Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」
第6章+大海の不死鳥伝説

第69話 戦い終わって-1-





「なあ……おい、あいつらが海の中入ってから……もう三時間以上経つんじゃねぇか?」
「残念だが、もう生きてはいねぇだろうな……」



一方。
ティエル達が乗っていた船の上では、船員や乗客達が心配そうに海面を覗き込んでいた。

昼間とはうって変わって夜の海面は黒くどんよりとして、中の様子をうかがい知る事はできない。
海獣ダゴンの死骸を皆で協力して片付けた後、ティエルによって助けられた船員はため息をついた。


「きっと、あの不死鳥とかいう胡散臭い奴に騙されたんだ。殺されちまったんだよ……」



彼らはティエル達が戻ってくると信じて、船を動かさずにいたのだ。
彼女達によって助け出された船員、乗員の数は決して少なくはなく、皆表情が暗い。

ティエルらが海に消えてから三時間あまりが経過した時、辺りに諦めのムードが漂い始めた。




「オイ、てめぇら黙祷だ! 戦士として海に散った奴らのために、黙祷だ……」

ドスドスと足音を鳴り響かせながら、ガッシリとした体格の男が船室から姿を現す。
海の男独特の日焼けをしており、少々色が褪せた紺色の長いコートを羽織っていた。


そして彼の手には、数本の花が握られている。



「船長……」
船長と呼ばれた男の出現で、皆は静かに目を閉じて黙祷を捧げる。

海獣ダゴンによって殺されてしまった者、戦士として潔く散っていった者。思いは色々である。
そして──暗い海に消えていった者達。



船長は重苦しい表情で甲板を進んで行くと、手に持っていた花束を海面に向かって放り投げる。

パッと空中で花は広がり、静かな海面に散らばって落下して行った。
何かと危険の多い海では、このような事は日常茶飯事なのだろう。




……と、その時。


「うわあぁぁーっ!?」
「きゃーっ、嘘! 何でこんなところから落ちるんですの!!」

「ちょっと、ちょっと、押さないでよ! ぼくが下敷きになってしまうじゃないか!」
「ワシの華麗なる着地を見よ、とう!」


「貴様ら、もう少し静かにできんのか……」




「うげっ!!?」
突如暗闇に包まれた上空から奇怪な声が聞こえてきたかと思うと、勢いよく数人が落下してきたのだ。


サキョウはしっかりと大地に足をつけたかと思ったが、
リアンにしがみ付かれていたので、情けない声を発しながらゴロンゴロンと甲板を転がっていく。

……ちゃっかり彼女は既にサキョウから離れていたりもするのだが。
その隣ではただ一人だけ華麗に地面に降り立ったクウォーツが、涼しい顔をして乱れた髪を整えている。




「お……おめぇら生きていたのか……」

最後、着地できずに船長の上に落下してきたのは紛れもなくティエルである。
大の男が少女につぶされている様子は、なかなか奇妙な光景だ。



「あ、ごめんなさい。痛かったよね? わざとじゃないんだ……ってうわあ!!」

慌てて立ち上がったティエルは、焦っていた事もあって船長の頭に躓いてしまい、
再び船長の上にダイビングしてしまう事となる。



「ちょっと、ふっざけんじゃないでーすわ! この若白髪!!」
打ち付けた腰をさすりながら、リアンは着地に失敗して転がっているジハードに掴みかかった。

「いくら海底神殿のポンコツワープゲートだからって、変なところに飛ばさないで下さいな!
この私の美貌に傷がついたらどうしてくれるんでーすの!?」



「だから言ったじゃないか。あのゲートはどこに飛ばされるか分からないし、失敗するかもって。
ぼくは大体ワープゲートは嫌いなんだ。ほら……何ていうか、酔うでしょう?」

リアンに掴みかかられながらも、のほほんとした笑みで答えるのは白髪の不死鳥ジハード。
異国の衣装と、額に貼り付けられた大きな呪符が印象的な少年である。


「けど、こうして船に戻れたのだからいいじゃない。それにぼくは若白髪ではなく、生まれたときから白髪だよ」




「……それにしても、よくあんた達無事だったな!」
「てっきり不死鳥に騙されて、海の藻屑となっちまったのかと思ったぜ」

「ぼくが騙すもんかい。失礼な人たちだね」
ティエル達の無事な姿を見て、周囲の者達は顔を綻ばせて歩み寄る。ジハードは思わず眉をしかめたが。



「よぉーし、それじゃあ出発だ。野郎共、しっかりと自分の持ち場に戻んな!」
「おおー!」

再び明るい声を取り戻した船は、早速出発の準備に取り掛かり始めた。
ダゴンの進入によって甲板に溜まっていた海水も、今では大分引いたようである。


乗客たちも時刻が夜中であることを思い出したようで、あくびをしながら船室へと戻って行った。





「……さて、我々はこれからどうする? 寝るには少し目が冴え過ぎているのだが」

そう言ってサキョウが皆を見渡す。
先ほどまで海王カリュブディスと死闘を繰り広げていたのだから、目が冴えて当然であろう。


「ねー、それじゃあジハードの歓迎会しようよー。パーッとね!」


「そうですわねえ、なんだか今夜は飲みまくりたい気分でーすわ」
片手を挙げて発言したティエルに、リアンもポンと手を打った。

「ちょっとぐらい羽目を外したって、誰も文句は言いませんわよ」



「……心からぼくの歓迎会をしたいのか、あなた達がただただ騒ぎたいだけなのか……」
「うぅむ……まあ、そのどっちもであろうな。ところで肝心の場所はどこにするのだ?」

首を傾げるジハードの背後で、サキョウが口を開く。



「そんじゃ、わたし達の部屋でやろー。ねね、クウォーツも勿論来るよねー??」

そこまで口にしたティエルは、彼らから少し離れたところに立っているクウォーツに声をかけた。
ティエルの声に顔をこちらに向けたクウォーツは、抑揚のない声で口を開く。



「……遠慮する、馬鹿騒ぎは苦手でね」
と口にすると、彼はティエルの言葉も待たぬまま背を向けて歩き去ってしまった。

追おうと思い歩きかけたティエルだったが、足を止めて何とも言えない眼差しでため息をつく。




「……ぼくの歓迎会がそんなに嫌だったのかな? 何か彼に嫌われるようなことしたかなぁ」
「気にすることなんかないんですのよ、いつもの事ですからね。私、食堂行ってお酒貰ってきますわ」

怪訝そうな表情をするジハードに、リアンはサラリと答えると片手を振りながら歩いて行った。
それを暫く眺めていたティエルは、残ったサキョウとジハードを振り返る。



「わたし、手足拭いてから部屋に行くね。なんか色々汚れちゃってるし……先に行ってて」
「ワシも魚人兵士たちの体液がこびり付いているから、それを落とさなくてはな!」

ドッタドッタとティエルの後を追うサキョウを一瞥し、ジハードは肩をすくめた。
彼は先程まで実体がなかったので、服には砂粒一つ付いてはいない。



「うーん。今まで曇り空だったのに、満天の星空だねえ」
一人残った彼は、上を見上げるとそう呟いた。















「……分かってますわよ、最初から分かっていましたわよ。あの男がそんな性格だってことくらい」


食堂に向かっていたリアンは、狭い廊下に足音を鳴り響かせながら不機嫌そうに歩いていた。
古く黒ずんだ板の廊下は、彼女が歩くたびにギシギシと嫌な音を発する。



「でも……あ──っ、むかつくー! 何であの男は、あんなにも冷たい奴なのかしら」
やはり自分に対して(彼の場合は皆に対してでもあるが)冷たいクウォーツが気に入らないらしい。

「ふーんだ。こうなったら嫌なこと忘れて飲みまくりまーすわ」
食堂に行って数本のワインとジュースを譲ってもらい、ティエル達の部屋まで戻ることにした。







+DeadorAlive+