Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」
第4章+メビウスの指輪

第40話 北へ!





今夜の宿を提供してくれると言う町長夫人の申し出を、ティエル達は快く受けることにした。
何しろ今日は色々なことがあったので、身体中クタクタである。




「もーダメ、足が棒だわ。ティエルはもう歩けませ──ん」

ふかふかの白いベッドに、ティエルはまるでダイビングをするように勢いよく飛び込んだ。
バフッと柔らかい羽毛が疲れた彼女の身体を優しく包み込む。


シーツには太陽の匂いが染み込んでいて、あの魔王の遺跡から無事に戻ってこれた幸せを実感する。
この部屋はティエルとリアンだけであり、今頃サキョウは別室で眠っているであろう。



「今日ばかりはさすがの私も死ぬかと思いましたわ。
だって……まさかあの魔王ベルゼブブを相手にするなんて、ほんと正気の沙汰じゃありませんわよ」

少々むくんだ足に軽くマッサージをしながら、リアンが溜息と共にそう呟いた。




「……でも、リアンも一緒にベルゼブブに立ち向かったじゃない? 勝てるはずがない相手に」
重い靴を脱ぎ捨ててベッドに俯せになり、頬杖をつきながらティエルはリアンを見上げる。

「逆に殺されてしまうかもしれない相手に、リアンだって最後……一緒に立ち向かってくれたじゃない」



サキョウもクロスも、ベルゼブブに勝てないと悟って脱出しようとしたあの時。
無我夢中で魔王に向かっていったティエルの後を追ってきたのは──リアンだったのだ。

逃げた方が賢かったのかもしれない。自分は実に愚かなことをしたのかもしれない。
けれど、何故かティエルの心は清々しいのだ。




「……私も、本当バカなのかもしれませんわね。あんな無鉄砲な行動、生まれて初めてですわよ」
リアンはそう言うとティエルに向き直り、その頭を二回ほどポンポンと軽く叩く。

「誰かのために自分の命を懸けるなんて、初めてですわよ……」



「わたしだって初めてだよ。城にいたときは、誰かのために自分の命を懸けるなんて考えもしなかった」

少々乱れた髪を撫でつけたティエルは、そのままゴロンと仰向けに寝転がった。
天井には優しい色合いのシャンデリアが飾られている。


懐をまさぐり指輪があることを確認すると、それを取り出してロウソクの鈍い光に照らした。




「……でも、どうしても、わたしはこの指輪を彼に……クウォーツに渡したかったの。
ただそれだけを考えてて……気がついたらベルゼブブに向かって走り始めてたんだ」


「絶対、ぜーったいクウォーツさん喜びますわよ!」
満面の笑顔をティエルに向け、リアンはポンと両手を合わせる。

「私達が命がけで取ったんですから、喜んでもらわないと困りますけれどねー」


「あはは、そうだね」
「さぁ明日はハイブルグ城に向けて出発しますから、早めに寝なさいな。一筋縄ではいかなそうですし」

そう言ったリアンは、一つ大きなあくびをすると布団の中に潜り込む。



「あのこわーいギョロイアばあさんが、そう簡単にクウォーツさんと会わせてくれるとは思えませんしね」
「うん、確かにそうかも。それじゃお休みー」

言葉を返したティエルはフッとロウソクの火を吹き消すと、自分も静かに目を閉じた。





**********





──早朝。

ひんやりとする霧に包まれながら、ティエル達は町長夫妻に礼を言って館を出た。
通りにはまだ誰も歩いていない。


町の出口に向かって歩き始めたティエル達の背後から、ドタドタと足音が聞こえてくる。



「おはよう!」
振り返ると大きなリュックを背負ったクロスが、息せき駆けてくるのが見えた。

「ティエル達がこんな早くに出発するとは思わなかった。せっかくだから、街の外まで一緒に行こう」
普段からピンピンとはねている髪は、寝癖のため更にボサボサになっている。




「クロスも出発するんだ。てっきり2、3日この町にいるのかと思ったよ」
「まあね。それもよかったんだけど」

ティエルの言葉に頷いて、実にあっけらかんとした口調でクロスは言う。



「トレジャーハンターはいつでも、でっかい宝を求めて探求の旅に出るのよ」

「……へェ、何だかロマンティックでーすわ。
私もこの旅が終わったら、トレジャーハンティングするのも悪くはないですわね」

クロスの大きなリュックを眺め、リアンが冗談か本気か分からないような事を呟いた。



「いい男をハンティング! ……なぁんてね」
「お前にゲットされる男は大変そうだなぁ……」

「何か言いまして?」


「う、うむ、何でもない」
リアンにギロリと睨み付けられたサキョウは思わず小さくなる。




町の出口まで来たティエル達は一旦立ち止まった。外はまだまだ霧深く、聞き慣れぬ鳥の声が聞こえる。

「……よいしょっと」
リュックを軽く背負い直したクロスは、ティエル達とは別方向を指さす。


「それじゃ、アタシこっちだから。あんた達のことは忘れないわ。元気でね!」
「クロスも、元気で」



クロスは一人一人と握手を交わすと、大きく手を振って霧の中を進んでいった。
霧に包まれて、彼女の姿はすぐに見えなくなる。





「……いよいよ、ギョロイアの所に行くんですのね。怖くないと言えば嘘になりますけど」
ギュッと強く唇を噛みしめながら、リアンが誰に言うわけでもなく呟いた。

「ここからだと、ハイブルグ城は北になりますわ」



「……クウォーツ、無事かな」

ティエルは懐に大切にしまっているメビウスの指輪を、服の上からその存在を確かめる様に触れる。
確かな感触。指輪は、ちゃんとここにある。



「ギョロイアはあのヴァンパイアの青年を利用しようとしているのだろう?
ならば、そう簡単には殺すまい。僧侶の掟に反するが……彼の無事を祈ろうではないか」

表情の曇ったティエルの方を振り返り、サキョウは柔らかい笑みを浮かべる。



「うん……!」
力強く頷くと、ティエル達は前へ進み始めた。


──ハイブルグ城へ。







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