| Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」 第5章+君が、微笑んだ夜 第45話 ハイブルグ城突入 月のない夜。 ツタがビッシリと絡み付く不気味なハイブルグ城は、町人達の気迫を削いでしまうようであった。 空には黒い生き物がギャアギャアと泣きながら円を描いて飛び回っている。 昼でさえ誰も近づかない得体の知れない城なのだ。夜ではより一層不気味に見える。 武器を持った男達は一瞬だけたじろぐような表情を見せたが、やがてリーダー格の男が前に進み出た。 「……いいか、これは神の天罰なんだ。恐れることは何もねぇ。俺達には神がついている! 汚らわしい悪魔共を、この手で葬り去るんだ。容赦はいらねえ……!!」 「オオーッ!!」 一気に高まる気迫。男達は武器を掲げて大きく吠える。 再び活気づいた町人達は古びた鉄製の門をなぎ倒し、ドカドカと正面入口の前に詰め寄った。 「おい、扉を開けやがれっ。伯爵を出せ、隠すとためにならんぞ!!」 リーダー格の男が声を張り上げると重々しい扉がゆっくりと開き、中から神経質そうな召使いが姿を現す。 細い眉毛に細い髭。ピシッと黒いスーツを嫌味に着こなしていた。 「騒がしいですねえ……ハン、その小汚い格好は町の者達ですか」 綺麗にカットされた洒落たヒゲの先をつまみながら、召使いは汚いものを見るような眼差しで言う。 「この高貴なる城の敷地内に土足で入るとは野蛮な奴らですね。 ここはお前達のような下等な生物が入ってもよい場所ではないのですよ。早く立ち去りなさい」 「高貴なる城だぁ? 聞いて呆れるぜ、この気味の悪い化け物共が!! そう、てめえらはいつも俺達を汚い物を見る目つきで接していやがった」 「その屈辱を晴らしに来たぜ!」 肩に担いだオノをトントンと叩き付けながら、町人達は何かが乗り移ったような表情で薄く笑った。 普段なら後込みしてしまう場所でも、この人数では心強い。目の前に立つ召使いが小さく見える。 無視してズンズンと城内へ進入する町人達に驚いた召使いは、慌てて彼らの前に立ちはだかった。 「聞いているんですかねぇ、小汚い豚共がこの城に入ることは許しませんよ!!」 「……やっちまえ」 リーダー格の男がニヤリと不気味な笑みを浮かべると、召使いの背後に数人の町人達が忍び寄る。 そして、一気に武器を振り下ろした。 ザクッ、ドカッ。グチャッ、グチャ。……ドサッ。ベチョリ。 薄笑いを浮かべた町人達は、倒れた召使いに尚もナタを振り下ろしていた。 既に召使いは人の形を成しておらず、ただの肉塊となり果てていても殴打は止まることなく続く。 「ケッ、いい気味だぜ。俺達を豚扱いした罪は重いんだよ」 潰れたトマトのようになった召使いを足で踏みつぶしたリーダー格の男は前に進み出ると、 手に持った大きなオノで入口の扉をメキメキと破壊し始めた。 頑丈な木の扉も、巨大な斧を叩き付けられてはひとたまりもない。 扉が完全に押し倒されると、男は武器を掲げて振り返る。 「各自散れ、女だろうが男だろうが人間と思うな。皆殺しだ! 青い髪の悪魔を見つけたら、即オレに報告しろ。いいか、そいつだけは簡単に殺すなよ……!!」 ウオオオ、とうなり声を上げ、城の中へと突進していくと男達は散っていった。 「き、きゃぁぁぁーっ!!」 正面ホールになだれ込んだ町人達は、悲鳴を上げて逃げ惑うメイドの髪を掴んで引きずり回す。 ブチブチブチ、と髪の毛が引きちぎられる嫌な音。 掴んだ髪の束を放り捨てると、壁際に追い詰めた無抵抗のメイドに向かって次々と斧を振り下ろしていった。 赤黒い絨毯が、どんどんと血の色に染められていく。 そして数人の町人は、一人の痩せた召使いを追い詰めていた。 ガタガタと震え、唇は紫色に染まっている。 「バッ、バカなっ。こんな事をして許されると思っているのか!? 小汚い町人のくせに……!!」 「おい、この城には青い髪の男がいると聞いたんだが……そいつはどこだ?」 町人達は武器を手に、後ずさっていく召使いを薄笑いを浮かべジリジリと囲む。 「ど、どうか、命ばかりはたしゅけてくれぇ!!」 「だったら言うんだ、青い髪の男はどこにいやがる!?」 「言う、言うから助けてくれ! クウォルツェルト様だっ! ち、ちち、地下牢にいらっしゃる!!」 顔面蒼白で召使いはブルブルと震えた手で、大理石の置物に隠れた地下への階段を指さした。 「……クウォルツェルト様?」 「そ、そうだ、あの方は青い髪をしていらっしゃる! お前らはクウォルツェルト様が目的なんだろう、それならオレにはもう用はないだろ!?」 「そういやそうだな」 顔を見合わせてニヤリと笑う町人の姿に、召使いはホッと胸をなで下ろす。 が、次の瞬間。 「なんて言うわけねぇだろ、テメーも死ぬんだよ!!」 ザクッという音と共に、召使いの頭に斧が振り下ろされた。 「おい、みんな! あそこの地下室に化け物がいるらしいぜ……勢い余って殺すなよ!!」 ********** 一方、町人達に一歩出遅れたティエル達は、無言のまま暗い森の中を走り続けていた。 木の根に何度も躓いて転びそうになりながらも、キッと前を見つめて走り続ける。 急がなきゃ。どうか、無事でいて。 願いはただ一つ──間に合って欲しい……。 汗ばんだ手に握られるメビウスの指輪の感触を確かめ、ティエルは祈るように唇を噛みしめた。 暫く物言わず走り続けていたが、やがてゆっくりと足を止める。 目の前に不気味にそびえ立つハイブルグ城。……最後に見たときと、何も変わっていない。 「やっと……辿り着いた」 ハアハアと乱れている息を整えると、ティエルは顔を上げてハイブルグ城を見つめる。 ツタに追われ、ここから逃げ出したときは胸が張り裂けそうな思いでいっぱいであった。 けれど、ようやくここまで来ることができたのだ。 ──今度こそ、必ず。掴んだその手を離したりはしないから。 「この様子じゃ、町人達は既に城の中に入ったと考えてもよさそうですわね」 リアンの声にティエルとサキョウが顔を上げると、倒された門と、乱暴に破壊された扉。 そして、思わず目を背けてしまいそうなほど凄惨な人間の死体。 何度も何度も執拗に鈍器や刃物で殴られたような形跡がある。 「……ひどい。どうしてこんな残酷なことができるんだろう……」 暫く言葉を失ったまま死体を凝視していたティエルは、ふと寂しそうに目を細めた。 「理性がなくなると、見境がなくなって……手当たり次第にひとを殺して、物を壊して。 やってること、モンスターたちと全然変わらないよ……」 「……でも人間はね、ひとりじゃなーんにもできないんですのよ。これほど臆病な生き物はいませんわ。 けれど、集団になったときが怖い……集団は人間を残酷にさせる力があるの」 どこか複雑な表情で、リアンがティエルに向き直りながらそう呟いた。 「この者に……安らかな眠りを」 スッと手を合わせたサキョウは、肉片と化した死体に静かに祈りを捧げる。 「人間は弱い。悪魔と違って身を守る術を持たない。弱いからこそ、残酷になれるのだ。 さあ、こんな所で立ち止まっている暇はないはずだ。彼を助けたいのだろう? ……急ごう!」 サキョウの力強い一言に深く頷くと、ティエル達はハイブルグ城へと足を踏み入れた。 あんなにも荘厳華麗であった城内部は、町人達の進入であちこち破壊されていた。 散らばる髪の毛、腕、足。血飛沫。倒れている無惨な死体達。 殺されているメイドの中には、ティエルの見知った顔もいくつかあった。 唇を噛みしめ、ティエル達は一人一人顔を覗き込むようにして歩いていく。 その倒れている死体達の中に、どうか青い髪が見つからないように。祈りながら。 「けど、一体クウォーツはどこにいるんだろう。無事に逃げてくれていたらいいんだけど……」 一通り辺りを見回し、ティエルは仲間達を振り返った。 「もしかしたら、自分の部屋にいるかもしれんぞ。可能性は少ないがな」 「……行ってみた方がいいですわね」 サキョウの一声で、ティエルらはクウォーツの部屋まで行ったのだが。 既にそこは滅茶苦茶に壊されており、勿論クウォーツの姿も見当たらない。 たまに閉じた扉から悲鳴や物の壊れる音、怒鳴り声が聞こえてくる。 「あなたは、一体どこにいるの……」 静かにかがみ込んだティエルは、床に付けられた無数の引っ掻き傷に目を留めた。 何個も重なり合うようにして、今にもうめき声が響いてきそうな程苦しげな引っ掻き傷は、 無論クウォーツのものだろう。 (こんなにも苦しんでまで、彼が信じているもの。わたしは、それを……あなたに) そっと懐にしまってあるメビウスの指輪に触れた。 「……早くクウォーツを見つけなければ」 +DeadorAlive+ |