Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」
第8章+考古学者アリエス

第86話 考古学者アリエス-3-





「ま……名前はとにかく、その五つのスペルが揃ってイデアは本来の効果を発するんだ。
スペルの数によって呪いを解除する力や、破壊力は変わってくるけどね」

カップの中のお茶を飲み干したアリエスは、袖口で軽く口を拭った。


「ドゥーペル大司教ゲマは、血のスペルを持っている。
それとイデアを組み合わせて、奴は一体何の呪いを解除する気なんだか……」




「なんにしても平和のためではなくて、ろくでもない事に使いそうなのは確かでしょうけどね」
イデアはもうここにはないと知ると、がっくりと項垂れてしまったリアンが口を開く。

「それに、もう呪いは解除し終わっているのかもしれませんけど」




「そこでだ、嬢ちゃん達に提案がある。……オレと一緒にイデアを取り返しに行かないかい?」
「えっ!?」

アリエスの意外な言葉に、一同は思わず顔を見合わせて驚いた声を発した。




「オレとしては自分が手に入れた封魔石を、盗んだ連中に好き勝手使われているのが悔しくてね。
そろそろ取り返してやろうと思っていたんだ」

ニヤリと何かを企んでいるような笑みを浮かべたアリエスは、ティエル達を試すようにして眺める。


「だけど、いくらなんでも一人で乗り込むような馬鹿な真似はしたくない。
だから一緒に行かないかい? 月の鏡を手に入れたあんた達なら、腕は信用できそうだしね」




「え? でも、それじゃ……」
「言い分は分かりましたけど、私達にメリットはあって? ただ働きをしてあげる程お人好しじゃなくてよ」

口を開きかけたティエルを静かに制し、リアンはどこか刺を含んだような声を発した。
暫く無言でリアンと睨み合っていたアリエスだが、やがてどこか茶目っ気のある笑みを浮かべる。



「……安心しな嬢ちゃん、手に入れた封魔石はあんた達にくれてやるよ」




「イ、イデアを!? だってそれは、アリエスが手に入れた大切な物なんじゃないの!?」

「言っただろう、盗んだ奴らに好き勝手使われるのが気に食わないって。
けどあんた達だったら渡してもいいかな。……月の鏡を命がけで手に入れてくれたお礼ってことで」


そこまで言ったアリエスは緑色をした大きな帽子を手に取ると、静かに立ち上がって彼らを眺めた。



「けれど、生半可な決意なんかじゃお断りだぜ。相手は決して馬鹿にできない奴らだしな。
お互いそれこそ命預けるんだからさ。……それって結構大事なことだろ?」




「あらぁ、失礼しちゃいますわね! イデアはずっと探し続けていた目的なんですもの。
この封魔石には、どうしても解いてもらわなくちゃならない呪いがあるんですから」

弾みをつけて立ち上がったリアンは、軽く髪の毛を払いのけながら口を尖らせる。



「ずーっと海の底で石にされてて退屈していたんだ。張り合いのある事でもしないと身体が鈍ってしまうよ」
にっこりと笑みを浮かべたジハードだったが、その瞳はどこか鋭い輝きを含んでいた。


「旅人の永遠の憧れ封魔石。一度でいいから、人々の心を掴んで離さない魔の宝石をこの目で見たいものだ」
何か悟りが啓けるかもしれんしな、とサキョウは自分の拳をグッと握り締めてみせる。




「……封魔石だろうが何だろうが、はっきり言って私にとってはどうでもいいことだが。
しかし……その血のスペルとやらが少々気になるのでな」

一つ大きな溜息をついたクウォーツは、額に落ちてきた長い前髪をかき上げた。




「生半可な決意じゃ駄目? もっちろんよ! ……何が何でも負けられない理由があるんだからね。
あなたの方こそ、わたし達を信用してくれるのかしら?」

最後に口を開いたティエルは、本心の見えないヘラヘラとした笑みを浮かべているアリエスを見据える。



アリエスは黙ったまま彼らの瞳を順繰りに見つめていたが、やがてフッと表情を和らげた。
それは今まで本心をわざと隠し通していたように見えた彼が、初めて浮かべた心からの表情であった。




「……いいね。あんた達悪くないよ、気に入った。このオレが人を気に入るなんて、滅多にない事だぜ?
最近の冒険者達は腰抜けばかりだからなー、オレの足手まといにはならないでくれよ!」



「足手まとい? 笑えん冗談は、その帽子だけにしておけよ」
ジロリとクウォーツに睨まれてアリエスはあわわと焦ったふりをする。

「冗談は帽子だけって……やっぱりキッツイなー兄ちゃん! フッフッフ、まぁ見ときなさいって。
この天才アリエス=ファレル様がついていれば、何でも即解決だって!」




「何だかものすごく不安なセリフだが……」

「封魔石イデアさえ手に入れられれば、アリエスだろうがサジタリウスだろうが何だって来いでーすわ」
「サジタリウスまで来られても困るけど……って、それ誰だい?」

サキョウ、リアン、ジハードは、へらへらと笑みを浮かべるアリエスの様子に不安そうである。



「わたし、色々と迷惑かけるかもしれないけど……よろしくね」
スッと立ち上がって笑顔を浮かべながら、ティエルはアリエスに右手を差し出した。

「こちらこそ、嬢ちゃん」
そう言うと、アリエスはティエルの手を軽く握る。


「ってゆーか、いつまでも嬢ちゃんじゃアレだし……一応名前を聞いておこうかな」




「えーと……あっちの大きなのがサキョウ。その隣の白髪の子がジハード。
こっちの長い髪の女の子はリアンで、あそこの無愛想な男の子がクウォーツだよ」

一人一人アリエスに紹介していくと、ティエルはヘヘッと笑いながら肩をすくめて見せた。



「で、わたしはティエル。ふつつかものですが、改めてよろしくお願いします!」

「よっしゃ、出発は急で悪いけど今夜だ。それまでこのテントの中は自由に使っていいよ。
あんた達の暇つぶしになるような物はないかもしんないけど」















考古学者アリエスと共に封魔石イデアを取り返すことにしたティエル達は、
アリエスの準備が整うまでの時間をつぶすこととなった。


テントの外に出ると、先ほどまで薄暗かった辺りがすでに暗闇に包まれている。
そんなにも長い間アリエスの話を聞いていたのだろうか。

外に出たティエルは、大きく深呼吸をして伸びをする。




「何だか、都合よく話が決まってしまいましたわね。
信じられませんわ……あの伝説の封魔石イデアが手に入るかもしれないなんて」

テントの入口の布をパサッとめくり上げ、そう言いながらリアンが外に出てきた。


「もしも手に入れたとしても、先にティエルの敵討ちに使って下さいな。
私の場合は後からでも充分間に合いますから。それに私の故郷はものすごく遠いですしね」



「ありがと、リアン。手に入れられるといいね。何だか……本当に夢みたいだ」




「……まだ手にも入れていないのに、そんな夢心地でどうするんだい。
そういう事は手に入れてから考えるものだよ。捕らぬ狸の皮算用ってことわざを知っているかい?」

どうやらテントの裏側にいたらしいジハードが、寝ぼけ眼で面倒くさそうに歩いてくる。



「……ジハードってさ、随分と難しい言葉を知っているよね」
「いえ、別に難しくはないと思うのですけれど……」


しきりに感心するティエルの隣で、リアンは呆れたように肩をすくめたのだった。







+DeadorAlive+