| Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」 第4章+メビウスの指輪 第38話 魔王ベルゼブブ戦 「ウワハハ! 言っただろう? 人間の豚共が、崇高なる我の物を奪い取ろうなど片腹痛い!」 鼻先で笑ったベルゼブブは、ゆっくりとカマを頭上に持ち上げた。 「我が食ってやろう、骨も残さずな……!!」 ティエルは慌てて地面を蹴り上げると剣を前に突き出す。 風を切る音が聞こえ、ベルゼブブはそれを紙一重でかわしてしまった。 「人間の小娘よ……そんな子供だましの技では、我を倒すことなど不可能だ」 カマを振り下ろされ、バランスを崩していたティエルは避けられないと悟り、剣で受け止めようとする。 「くっ、ティエル! 眩き光よ、貫く刃となりて大地を引き裂かん……ライトニングサンダー!!」 リアンの杖から放たれた電撃で怯んだベルゼブブの隙を見逃さず、サキョウが突っ込んでいった。 「おおっ、いいわよおっちゃん。そのまま羽交い締めにしておいてー!」 後ろからサキョウに飛びつかれたベルゼブブに、 クロスがまるでダーツを投げるような鮮やかな仕草で数本のナイフを投げつける。 「う……うぬれぇぇ!」 サキョウを殴り飛ばし、投げつけられたナイフを全てカマで払った魔王は怒りの声を発した。 「我を本気にさせてしまったようだな……一人残らず八つ裂きにしてやろう……!!」 カマの形態が大きく変わり、それは大きなナタへと変形していく。 それと同時に元々毛深かったベルゼブブの身体を、さらに黒い毛が包み込んだ。 試しにクロスが背後からナイフを投げつけるが、キィンという音が鳴り弾かれる。 「あ、あわわ! こんなブサイクな化け物見たことないわよ!?」 軽く鷲掴みにされたクロスは、部屋の壁へと勢いよく叩き付けられてしまう。 「……クロス!」 投げ飛ばされたクロスを助けようと走ったティエルを、容赦なく鉈で斬りつける。 鮮血が飛び、切り裂かれた肩口を押さえてティエルが思わず蹲った。 「ティエル、大丈夫か! こいつには勝てぬ、逃げるしかない……!」 見るとサキョウが渾身の力を込め、閉ざされた扉をその怪力で開いていた。 「は、早く来いティエル……もう指輪は諦めろ、ワシがこれを支えている間にお前達は脱出するのだ!」 「もー指輪なんかどうでもいいわよ、アタシ命の方が大切だってば!」 背中を強く壁に打ち付け、少々苦しそうな表情でクロスが部屋から出る。 「こんな所、二度と来るもんか!」 「ここから生きては逃がさぬぞ、地獄の底まで追ってやろうぞ……!」 肩を押さえて蹲っているティエルに、ベルゼブブは笑みを浮かべながら近づいてくる。 既に扉の外に脱出したサキョウらを見上げ、ティエルは心底悔しそうに開かれた棺を見た。 指輪はすぐそこにあるのに。手を伸ばせば届きそうなのに。……諦めるしかないのか。 それから意を決したようにギュッと唇を噛みしめ、皆の待つ扉に向かって走り出す。 背後からはベルゼブブがズンズンと追ってきているようだ。 前を向くと、扉の向こう側からサキョウがこちらに向かって必死に手を伸ばしているのが見えた。 ティエルは肩の痛みを堪えながら、サキョウに思いきり手を伸ばす。 ……手を伸ばしかけ──そして、彼女はくるりと向きを変えるとベルゼブブに向かって駆け出した。 「ティエル!? 何を考えているのだっ!!」 「やだ、死ぬ気ィ!? あの子間違いなく死ぬよ……アタシもういや、逃げるったら逃げるわよ!」 急なティエルの行動に愕然としているサキョウとクロスの隣で、リアンは口元に静かな笑みを浮かべる。 「フッ、そうこなくちゃね!」 そして何を思ったのか、リアンまでもティエルの後を追って飛び出したのだ。 彼女達を見捨てるわけにもいかず、サキョウは扉を押さえる手を離して部屋の中に戻る。 成り行きでクロスまでも部屋の中に逆戻りになってしまった様である。 「ティエル。あなた一人にだけ、いい格好はさせませんわよ」 杖を持ち、ティエルの隣に並んだリアンは彼女の方を見て笑みを浮かべた。 「もしもここで逃げてしまったら、たとえ出直して指輪を手に入れたとしても、 それでも……二度とクウォーツさんとは出会えなくなる。なんか……そんな気がしたんですの」 「……奇遇だね、わたしも」 隣のリアンの姿を一瞥したティエルは再び剣を握りしめ、顔を前に向ける。 「──そんな気がしたんだ……」 「ハッハッハ、これは愉快愉快。とうとう恐怖のあまり呆けてしまったのか!?」 目の前にはナタを構える魔王ベルゼブブの姿。 「今更命乞いしても聞かぬぞ!」 「命乞いをするのは、お前の方だ──!!」 リアンに小さな声で何か囁きかけたかと思うとティエルは地面を蹴って飛び上がり、 ギュッと目を閉じると高笑いをするベルゼブブに向かって剣を振り下ろした。 「広大なる大地を照らす光よ、罪深き者達の過ちを問い浄化せよ! ……フローライトシャワー!!」 ティエルの声と同時にリアンは密閉された空間、それも超至近距離で強烈な光の魔法を炸裂させる。 離れていたサキョウ達はともかく、目の前で光の洪水を目にしたベルゼブブは叫び声を上げて転げ回った。 「うがあああ、目がァ、目が、目がァァァ!!」 普通の人間でさえも失明する恐れもある眩しい光は、闇の住人であるベルゼブブにとって天敵である。 メビウスの指輪を身につけていた昔ならともかく、今は光に対して全くの無防備なのだ。 眩い光によって殆ど力を失ったベルゼブブを、瞳を開いたティエルは真一文字に切り裂く。 まるで霞を裂くような感触で、あっけないほど簡単に魔王ベルゼブブは砂のように霞んでいった。 すっかり光が消え去り、もとの薄暗い部屋に戻る頃には既に魔王の姿はどこにも見受けられなかった。 こわごわ瞳を開いたサキョウとクロスは、ティエル達の無事な姿を見てホッと胸をなで下ろす。 「まさか、魔王ベルゼブブを倒したのか……!? わはは、やった! やったなー!」 「嘘ぉ!? 凄いじゃない、アタシちょとばかり感動しちゃったわよ!?」 手を取り合って喜ぶサキョウ達を微笑んで眺めたリアンは、クルリとティエルを振り返った。 「ベルゼブブが光に弱いってこと、全く忘れていましたわ。……そう言われてみればそうですわよね。 それにしても、光の魔法を間近で浴びて目は大丈夫なんでーすの?」 「うん、大丈夫。目つぶっていたから」 ニッコリと笑うティエルに、リアンは半分呆れがちに溜息をつく。 「全く無茶苦茶でーすわ……下手したら自分の目が焼けていたかもしれないんでーすのよ?」 「……でも、リアンなら上手くやってくれるって信じてたから」 満面の笑顔でそう言われ、リアンは微かに頬を赤らめながらそっぽを向いてしまった。 「早くメビウスの指輪、取りなさいな。魔王に立ち向かってでも欲しかった物なんでしょう?」 「はぁぁ……あんな凄い気迫見せられちゃ、今更アタシも指輪欲しいだなんて言えないわよ。 メビウスの指輪はアンタ達に譲るわ。アタシは後ろのお宝ちょっといただいちゃおうかしら」 ティエルの前まで歩いてきたクロスは、言葉とは裏腹にその表情はどこか晴れ晴れとしている。 「けどさ、あんた達バッカよねぇ! あんな指輪ごときの為に命落としたらどうするのよ?」 クロスの呆れ果てたような言葉に、銀色に輝くメビウスの指輪を手にしたティエルは顔を上げる。 暫く目をぱちぱちと瞬いていたが、やがて指輪を抱きしめるような形で手に包んで微笑んだ。 「──渡したいひとがいるんだ」 「……え?」 「どうしても、この指輪を渡したいひとがいるの。会いたいひとがいるの。……友達、なんだ……」 心底嬉しそうに笑うティエルにクロスは暫し目を瞬くが、やがて歯を見せて明るい笑みを浮かべる。 「ふっ、いいんじゃないの。せっかく命がけで手に入れた指輪なんだから、絶対友達に渡しなよ?」 「うん。渡すよ、何があっても必ず。──彼に」 +DeadorAlive+ |