Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」 第1章+少女ティエル


第6話 暗黒騎士ヴェリオル





深い眠りについていたティエルは、何故か急に目が覚めてしまった。
普段ならば決して夜中に目覚めたりはしない彼女なのだが、目をこすりながら身を起こす。


その時皆寝静まったはずの廊下を歩く足音が、彼女の耳にはっきりと聞こえてきた。



(誰かが、こちらへ向かってくる……!!)
その足音に何か嫌なものを感じ取ったティエルは恐怖のあまりに、毛布を抱きしめながら震えていた。

どうか、このまま通り過ぎてほしい。そんなことを願いながら扉を凝視し続ける。



──しかし、足音はティエルの願いに反し、彼女の部屋の前で止まった。
激しく打つ心臓の音を聞かれていないだろうか。この震えの音が聞こえていたりはしないだろうか。


ただジッと扉を見つめながら、ティエルは固まったように動かなかった。



……やがて。しっかりと鍵のかけられたはずの扉が静かに開かれる。


「……!!」

息を飲んだティエルの前に姿を現した男は、あの左大臣ゲードルと一緒にいた黒髪のヴェリオル。
男はティエルの姿を見つけると、満足そうに笑みを浮かべた。



「……ティアイエル。いや、ティエルだな?」

まるで品定めをするかのように、ヴェリオルはティエルを目を細めて眺める。
それだけで全身の血が凍り付いてしまったような錯覚さえ覚えた。



「オレはヴェリオル=D.S=ガルフォース。怖がらなくていい、オレはお前を迎えに来たのだ」


ガタガタと震えながら毛布を抱きしめるティエルに、不気味な笑いを浮かべながらヴェリオルは、
彼女の首を掴むとそのまま容赦なく上に持ち上げる。



「もしも共に来ることを拒むのなら、お前に残された道は……死だ」

「う……あっ、は……なして……!!」
必死になってティエルは抵抗するが、ヴェリオルの腕はびくともしなかった。



「さあ、どうする? オレに全てをささげて生きるか、ここで死を選ぶか……好きにするがよい!!」

「……嫌だ!!」
そう叫びながらティエルは、皮膚がめくれ上がるほど強くヴェリオルの腕を引っかく。


意外な攻撃にヴェリオルは思わず彼女を掴んでいた手をゆるめ、そのまま地面に叩き付けた。



「……この小娘! ……そうか、分かった。それが貴様の出した答えなのだな?
もう少し賢く生きなければ、貴様も愚かな祖母ミランダのように無惨な死に様を晒すことになるぞ」


「ゲホ、ゲホッ……おばあさま? お前……おばあさまに何をしたのっ!?」

ティエルは這いずりながら、ガリオンから譲って貰った剣を掴んで立ち上がる。
それに対しヴェリオルは、気になるなら自分の目で確かめろ、というジェスチャーで答えた。



弾かれたように廊下に飛び出したティエルが見たものは、無惨に刺殺されている祖母の姿であった。



「あ……ああ……おばあさま……っ」
返事はない。振り返ると、余裕の足取りでヴェリオルがゆっくりとこちらに向かってくる。


「ねえ、誰か! 誰かいないの!? お願い助けてよ……!!」



「何事ですかな?」
そのティエルの叫び声を聞きつけたのか、聞き覚えのあるゲードルの声と共に兵士達が駆けつけてくる。

「これはこれはティエル姫様。おや! その死体はミランダ様ではないですか? おいたわしい……」



よくよく見れば、にじり寄ってくる兵士達の顔は眼球が飛び出し、半分溶けていた。
いやらしい笑みを浮かべながら、ゲードルがにじり寄ってくる。


「さあ、こちらへおいでなさい姫様。我が部下、ゾンビ兵士達が可愛がってくれますよ……」



バッと反対側を振り返れば、ヴェリオルが歩いてくる。

「……ゲードル、これはどういうこと? お前、ヴェリオルと手を組んでいたの!?」
祖母の亡骸を抱きしめながら、ティエルは叫ぶようにして言葉を発した。



「この犬めは既にオレに買われているのさ。……このメドフォードをくれてやるのを条件に、な」
長い前髪をかき上げ、ヴェリオルは冷たい笑みを浮かべる。



──そんな、気を失いかけたティエルの耳に、しっかりとした安心するような声が聞こえた。


「ティエル姫様ご無事ですか!? おのれくせ者、この副騎士団長ガリオンが相手だ……!」
幾人かの騎士達を連れたガリオンが、こちらに向かってくるのが見えた。



「姫様やミランダ女王様に働いた無礼、その命をもって償ってもらおう!!」

スラリと剣を引き抜き、ティエルの前に立ちはだかったガリオンはヴェリオルを睨み付ける。
暫く笑みを浮かべてその様子を眺めていたヴェリオルだったが、面白そうに口を開いた。



「ほう、小僧が。このオレを相手にするのか? いいだろう……相手になってやる」



「姫、ここはオレ達騎士団に任せてあなたはゴドー殿の所へお行き下さい」
状況を飲み込むことができないティエルの両肩を、ガリオンは掴んで言い聞かすように言葉を発する。


「既に城内には、ゲードルが放ったゾンビ達が蔓延っています。
ヤツらは痛みなんか感じない。まさか、倉庫にゾンビが隠れているなんて思いもしなかった……!」



「ガリオン、あなたは逃げないの? 一緒に、逃げないの……?」



キン、キンとゾンビと闘う騎士達の剣の音が、辺りに響き渡っている。
それを一瞥したガリオンは、フッと優しげな笑みを浮かべた。


「オレはこの国を、そしてあなたを守るために剣を握った。逃げる事なんて……できませんよ」
「……ガリオン……」



「姫様! 早く、こちらです!!」

兵士を連れたゴドーがこちらに駆け寄ってくる。
ティエルはキッとヴェリオルを睨み返すと、何かを振り切ったかのようにゴドーのもとへと駆け出した。



「さようなら……ティエル様」
そう寂しげにガリオンは呟くと、自慢の長剣をヴェリオルに差し向ける。


「オレはただでは死なない、お前の首を取ってからだ……!!」









「一体何が起こっているんですか? 気付いたら階下はゾンビだらけで、
姫様やミランダ様は不気味な暗黒騎士に襲われているしで……あの者は一体誰なんです!?」


「……おばあさまはあの男、ヴェリオルに殺された。わたしはあいつを絶対に許せない!
この手でおばあさまの仇を取ってやる……!!」


ひとまずゴドーの部屋まで辿り着いたティエルは、剣を握りしめて怒りに震えていた。
先程までの震えは恐怖の為であったのだが、段々と怒りの方が勝ってきたようだ。



「ティエル姫、敵討ちなどお考えにならぬように……今は逃げることだけを考えるのです!」
今にも部屋を飛び出していきそうなティエルの腕を、しっかりとゴドーは握る。

「ガリオン達が、どんな思いで姫を逃がしたのか……それをお考え下さい。軽率な行動は避けるように。
彼らの思いを無駄にするおつもりですか!?」



その言葉に、ティエルはびくっと身を強ばらせてゴドーを見つめた。
怒りと、迷いと、悲しみが混ざったような瞳。


「ご安心下され、姫様はこのゴドーが守ります。姫様と共におります」



「うわあ、ゴドー様っ。こちらにもゾンビが向かってきました! 早く姫を連れてお逃げになって下さい!!」

バタンと扉が開いて、ジョンとリックが飛び込んできた。二人とも至る所に傷を負っている。
廊下に出ると、ゾロゾロと無言のゾンビ集団がこちらに向かって来ていた。


先の方では、女官達や学者達が逃げ惑っているのが見える。



「なんなの……これ……なんで、こんなことが起きなくちゃいけないの……?」
まるで呆けてしまったかの様に呟き続けるティエルに、ジョンとリックが笑顔で振り返った。


「大丈夫ですよ、姫様!」
「オレ達だってこの国を守ることができるんだって、証明しますよ!」

それから、ゴドーに。



「ゴドー様、ティアイエル姫様を……オレ達の希望だった姫様を、よろしくお願いします」



「……分かった、ティエル姫はこの私が必ず守り抜く」
暫く兵士達と見つめ合ったゴドーは、そう言うとしっかりと頷いた。






+DeadorAlive+