| Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」 第5章+君が、微笑んだ夜 第44話 Moonlight Sonata -4- 「オレ達が神に代わって天罰を与えるのだ!」 「あの城の者達は皆殺しだ。城主は引きずり回して、最高の恐怖を味わわせてやるんだ!!」 「ち、ちょっと待って、落ち着いてよ、神に代わって天罰を与える権利なんか誰にもないよ……!」 一方。 夜空に不気味に浮かび上がるハイブルグ城を前に、町人達は武器を片手に乗り込む作戦を立てていた。 彼らはあの城の住人全てを天罰と銘打って皆殺しにしようというのだ。 あまりにも異様な志気に、ティエルは思わず口を開いていた。 「こういうことは城の人たちと話し合って、ちゃんと双方の意見を聞いた方がいいよ。 問答無用に皆殺しだなんて、それはいくらなんでも……」 「……甘いな、馬鹿なお嬢ちゃん」 その言葉に大きな斧を肩に担いだ大男が振り返り、唇を噛みしめているティエルの肩を強く叩く。 「昔城にいた者の話によると、なんでも青い髪の気味悪い男がいるらしいじゃねぇか。 青い髪は悪魔の刻印……あの城にいるのは悪魔だ。生きる価値なんて全くねぇ奴だ、分かるか?」 「自分たちの近くに、あの忌むべき悪魔がいるなんて……考えただけでもおぞましい!」 反対側の男も口を開いた。 「よし、死体を貪り食っていた小柄な老婆は、見つけ次第好きにしろ。 そして青い髪の奴は悪魔だ、容赦はいらんが簡単に殺すなよ。肉塊になるまで町中引きずり回せ!!」 「うおおおー!!」 もはや町人達はよそ者のティエル達が止めても聞き入れてくれるような状態ではなく、 彼女は思わずメビウスの指輪をギュッと握りしめる。 「うわぁいっ。とうちゃんは強いんだぞ、町の勇者なんだぞ!」 先程の斧を担いだ先頭の大男の傍らに、棍棒を握りしめた10歳程度の少年が立っていた。 「だからボクも、とうちゃんと一緒に悪者をやっつけるんだ! ボクも勇者になるんだぞっ」 「……あなた、何考えているんでーすの? こんな小さな子まで吸血鬼討伐に行かせるつもり?」 ぴょんぴょんと飛び跳ねる少年を見つめ、思わずリアンが眉をしかめる。 「町の勇者だかなんだか知らないですけど、そんな危険な場所に子供を連れていくなんて、 親としての自覚が少し足りないんじゃなくて?」 「ガハハ! 心配はいらねーよ、コイツはオレがしっかりと武術を叩き込んでいるんだ。 オレは昔、町に進入した魔物を退治したことがある。こいつもオレのようになってもらわねぇと」 「よぅし、さぁ行くぞ皆!」 ウオオォォォ、と言う耳が張り裂けんばかりの歓声と共に、男達はゆっくりと進み始めた。 おそらく女達は化け物を恐れて家の中に隠れているのだろう。 その遠ざかっていく後ろ姿を暫く物も言えず呆然と眺めていたティエルだったが、 ハッと我に返ると背後に立ちつくしているリアンとサキョウに向き直った。 「……こ、このままじゃクウォーツは間違いなく殺されるよ……!」 「あの男達よりも先回りして彼を助け出すの。……それしかもう方法はない」 顔面蒼白でガタガタと小刻みに震えているティエルの肩を優しくリアンは引き寄せる。 そして、しっかりとした口調で言った。 「下手をしたら私達も町人達に殺されるかもしれない。命の保証はできないですわ。 それでも……──よろしくて?」 「……まさに命を懸けて彼を救いに行くことになりそうだな。しかし、ワシらには大切な目的がある。 たかがヴァンパイアの男ごときのために、命を捨てるような真似は愚かとも言えよう」 腕を組み、珍しくサキョウは厳しい口調で言葉を発する。 ──こんなサキョウの声は聞いたことがなかった。 「第一、あの者とは一夜限りの出会い。はっきり言えばワシはクウォルツェルトを人として認めたくない。 ……こんな所でむざむざ命を捨てるような事までして、あの男を救う価値があるのか」 そのサキョウの鋭い言葉に、ティエルらは一瞬言葉につまった。 言ってしまえば、クウォーツのことを全然知らない。彼と共にいた時間はあまりにも短すぎる。 たとえクウォーツを救い出したとしても、彼はヴァンパイア族なのだ。 純粋ではあるが危うい狂気を併せ持っている彼に殺されることもあり得るかもしれない。 それでも自分は、彼を救うことができるのだろうか? 自分を犠牲にしてまで、クウォーツを助けようと思えるのだろうか? (わたしは、単に彼が可哀相だから……それだけで、彼を救いたいと思っていたの……?) 「……救う価値? それって一体どういう意味? 救う価値のあるひとって一体どんなひとなの? 偉い王様? 皆に好かれているひと? 共にいた時間が短いからって、大切に思うことは変なの?」 そう低く呟いたティエルは、もう迷いのない眼差しでキッとサキョウを見つめ返した。 目頭が熱くなるのを感じたが堪え、決して瞳を逸らすことなく。 「──ひとを助けるのに、価値なんか必要あるの……?」 『……私に彼女を殺すことはできない。無理だ……最初から無理だったんだ』 彼だって、わたし達を助ける為の理由なんかなかった。価値なんか考えていなかった。 けど、助けてくれた。わたし達の血を吸わないと、命すら危ない彼が。 「クウォーツと約束したんだ。昼の庭園散歩しようって。一緒に……行こうって……!!」 「……」 暫くティエルの瞳を見つめていたサキョウは、それからフッと包み込むような優しい笑みを浮かべた。 それはいつもサキョウが浮かべる、ティエルの一番好きな笑みであった。 「ああ……そうだ。誰かを助けるのに価値など必要ない。それが、たとえ人間でなく悪魔だとしても」 サキョウの表情が、どこか寂しげな笑顔に変わる。 「……ワシは怖かったのだ。もしも僧侶のワシが吸血鬼であるクウォルツェルトを認めてしまったら、 今まで自分が信じてきたものが全て崩れ去ってしまうような気がしてな……」 サキョウがまだ幼い頃。 ヴァンパイアに惨殺された両親の仇を討つために、彼はただ復讐だけに全てを捧げてきた。 遠い親戚であったベムジン大僧正の養子に志願し、血の滲むような努力を続けてきたのだ。 両親の仇のヴァンパイアは特徴も分からず、まだ見つかってはいない。 それならば。サキョウは思った。 全てのヴァンパイアを皆殺しにすればいいだけではないか、と。 実際ヴァンパイアであるクウォーツを目にしたときに、これは神が与えてくれた幸運かとも思ったのだ。 「ごめんね、サキョウ。……サキョウは辛いよね、僧侶だもん。ずっと悪魔と戦ってきたんだよね」 項垂れてしまったサキョウの力強い手を、ティエルはそっと握りしめた。 「なら、わたしは一人で行く。ここで逃げてしまったら、今度こそ何もかも終わってしまう気がする」 「あぁららら、ティエルったら。ちょっとこの私を忘れないでいただきたいですわ。 私だって一人でも行きますわよ。どーしても行かなくてはならない理由があるんでーすの!」 「……まったく……そこまでワシに言っておいて、一人で行くとは言わせんぞ」 リアンとサキョウが顔を見合わせて、ニッと口元に笑みを浮かべる。 「それじゃ、こんな所でゆっくりしている時間はありませんわよ!」 とびきり元気の良い声を発したリアンは、使い慣れたロッドをクルクルと回して振り返った。 そして、ティエルの手に握られるメビウスの指輪を指さす。 「せっかく苦労して手に入れたメビウスの指輪なんですのよ? ……絶対に彼に渡さなきゃ!」 「うん……!」 +DeadorAlive+ |