Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」
第7章+みそらで嗤う道化師

第71話 テーベの港-1-





『お強くおなりなさい姫様……辛いことにも決して負けない、強さを持って』

『いや……いや、いやだっ……もう嫌だ! おばあさまも、ガリオンも、ゴドーもいない世界なんて!!
わたしには意味なんかないよ……!!』



魔法大国メドフォードのティエルは、生まれながらにして魔法を唱えることのできない姫であった。

代々偉大な魔術師を生んできたこの国で唯一、彼女だけが魔力を持たないのだ。
それをコンプレックスとして胸に抱え続け、彼女は杖の代わりに剣を握る。


そんな悩みはあったが、優しい祖母と自分に惜しみなく愛情を注いでくれる者達に囲まれて、
ティエルは何不自由ない幸せな毎日を過ごしていた。




──しかし。


『オレはヴェリオル=D.S=ガルフォース。怖がらなくていい、オレはお前を迎えに来たのだ』

そんなささやかな幸せは、突如現れた謎の暗黒騎士ヴェリオルによって無残に壊されてしまう。
この時ティエルは生まれて初めて、殺したいほど人を憎んだのであった。


『わたし、強くなりたいよ……。もう誰も失うことのないように、守れる強さが欲しい……!』
国を奪われ、愛する者達までも奪われたティエルは生き抜くことを決意し、敵討ちを誓う。




『私の名前はリアン、リアン=ファンですわ。いい名前でしょ?』
そんな傷心のティエルをまるで救うかのように現れた、赤い瞳を持つ美貌の娘リアン。

『……嬉しかったんですのよ。
私、この瞳のせいで気味悪がられて。外の人間に優しくしてもらったの……初めてだったんですわ……』



『どうやらワシはお嬢さんの知り合いに似ていたようですなぁ』
殺されたゴドーと、どこか似た雰囲気を持った心優しき巨漢サキョウ。

『……そうか、兄上は死んだのだな』



『急に笑えと言われても無理な話だ、笑い方など忘れてしまったよ』
血を拒み、己の命を削ってまでも光に憧れ続けるヴァンパイアのクウォーツ。

『たとえ目にした瞬間、この身が灰となり崩れ落ちたとしても……ずっと憧れていたんだ』



『ぼくはあなた達に賭けてみようと思う。……今度こそ、ちょっと信じてみようと思うよ』
封魔石の力で長い間海底に閉じ込められていた、虹の不死鳥ジハード。

『ぼくの力は、ほんの些細なものだけれど。それでも……──ぼくは、あなたの翼になろう』



彼らと運命的な出会いをしたティエルはいつか故郷を取り戻せることを信じて旅を続ける。
──たとえそこに、どんなに大きな困難が待ち受けていようとも。















「ねえねえ、港が見えてきたよ。町の明かりがキラキラしてて綺麗……まるで星くずみたい!」
「きゃーっ、新たな冒険の始まりですわ。ワクワクしますわねえ!」


既に時刻は夜なのだが、船が港に近づくにつれて町の灯りがはっきりと見えてくる。
きらきらと様々な色に光るそれはまるで宝石のようであり、夜の港もなかなか悪くはない。

ここは港町テーベ。海など渡ったことのないティエルにとっては、まさに未知なる世界である。




「あそこの一際光っている場所って何かなあ?」

「あれは多分酒場ですわ。夜になったら賑やかになる場所の一つなんですのよ。
まぁ、まだまだお子様のティエルには早い場所でーすわ」


船の手すりから半分ほど身を乗り出したティエルの隣で、同じようにリアンも騒いでいた。



「二人共、そんなに身を乗り出しては落ちてしまうぞ」
「あはは。夜の海は、水も黒く見えて怖いからね……充分に気をつけた方がいいよ」

そんな二人に慌てて駆け寄るサキョウの隣には、至って呑気な表情のジハードが笑っていた。
彼は先程、日が暮れてからようやく起きてきたので随分と元気そうである。


ジハード曰く、睡眠は12時間が基本だそうだ。
それは長い間封印され続けていた所為なのか、それとも本来持っていた眠り癖なのか……。




「……海に落ちても、私は助けに行かんからな」
こちらは、誰もが振り返るほどの美貌を不機嫌そうにしかめているクウォーツ。



「それにしてもあなたは、一体何が気に入らなくて毎日そんな不機嫌そうな顔をしているんだい?
笑えとまでは言わないけれど、そうしてて疲れないかなぁ」

「……」

物怖じしない無遠慮なジハードの言葉に、クウォーツはますます不機嫌そうに眉をしかめたが。
そのまま無言で歩いていってしまった。


「あーあ……やはりぼくは彼にあまり好かれてはいないようであるね」
彼の後ろ姿を眺めながら、やれやれと肩をすくめたジハードは一つ大きな溜息をついた。















数人の乗客たちもここで降りるようで、ティエルも彼らに笑顔で手を振って船を降りる。

船から降りてみると、至る所にオレンジ色の魔法街灯が灯っているのが目に入った。
夜でも次の船の出港のために、忙しなく港を駆け回る船員達。所々に積み上げられた大きな荷物。


ティエルは物珍しそうにキョロキョロとしながらそれらを眺めていた。




「……ふむ、夜の港町もまた味があるではないか」

船員たちの邪魔にならないように、一行は端に積み上げられた大きな木箱の周辺に集まり、
出港準備を進める船を眺めつつサキョウが口を開く。


「これからどうする? まだまだ夕食にするには早いだろう」



「そうですわねえ。じゃあ……町を見物がてら、情報収集にでも行きましょうか?」

木箱に腰掛けると、リアンは長い髪を指先でくるくると巻きながら言った。
どうやらこれは彼女の癖らしい。

「二手くらいに分かれて町を散策! ……で、どうかしら? ここの名物料理は何かしらねー?」



「わ! そうだね。そんじゃペア決めでもしましょうか。いっせーのーせーで、グーとパーで決めよ」
嬉しそうに飛び上がったティエルは、両手をグーとパーの形にして差し出してみせる。

「4人と1人になったらやり直し。3人と2人に分かれるまでね」



皆ティエルの意見に特に異議はなしと静かに頷いた。
ちなみにそんなふざけた真似はしたくないと言うクウォーツは、ほぼ無理矢理に承諾させたのだが。

それを見たティエルは、大きく息を吸い込んで声を発する。



「じゃ、いっせーのーせー!」
……。




「……おおーっ、一気に決まったね。よかったよかった」

「ちょっと、全然良くありませんわよ。サキョウとか今、後出ししたじゃないでーすの」
「うるさいな、耳元で騒ぐな。サキョウはあっちだ」


「あ……後出しと言っても、これはジャンケンではないから……別にいいではないか……」
「まあ、そう言われてみればそうだけれどね。これで決定かい? 異議はないね」



公正なる班分けの結果。
ティエルとサキョウとジハードが組み、そしてリアンとクウォーツが組む事になったのだった。



「ま、待って下さいな。異議あり! 大ありでーすわ! 何で、楽しい町見物をよりにもよって、
こんな超がつくほど根暗な男と一緒に行かないといけないんですのよ!」


「まあまあ。これを機に仲良くなれるといいじゃん! それじゃサキョウ、ジハード。行きましょうか」
ギャーギャーとわめくリアンをなだめ、ティエルはニッコリと悪気のない笑みを浮かべる。

「2時間後ここに集合ね。その時はご飯食べよ」




そしてスタスタと三人は背を向けて歩き始めてしまった。

彼らの後ろ姿を恨めしそうに眺めていたリアンは、ハッと我に返ると後ろを振り返る。
すると既にクウォーツは、リアンを無視して別方向へと歩き始めてしまっていたのだ。



「あっ、ちょっと!? この私を完全無視してるんじゃないですわよ! もういやぁぁ、単独行動禁止ー!」







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