Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」
第7章+みそらで嗤う道化師

第74話 次なる目的地は





「あっ、二人共こっちこっちー! ……ってリアンどうしたの?」

集合場所の港の出口にて、ティエルは木箱の上に腰掛けながら足をプラプラとさせていた。
サキョウとジハードは地べたに座り込み、夕食場所をあーでもないこーでもないと相談中である。



レストランなら特にどこでも構わなかったティエルは、港で忙しく駆け回る船員たちを眺めていた。
しかし先程港に到着した時よりは大分人も少なくなっており、疎らにしか見受けられなかったが。


これからあの船はどこを旅するんだろう、そんなことをティエルは考えていた。

自分の未だ見ぬ世界を旅して、この港に戻ってくるのだろう。
そう考えるだけで心なしかワクワクしてくる。





そんなティエルの瞳に、角を曲がってこちらに真っ直ぐ向かって来る二つの人影が映る。

遠目からでもはっきりと分かる二人の姿に、ティエルはすぐさま彼らに駆け寄ろうと木箱を飛び下りたが、
どうやらリアンの様子が変であることに気がついた。




「遅れて申し訳ないですわ。ちょっと色々ありまして、足首を捻ってしまったんですのよ」
ティエルと交代するように木箱の上に腰掛けたリアンは、痛そうに右足首をさする。

「あまりにもこの私が可愛くて魅力的でしたから、不良達に目を付けられたんでーすわ」



「ほんと!? 大丈夫だった……って、あれ。二人一緒じゃなかったの?
迫力があるクウォーツと一緒にいれば、どんな不良でもそう簡単に近づけないと思うんだけど……」

首をかしげながらティエルはクウォーツを見るが、彼は我関せずといった顔つきでそっぽを向いてしまう。




「……ふむ、軽く捻ったのかい? ちょっと腫れてるだけだから、これならすぐに治せると思うよ」

立ち上がったジハードは暫くリアンの怪我の様子を調べていたが、スッと静かに右手を足首にかざした。
すると彼の手から淡い緑色の光が発せられ、腫れている部分を優しく包んでいく。


やがて、数十秒もしないうちに足の腫れが治まっていくのが目に見えて分かった。



「これでもう大丈夫、あまり暫くは派手な動きさえしなければね」

「ワシも治癒魔法が使えればなぁ……。モンク僧とはいっても、所詮は武闘家なのだ。
ううむ、もう少し薬草などの勉強をすればよかった。治癒魔法は持って生まれた素質が必要なのだろう?」

ジハードの見事な治癒能力に、サキョウは感心したように目を丸くして口を開く。




「あなたさえよければ、ぼくが授業してあげてもよいのだよ? ただし、……超スパルタだけれどね。
治癒魔法は確かに素質が必要だけれど……努力に努力を重ねれば、擦り傷くらいは治せるようになるよ」


完全に足の腫れが引いたことを確かめると、ジハードは立ち上がってニッコリと笑みを浮かべた。
その笑みは、天使の笑みと言うより……小悪魔の笑みに見えたのはサキョウだけだろうか。



「どうだい? ここは一つ」

「う、うむ。まあその話はいずれだな……そうだ! その治癒魔法は悪い所を治してくれるのだろう!?」
ジリジリとにじり寄ってくるジハードに慌てて両手を振ると、サキョウは思いついたように手を打った。


「その魔法をもしもティエルやクウォーツにかけたら、ティエルの勉強嫌いな所や、
クウォーツのあの性格も治してくれるのか? なぁんてな、わはは、わはははは……はっ!?」




「……ほう、貴様は遠回しに私の性格が悪いとでも言いたいのか?」
いつの間にか近くにいたクウォーツは、サキョウの耳元でボソボソと小さな声で囁いた。

「貴様、命が惜しくないとみえる」


「……サキョウひどーい」
驚いて思わず飛び上がったサキョウの背後では、頬を膨らませるティエルの姿。




「墓穴掘りまくりのサキョウですわね……よほど焦っていたのかしら。助ける気すら起きませんわ」

「ふふふ、口は災いの元ってね。ぼくも一つ勉強になったかな」
呆れるリアンの隣で、いわば一連の騒ぎの元凶ともいえるジハードがのんびりとした口調で言った。















「……考古学者アリエス=ファレル?」
手ごろなレストランに入ってようやく腰を落ち着けたので、ティエルはリアン達に先程のことを話し始める。



「そうそう、その人が封魔石研究の第一人者なんだって。きっとイデアの事だって知ってるよ!」

早速目の前に運ばれてきたスープを、ズビズビと音を立てながら飲むティエル。
こんなにまで思い切り恥じらいのない姿を見ていると、逆に清々しささえ感じてしまう。




「これティエル、周囲の者達が皆振り返っておるぞ。肘をついて食べてはいかん。
ゴドー兄上亡き今、礼儀作法はこのワシが教えてやらんと」

そう言いながらもサキョウは豪快にパンを食べており、ボロボロとパンくずをこぼしていた。



「……あなたも人のことは言えないよ。ってここは箸もれんげも用意してくれないのかい?」
「ハシ? レンゲ?? お客様、当店ではそのような物は取り扱っておりませんが……」

なにやらこちらでは、ジハードが怪しげな単語を呟いて店員を困惑させている。



「あらっ、ティエル! 一人でフルーツポンチを抱え込まないで……やーだ、空っぽじゃないですの!?
油断も隙もありませんわ……店員さーん、これと同じものもう一つ下さいな!」




「頼むから……食事中くらいは静かにしてくれよ……」

目の前で繰り広げられる光景に、クウォーツは呆れを通り越して落胆したように肩を落とした。
彼は先程から水しか飲んでいない。


「それで、一体考古学者とやらがどうしたのだ」



「あ、そうそう! その考古学者と会うためには、助手の出した試験をクリアしないと駄目なんだって」
クウォーツの言葉にティエルはもぐもぐと口を忙しなく動かしながら、思い出したように手を打つ。

「今まで試験に合格した冒険者はいないらしいんだけど、なんとかなるよね? ならない??」




「なりますわよ! なんといっても、このスペシャルラッキーガールの私がいますからねー♪」

バンっと勢いよくテーブルに手をついて立ち上がったリアンは、小指を立てながら高笑いを発した。
その隣でクウォーツが、さも迷惑そうに眉間にしわを寄せていたが。


「いざとなったら私の魔法で脅して無理矢理会わせ……ゴホン、ま、まぁ大丈夫ですわよティエル」



「何だか物騒な発言が飛び出したような気がするのだが……その試験が一体どんな物かは知らぬが、
受けてみるしかないだろう。今は考古学者を頼りにするしかないようだからな」

パンの最後の一切れをごくりと飲み込むと、サキョウがまとめる様にして口を開いた。
それに特に異議はなしと一同は静かに頷いてみせる。




「……ところでさ、わたしデザートにこのアイスを頼みたいんだけど……」
一通り予定も立て終わった頃、メニューを覗き込んでいたティエルはおずおずと口を開いた。

「ここのねー、大福セロリアイスが気になるんだ。目玉なんだって」



「それはまた気持ち悪そうな……大体考えてみてごらん、セロリとアイスが合うわけないよ。
本当にそれがここの目玉デザートなのかい? 何かの見間違いじゃ??」

ティエルの言葉を聞いたジハードは、ギョッとしたようにメニューを覗き込む。


「うわあ、本当に書いてある。しかも焼き鳥ババロアって……ううう気持ち悪い……」
「わ、私はそんな勇気ある冒険はいたしませんわ。無難に食後はアールグレイで閉めましょ」




早速意気揚々として店員を呼ぶリアン達の姿を、
頬杖をつきながら気だるそうに眺めていたクウォーツは、ひとつ大きな溜息をついた。

「呆れた。あれだけ食って、まだ食う気なのか」
「まあまあ皆育ち盛りなのだ。お前こそ、もっと肉をつけなければいかん。男はたくましくなくては!」



バシンと自分の分厚い胸を叩くサキョウを一瞥し、さらにクウォーツは大きな溜息をついたのだった。







+DeadorAlive+