| Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」 第8章+考古学者アリエス 第84話 考古学者アリエス-1- カーン、カーンと規則正しくハンマーを打ち付ける音が荒野に鳴り響く。 時刻は既に夕方を少し過ぎており、辺りはそろそろ夜の帳が下りてくる頃だろう。 サーカス団のように巨大なテントが、あちこちに掲げられている松明によって暗く浮かび上がっている。 そんな松明の光に照らされて、髪を淡いオレンジ色に染め上げた青年が一人しゃがみ込んでいた。 何やら熱心に発掘作業をしている真っ最中のようだ。 そばに置いてある弁当に全く手を付けていないことから、彼は熱中すると周りが見えなくなるらしい。 大昔の巨大生物の立派な骨が、ようやく全体の形が分かるまで掘り出されたようだ。 そこで青年は額の汗を拭うと、フウと一つため息をついて大の字に寝転がる。 横に置いてあった水筒を手探りで掴むと引き寄せ、ゴクゴクと一気に飲み干した。 「ぷはー、仕事の後の一杯は生き返るねぇ。……これが酒だったらいいのになあ。水も美味いけどね」 そう一人で突っ込みを入れた青年は、暫くそのまま寝転がっていた。 さわさわと夜特有の涼しい風が吹き、彼の茶の髪を揺らしていく。 泥と砂で汚れた幼い顔を軽く擦り、青年は満足そうに目を閉じた。 地味な仕事と言われようと、彼はこの仕事が好きだった。 誰も知らない物への探求。それだけでワクワクしてこない方がおかしいと青年は思うのだ。 「今日はここくらいにしておこうかな。明日には、せめて頭部は完全に掘り出したいんだけどなァ」 「……ちょっと、こっちは死にそうだったっていうのにお気楽なものだよね」 そんな仰向けに寝転がった彼の顔に、サッと急に影が差す。 訝しげに思って視線を上に移動させると、健康的な太股と、ピンク色のワンピースが目に入った。 「……この角度、実に微妙なんだけど。スカートの中丸見え」 「え!? わ、う、嘘っ!?」 慌てて青年から身を離したのは、無論ティエルであった。 彼女達はリアンの傷が完全に癒えるまで月鏡の城に留まっていたのだ。 幸い新しく挑戦してくる冒険者達も襲ってくるモンスターもおらず、久々に休養を取る事ができたのだ。 「うそうそ、冗談だって。オレ紳士だからね。なぁんだ、やっぱり嬢ちゃん達も逃げ帰ってきたのかァ」 弾みをつけて起き上がった青年は、ティエル達の顔を順繰りに見回していく。 「ま、無事に逃げて来れただけでもありがたく思わなきゃ。命あってナンボだからね。 月鏡の城に行って無事に帰ってきた奴なんて、なかなかいるもんじゃないよ」 「ふーん、そんな事言ってもいいのかなー。あなた完全にわたし達が逃げ帰ってきたと思ってるでしょう」 腕を組んで目を細めながら、ティエルは意地が悪そうに青年を上から下までジロジロと眺めた。 そして、懐から綺麗な細工が周囲に施された手鏡サイズの鏡を取り出して見せる。 「……これなーんだ」 「アハハぁ、そんな負け惜しみ言ってもしょうがないって……をわ──ッッ!!?」 小ばかにしたように肩をすくめていた青年だったが、ティエルの手に握られた鏡を見て飛び上がった。 「マ、マジモンの月の鏡じゃんよ!! うん、オレが言うから間違いない。おいおい、マジかよ……」 半ば声が震え気味で、青年はティエルから月の鏡を受け取ってまじまじと見つめる。 暫く表面の手触りを調べていたが、やがて裏返して彫られた古代文字を指でなぞった。 「この鏡を手にした者に、真実の道が開かれん……。嬢ちゃん達、オレの負けだよ。完敗だ」 「それじゃあ、アリエス博士に会わせてくれるの!?」 「ああ、勿論だよ。むしろこちらから会ってくれとお願いしたいくらいだ。ついといで」 そう言って青年は立ち上がると衣服の砂埃を払い、発掘道具を掴んでテントに向かって歩き始める。 動物の皮を繋ぎ合わせて作られたようなテントは、松明の炎に照らされてオレンジ色に染まっていた。 「ここに来る冒険者の中には、力ずくでアリエスに会おうと脅迫してくる者もいたのではないか?」 青年の緑のローブの後ろ姿を眺めながら、サキョウはふと口を開く。 「そんな時は、一体どうやって追い払ったのだ?」 「ああ、そーゆー奴もいたね。まだまだヒヨッコのくせに言う事はでかい奴らが」 入口の布を軽く上に押し上げながら、青年はニヤリと意味ありげな笑みを口元に浮かべる。 「そんな奴らには、殺さない程度に痛い目見てもらったけど。オレこう見えても結構強いから」 青年に促され、テントの中に入ったティエル達は思わず目を見開いた。 中には、大昔の巨大生物の骨が綺麗に組み立てられて所狭しとあちこちに飾られていたのだ。 これは全てここから掘り出されたものなのだろうか。 古ぼけた本が辺りに散らばっており、積み上げられている物もあれば放り投げられている物もある。 それらを物珍しそうに眺めていたティエルの前に、濃い黒髪をきちんと結った中年女性が姿を現した。 「あら、お帰りなさいませアリエス博士。今日の発掘作業はもうお終いですか?」 白いエプロンで手を拭きながら、女性は青年の方に顔を向けてニッコリと微笑んだ。 「まあ珍しい。そちらの方達はお客様?」 「うん、まぁね。シミズさん、悪いけどお茶を六人分お願いするよ」 へらへらと笑みを浮かべた青年は、それからティエル達の方に顔を向けるとギョッとする。 「な、なんだい嬢ちゃん達、その顔は?」 「アリエスって……ねえあなた、今さっき……アリエスって呼ばれてなかった……!?」 口をパクパクとさせながら、震えながら青年を指さしたティエルは、わけが分からずに目を瞬いていた。 「え……だって、あなた助手さんじゃないの……??」 「そりゃ嬢ちゃん達の勘違いだよー、第一オレ一言も助手だなんて言ってないじゃんさ。 わはははー騙されてやんの! 騙されてやんの!」 「……誤解を招くようなことは言っていたみたいだったがな。戯言はいい、さっさと本題に入れ」 頬を膨らませて悔しがるティエルの隣で、クウォーツは完全に白けている様子で青年を睨みつける。 「それと、口は災いの元だということを肝に銘じておけよ」 「ほんの軽ーい冗談だって、兄ちゃんそんなに怒らないでくれよぉ。美男子が台無しだぜ?」 緑の帽子の向きを直した青年──アリエス=ファレル博士──は、ニッと口元に笑みを浮かべた。 「そんじゃ改めて自己紹介しておこうかな。オレはアリエス、あんた達の会いたがってた考古学者だよ」 「……こんなお気楽ご気楽の人間が考古学者になれるなんて、世も末ですわね」 巨大生物の化石を眺めながら、リアンは横目でちらりとアリエスを一瞥する。 「それだったら私にもなれそうでーすわ」 「こっちの嬢ちゃんも厳しいねー。こう見えても数々の偉業を成し遂げてんだから!」 ブスッと頬を膨らませたアリエスはテントの一番奥まで進んでいくと、彼らに座れと仕草で伝えた。 「ううむ、人は見かけによらんというか。これからは外見で人を判断するのはやめようと思う……」 「その話はこの間ぼくが言っていたじゃないか。ひとを外見で判断するのはよくないって。 サキョウは人の話を聞いていそうで、実は全然聞いていないのだから……」 ワハハ、と誤魔化しながら頭を掻くサキョウに、ジハードは呆れたように大きく溜息をついたのだった。 「さてと、このオレを探していたということは……何かオレに用があったんだろう?」 全員がとりあえず地べたに腰を下ろしたのを確認すると、アリエスはコホンと一つ咳払いをする。 「できる限り力になってやるよ、月の鏡を命がけで取ってきてくれたんだしね」 +DeadorAlive+ |