| Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」 第6章+大海の不死鳥伝説 第66話 目覚めよ、ジハード! 「ウワハハハ、死ねえ!」 突進してきたカリュブディスを、半ば転がりながら両者反対方向に避けたサキョウとクウォーツ。 サキョウはゴロゴロと水晶の床を転がっていき、途中向かってきた魚人兵士を器用に蹴り飛ばす。 その弾みを利用して素早く起き上がる。どうやら怪我はないようだ。 一方サキョウとは反対側に避けたクウォーツは、そのまま身軽に宙を舞って地面に降り立った。 <……大丈夫かい、ヴァンパイアの青年> そのクウォーツの背後には、リグ・ヴェーダを抱えたジハードの姿。 <本性を現したカリュブディスは、あなた達二人では倒せない。ぼくもできる限り協力するよ> 「余計なお世話だ」 ちらりとジハードを一瞥したクウォーツは、少々苦々しげに彼を見やった。 しかしジハードは気にすることもなく、ペラペラとリグ・ヴェーダのページを片手でめくり始める。 <カリュブディスに近づくのは自殺行為だよ。あれの得意技は電撃なのだから> そうジハードが言ったと同時に、カリュブディスの蠢く触手からパッと火花が散った。 それはまるで弾け飛んだかのように、黄色の電撃となって四方へと向かっていく。 <……極陣・障壁陣!!> 素早く詠唱を完了させたジハードが片手を上げると、淡くおぼろげな虹の膜が現れた。 それはティエル達を中心に、半径20メートルほどの大きさのヴェールとなり彼女らを電撃から守る。 しかし、大きな電撃は結界をすり抜けてしまったようだ。 やはり封印されている現在のジハードの魔力は、ここに来て大幅に弱まってしまっている。 「リ、リアン伏せてっ!」 慌てて竜鱗の剣を投げ捨てたティエルは、封印解除中のリアンに覆い被さった。 バチバチバチっと弾ける音。竜鱗の剣を置いた付近が、見事に黒ずんでしまっている。 「で……電撃なんて反則じゃないでーすの……」 青ざめた表情で呟いたリアンは、残り全ての詠唱を終わらせて杖を掲げた。 「よし、扉の封印は解けましたわ。ウェル・ナン・マヌラナ・アンテ・リトゥ・アバカム! 扉よ、開け!!」 「開けさせぬわぁぁあ!!」 怒号のようなものを発したカリュブディスは、数本の触手をリアンに向かって放つ。 青白く光っていることから、おそらく電気を帯びているのであろう。 「させるかぁっ!!」 感電する恐れのある剣を既に諦めたティエルは、素手のまま海王へ向かっていく。 触手をうまく避け、カリュブディス本体へ掴みかかった。 「あんまり私達を甘く見ないで欲しいですわね!」 開きかけた扉を触手によって再び塞がれてしまったので、機嫌が悪そうにリアンが立ち上がる。 「おかえしですわ。眩き光よ、貫く刃となりて大地を引き裂かん……ライトニングサンダー!!」 ティエルに気を取られていたカリュブディスは、リアンの詠唱に気付かず顔を上げた。 それと同時に、掴みかかっていたティエルもバッと飛びのいた。 「おおおおぉ!!」 全く無防備のカリュブディスにリアンの電撃が直撃すると、辺りは昼間のように明るくなる。 暫く表皮が波打っていたカリュブディスだったが、やがてニヤリと笑みを浮かべた。 「……言い忘れていたが、オレは電撃を吸収できてな。しっかりとお前の力は受け取ったぞ。 ──そうだな……せっかくであるから、倍以上にして返してやろう」 <そ、そうはさせないよカリュブディス! 極陣・不動陣!!> 慌てて極陣を放ったジハードだったが、魔法陣はカリュブディスが軽く片手を振ると消え失せてしまう。 「無駄だジハード。封印されているお前の力など、このオレに通用するか」 くっくっと押し殺した笑みを洩らした海王は、耳が張り裂けんばかりに声を発した。 「死ね、これで終わりだ! くらえ、サンダーレイジ!!」 「くっ、避けきれん! みんな伏せろ──!!」 まさに『雷雨』が降り注ぐ中、サキョウの声が聞こえたような気がした。 <……畜生っ、ぼくの魔力よ……お願いだ、どうか彼女達を守ってくれ! 障壁陣!!> 目を開けていることもできないほど眩い雷光に包まれて崩壊していく中心で、 ジハードは渾身の力を込めてティエル達に向かって魔法陣を発動させた。 光の洪水。 凄まじい威力の雷撃雨は、周囲の壁といわず床といわず粉々に破壊していった。 爆煙が立ちこめ、砕かれた水晶がキラキラと輝きながら降り注いでいる。 地獄絵図さながらの中、半分透けている状態のジハードは一人無傷で立っていた。 次第に立ち込める煙も引いていき、水晶の間は見るも無残に破壊し尽くされていた。 ゴロゴロと転がる水晶の塊。岩、砂埃。魚人兵士達の、千切れた手足。 その中央でカリュブディスは狂ったように笑い続けていた。 <自分の部下だっていたのに……あなたはなんてことを……> それしか口に出す言葉のないジハードは、ティエル達の姿を求めて一歩踏み出す。 ──ガラッ。 水晶の岩の隙間から、赤く染まった手と茶色の髪が見えた。 <……ティエル? ティエルかい!? 今助けに……> ホッと安堵の表情になったジハードは、彼女に駆け寄り両手で助け出そうとする……が。 おぼろげに透けた自分の手は、何度やっても彼女の身体をすり抜けてしまう。 <……あ……> 愕然と透けた自分の両手を見つめていたジハードは、震える足で一歩後ろに下がった。 落下してきた水晶の塊に頭を打ち、もはやぴくりとも動かないリアン。 ぶすぶすと煙を発しながら転がっている魚人兵士達と同じく、 直撃を受けて倒れているサキョウとクウォーツ。ぼろぼろで、もはや息をしているのかも分からない。 「オレではない、お前が殺したんだよ、ジハード。お前は本当にひどい奴だ」 カリュブディスの声。 転がっている者達を直視したジハードは、次に笑い続けるカリュブディスを振り返った。 「何の利益も求めずに、お前を救ってくれようとした者達を……簡単に見殺しにしたのだ。 所詮は誰一人として守ることのできない臆病者か。チキンのお前に丁度いい呼び名だな!」 『ねえ不死鳥さん。分かるかい? 大切なものを守れなかった奴の気持ちがさ』 『……アッハハハ! あんたは大きな口叩いているが、ちっとも守れてないじゃないか。 誰一人として、あんたは守れていないじゃないか。それでよくもまぁ言うよ』 <(……そうだ、いつだってぼくは誰一人として守れていなかった。守り抜くことが……できなかった)> 暫く俯いていたジハードは、やがて静かに顔を上げた。 そして触れられぬ手で、倒れているティエルの顔の血をそっと拭ってやる。 ぽたり、と。 決して形にならないはずのジハードの零した涙が、ティエルの頬の上に落ちていく。 <こんなことに巻き込んで……ごめんね。ほんとに短い間だったけど、友達ができたみたいだった。 正直ぼくは、人間であるあなた達を──……知らずに好きになっていたのかもしれないね……> ──独りでいることに慣れてしまったと思っていたけれど……ちっともそうじゃなかったな……。 <証明してあげるよカリュブディス。一度くらいはぼくが、誰かを守り抜けるってことをね> ジハードは涙を拭うと、惹き込まれそうな微笑みを浮かべて口を開いた。 驚くほど静かな詠唱を耳にしたカリュブディスは、思わず目を見開く。 「その呪文は……今のお前が唱えれば、間違いなく貴様は消滅する! ジハード……死ぬ気かっ!?」 <覚えておけ、カリュブディス。ぼくは不死鳥ジハードだ。誰かを癒し、命を与えるために生きている> ニッと笑みを浮かべたジハードは、リグ・ヴェーダを投げ捨てて両手を前に突き出した。 <……我が願い、祈りは輝きとなりてただ一度の奇跡を呼ばん。フェザーカーライト!!> +DeadorAlive+ |