Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」
第6章+大海の不死鳥伝説

第62話 海底神殿-2-





「眩き光よ、貫く刃となりて大地を引き裂かん……ライトニングサンダー!!」

リアンの高い声と共に、薄暗い辺り一面に眩い光の帯が炸裂した。
壁を反射して四方に飛び散ったそれは、目の前に立ちはだかるモンスター達を直撃する。



「きゃあ、やりましたわ! それにしても全然手ごたえがありませんわねぇ」

黒い煙を発しながら倒れるモンスターを前に、青緑の髪をした美しい娘リアンが飛び跳ねた。
白いスカートのスリットから、すらりと伸びた足で優雅に歩きながら仲間達の元へと向かう。


「こんな骨なし共ばっかりじゃ、私一人の魔法で充分ですわ。楽勝でーすわ」




<……ふむ、なかなかやるね。どうやらぼくはあなた達を少々見くびっていたらしい>
ふわふわとおぼろげに浮かぶ不死鳥ジハードは、意外そうに目を瞬きながら彼女に声をかけた。

<けれど、カリュブディスはそんな雑魚とは比べ物にならないよ。気を引き締めてかからないと>



「どんなヤツでもこの超キュートでセクシーな美人魔法使いである私の魔法にかかれば、
どぉーってことないでーすわよ、オーッホッホッホ!」

まるでどこかの女王様のように胸を反らしながら高笑いをするそんなリアンを、
隣でクウォーツは完全に白けたようにして見やった。



「……本当に口数の減らない奴だな。あまり喋り過ぎると、自分の頭の悪さを余計晒すことになるぞ」
そう言う彼は、先程からナマモノは斬りたくないと黙って見ているだけであるが。


「なっ、なんですって!? この根暗ヴァンパイア、あなたも黙ってボケッと見てるだけじゃなくて、
少しは役に立ちなさいな! まったく、態度だけはでかいんですから……」



「おいおい二人とも、海底にまで来てケンカするでない。敵に気づかれたらどうするんだ……」

掴みかかろうとするリアンを軽くかわしているクウォーツを暫く見ていたサキョウだったが、
やがてヤレヤレと仲裁に入るために二人の元へと向かっていく。




「……ねえ、ジハードって言ったよね?」
竜鱗の剣を鞘に収め、ティエルがとことことジハードに歩み寄ってきた。

「あなた、ずっと海底に閉じ込められていたって……どうしてか聞いていいかなぁ?」



その言葉に一瞬だけであったが、ジハードから普段の温厚な表情が消えて厳しい表情が横切っていく。

まさしく『憎悪に燃える』と表現した方が正しいその瞳に、ティエルは思わず鳥肌が立ったが、
それを表情に全く出さずに彼の瞳をジッと見つめる。



<その通り。ぼくは長い間、この海底神殿に閉じ込められていたんだ>

しかし次の瞬間、ジハードは何事もなかったかのようにニッコリと笑顔を浮かべて振り返った。
修羅と慈愛、双方とも抱え込んだ少年……というのは、彼を表現するのに最も適した言葉である。


<あなた達は皆夢を見たんでしょ? あれの通りだよ、ただの人間だと思って油断していてね。
まさか封魔石を持っていたなんて思いもよらなかった>




どこからか、雫が落ちる涼しい音が響いてくる。
その音は静まり返っている辺りに反響して、ひどく不気味な余韻をいつまでも残していた。

まるで硝子のように一本一本透き通った白い髪に手を触れ、ジハードはティエルから視線を外す。


<不死鳥の生き血は、不老長寿の効果があるとされている。
どうせ限りある命なのに、それを無理矢理に伸ばして生きようとする気持ちが分からないよ>




「……私は少しだけ気持ち分かりますわ。誰だっていつまでも若く美しくありたいじゃないでーすの」
青緑に輝く長い髪を払いのけながら、リアンがボソリと小さな声で呟いた。

「人間なら持って当然の夢じゃないんですの?」
「うーん、わたしは別に思わないけどね。年月と共に年取っていく方が自然じゃないかなぁ?」



「ワシもこの鍛えた肉体が衰えていくのは物寂しい気もするが……」

首を傾げるティエルの隣では、深刻そうな表情になったサキョウが低く唸り声を発する。
サキョウのように肉体を駆使する者にとっては衰えが天敵なのだろう。



「ギョロイアは私を不老不死にしようとしていたが……別に私は興味なかったな」

<……おや珍しい、あなたはヴァンパイア族か。あなた達の種族は元から不老長寿であるからね。
ぼくと結構感覚は似ているのかもしれない>

額に貼り付けられた青い札に軽く息を吹きかけ、ジハードは何とも言えないような笑みを見せた。



<まぁ、こんな話はあなた達に話す話じゃなかったね。先を急ごうか>
再びふわふわと宙に浮かび上がった彼は、延々と奥まで続く水晶の廊下を指さす。


<この廊下を真っ直ぐに進んでいくと、カリュブディスの部屋に到着する。気を引き締めないとね>



「了解!」
ピッと敬礼のような仕草をしたティエルは、ジハードに向かって笑いかけた。

「あなたは血を求める人間達の所為でひどい目にあっているのに、
人間であるわたし達をダゴンから助けてくれて……ここまで連れてきてくれて、本当にありがと」




<……>
毒気のないティエルの笑顔を呆然と眺めていたジハードであったが、慌てて表情を戻す。


<か、勘違いしないでおくれよ……ただ、ぼくはあなた達と利害関係が一致しただけなのであって。
本来であったならば、ぼくは人間達の頼みなど聞かないのだからね>



「それでもいいよ。わたし達を助けてくれたことには変わりはないんだから」

ジハードの言葉などまるで気にしていないように、ティエルはあっけらかんとして答えた。
このまま何を言っても彼女には通用しないであろう。


不死鳥である自分が人間の少女の言葉にひたすら慌てているのが妙に照れくさくなり、
ジハードはため息と共に彼女に背を向ける。




<(はぁ……おかしいな、この者達と話していると調子が狂う。相手は忌むべき人間なのだよ……?)>


いつの時代でも、ジハードは醜い欲望の塊の人間達を見続けてきた。
勿論、彼は何度も彼らを信じようと思った。本来ならば人間達は、弱く心優しい生き物なのだと。


しかし彼ら人間達は、あの手この手を使って生に縋り付こうとしていた。
不死鳥と呼ばれるものを殺し、その血を奪い合うようにして貪り尽くしたのだ。


そこでまた、不死鳥の血を巡って争いが起きる。汚い言葉で罵り合い、憎み合い、殺し合う。



ジハードはそんな醜い光景をただ黙って見続けてきたのだ。
今さら人間など信じる気は毛頭もない。彼らはいつだって愚かで強欲な生き物なのだから。

この明るい笑顔を浮かべる少女も、所詮はあの醜い人間達の仲間なのだ。
そう思うとジハードは、どこか心に隙間風が吹いたような感覚に陥ってしまうのだった。




<(長い年月のうちに、ぼくは随分と人間不信になってしまったようだね……時間はひとを変えてしまう)>


「おっうーい、鳥さん! 早くそのカリュなんとかを倒しに行こうよー」
自分を呼ぶティエルの声にハッと我に返ったジハードは、思わず苦笑いを浮かべる。

<だから鳥さんはやめてよ、ぼくにはジハードって名前があるんだ……って先に行かないでったら!>
青い光に包まれた水晶の廊下を歩く者達を、慌ててジハードはふわふわとしながら追って行った。



<(そうだ、所詮人間とは相容れるわけがない……それはよく分かっていたはずじゃないか。
この者達ともすぐにお別れなんだ。何をそんなにらしくなく慌てているんだ、ぼくは……)>







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