされたカマを両手で受け止める。
グググ、と暫く押し合いをしていたが、やがて渾身の力を込めてサキョウが武器を押し返した。

だが手のひらは真っ赤に染まり、刃を受け止めた時に深く切り裂いてしまったようである。
一方サキョウに突き飛ばされて転がっていったリアンは、慌てて立ち上がるとブツブツ詠唱を始めた。




「天空を舞う烈風を真空に変え、標的を切り刻め……ウインドカッター!!」

ギャッという音と共に、リアンの杖から巨大な風の刃が発生する。
それは真っ直ぐにベルゼブブに向かっていき、表皮を切り裂いて緑色の液体が飛ぶ。




「ホウ……人間の分際でこの我に傷をつけるとは。お前は美しい娘だな、我の寵姫にしてやろう」
見た目ほどは効いていない様子で、ベルゼブブは笑みを浮かべながらリアンに歩み寄っていった。


「いやーっ! 魔王の寵姫だなんて嫌でーすわ、てゆうか私筋肉質は嫌いだって……」



混乱してわけの分からないことを叫び始めたリアンの前に、竜鱗の剣を握りしめたティエルが立つ。
「お願い、メビウスの指輪はもうあなたには必要のないものでしょう?」


「それに大体魔王さんだって、指輪盗んだんでしょ? 大量虐殺までしたって文献に残ってるわよ」
同じくナイフを構えたクロスの姿。

「そんだったらアタシらの事言えないじゃない。ていうか、アンタの方がタチ悪! ついでに顔も悪い!」







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