Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」
第8章+考古学者アリエス

第90話 血の暗黒卿バアトリ-1-





「なっ、なんだ貴様らは!? さてはこいつらの仲間だな?」

突如頭上から現れた侵入者達にゲマは一瞬だけ驚いた表情を浮かべたが、
すぐに表情を元に戻してニヤリと不敵な笑みを口元に浮かべる。



「フフフ、愚か者よのう。お前らも生贄にしてやろう! ……おい、この侵入者共をひっ捕らえよ!!」


ゲマがサッと右手を前に突き出すと今まで一列に並んで控えていた黒いフードをかぶった者達が、
皆一斉に剣や槍を握ってティエル達に向かってきた。




「わたしが時間稼ぎするから、クウォーツはサキョウとリアンを助けてあげて!」
「私が時間稼ぎをした方がよかろう? 駄目だ、お前が奴らを助けに行ってこい」

先に降り立ったティエルとクウォーツは背中合わせに剣を構え、周囲に聞こえぬような声で口を開く。
目的は戦うことではない、リアン達を助けることが第一目標なのだ。



「クウォーツの方が足速いでしょ? わたしだったら、リアン達の所に辿り着く前に囲まれちゃう」
「……分かった。だが、危なくなったら逃げてもいいぞ。こんなザコ共、私一人で充分だ」

ティエルとクウォーツはそう言うと静かに頷き合い、弾かれたようにして駆け出した。




敵は大きな黒いフードをかぶっているので、視界の広さは自分達の方が有利である。
相手の視野の狭さを利用して、ティエルはなんとか一人目の剣を遥か彼方へ弾き飛ばした。


ホッとする余裕もなく二人目と剣を交えた時、フードの男が音もなく彼女の背後に迫ってくる。




「おりゃあ! 危機一髪って所かな、こりゃ」
「ぐぶ!?」

遅れてやってきたアリエスが、帽子を押さえながらフードの男の上に落下してきた。
勿論不意の出来事であったので、避ける間もなく男はアリエスの全体重を食らって突っ伏した。




「ごめん、ちょっと遅れたね。けれど油断禁物、無理も禁物。分かってる?」
それに遅れてスタッと着地したジハードは、リグ・ヴェーダのページをめくりながらティエルを振り返る。

「本来ならぼくは、こんな乱闘騒ぎは好きじゃないんだ。落ち着いた戦いの方が好ましいのだけど」



「オレだってさー、本来ならイデア奪ってとんずらしたい所なんだけど、まぁ最後まで付き合うよ」
既に呪文詠唱を終えたアリエスが、メイジスタッフを構えてニヤリと笑みを浮かべた。

「最近運動不足でさ、ちょっとは身体動かしておかないと鈍っちゃうだろ?」





「おい、情けないな。こんなあっさりと簡単に捕まるんじゃない」


──その一方。

クウォーツは身動きの取れないサキョウとリアンに駆け寄って鎖を解こうとしたが、
どうやら鍵がかかっているようであり、簡単には解けない。



「すまんな、ワシとしたことが油断してしまって……。こやつらは表情が見えぬ分、なかなか手強いぞ。
確か鍵はフードをかぶっている誰かが持っているはずなんだが……」

カチャカチャと鍵を調べるクウォーツに向かって、サキョウが申し訳なさそうに言った。
その隣ではリアンが不服そうに口を尖らせている。




「……ちょっとクウォーツ、サキョウよりも私のようにか弱くて繊細な女の子を先に助けるのが筋でしょう?」
「フッ、悪いな……私は差別をしないのだよ。助かりたくば少し黙っていろ、気が散る」

鍵を探すことを諦めたクウォーツは、切れ味の鋭い妖刀幻夢で鎖を削っているようである。
気の遠くなるような作業かと思われたが、鎖は大分削れてきているようだ。




「うわああ、逃げろ!!」
「神の制裁だ!! 殺される!!」

既に会場は大混乱である。
信者達は押し合いながら会場から逃げ出そうと躍起で出口付近では大騒ぎが起きていた。




「ふふふーん、オレをただの考古学者だと思ってっと怪我すんぜ」

アリエスは鼻歌を口ずさみながらメイジスタッフをくるくると回していたが、
侵入者を倒そうといきり立った黒いフード達が向かって来ると、スタッフを大きく横に振り下ろす。


「内腑煮たぎり、魂燃え尽くす、冥府に潜む者達集いて灼熱の火炎となれ……メギドフレア!!」



「この騒ぎじゃ平和的に解決なんて無理のようだね……仕方ないなあ。爆破陣!!」

ぱらぱらとめくっていたリグ・ヴェーダのページをふと止めると、ジハードは片手を前に突き出した。
ヴヴヴンという音と共に虹色に光り輝く魔法陣が現れ、黒いフードの男達を囲んでいく。


「……発動」
それを確認した彼がパチンと指を鳴らすと、魔法陣が取り囲んだ周辺が大爆発を起こした。




「戦い嫌いの割には好戦的なんだから、ジハードって!」

半分呆れながらティエルは竜鱗の剣を握り締め、一度腰で溜めてから勢いよく前に突き出す。
ドスッという確かな手ごたえと共に、黒フードは呻き声を上げながら地に倒れた。



……決してひとを斬るのに慣れたわけじゃない。
殺らなければ、こちらが殺られるのだ。向かって来るのなら、倒すしかない。




「ここはぼくらに任せて、あなたはクウォーツを助けてやってくれ。彼一人では大変だろう」
そんなティエルの表情に気づいているのかいないのか、ジハードは優しい笑みを浮かべて口を開く。

「ぼくらの目的はリアン達を助けること、イデアを奪い返すこと。それだけでしょ?」



その言葉にティエルは戦う手を止め、ジハードの水色の瞳を無言で見つめ返した。

初めのうちは何を考えているのか全く分からなかった彼の瞳も、
段々と時間が経つにつれて彼が思っていること、言いたいことが感じ取れるようになってきた。


それは、ティエルの単なる思い込みなのかもしれないが。




それから静かに頷くと、黒フードの男達をジハードとアリエスに任せてティエルは駆け出した。
遠目から、クウォーツが妖刀幻夢でサキョウ達の鎖を壊そうとしているのが見える。

ホッとしたティエルがクウォーツに声をかけようとした刹那、彼に向かって黒い影が飛び掛った。




「おやおや……いけませんねぇ。わたくしの大切な生贄に、勝手なことをされては困りますよ……!」
いやらしく笑みを浮かべたバアトリが、背後からクウォーツに飛び掛ったのだった。


「……なっ!?」
突然のことで思わず妖刀幻夢を手から落とした彼は、バアトリを振り払おうと暴れ始める。

「貴様、離れろ!」




「それにしても、あなた物凄く美しいですねェ。わたくし、あなたみたいな方は結構好みですよ」
そう言いながら舌なめずりをしたバアトリは、クウォーツの顔を自分に向かせると彼の頬に接吻をする。

「ククク……わたくしの名はバアトリ。以後お見知りおきを、麗しき方。まずは挨拶までに……」



「……貴様ァ!!」
そのバアトリの行為にさすがのクウォーツもカッとなり、すぐさま頬を手で拭い去った。

「私に馴れ馴れしく触れるな! ……この代償、死でもって償ってもらうぞ!!」




「やああぁあっ!!」

そこへ地面を蹴って突っ込んできたティエルが、バアトリに向かって剣を振り上げる。
しかしバアトリは嫌な笑みを浮かべると、バサッとマントをはためかせて飛び上がった。



「あなたもなかなかチャーミングですよ……ほぅら、恐怖に引きつった表情なんてこんなに素敵」

いつの間にかティエルの背後に立っていたバアトリは、彼女の髪を救い上げると頬にすり寄せる。
言い表せぬ嫌悪の表情がティエルの顔にサッと通り過ぎた。


「あなたに厳つい剣は似合いませんよ……そうですね、さしずめ真っ赤な血が似合いますねェ……!!」




「吸血鬼め、させるかあ!!」

硬直しているティエルの首筋にバアトリが尖った牙を埋め込もうとした刹那、
ようやく鎖が外れたサキョウが怒号と共に突っ込んできた。



「おやおや……せっかくの所で邪魔が入りましたね。仕方ありません、ちょっと遊んでさし上げましょうか!」

ティエルから飛び退いたバアトリは宙に浮かび上がると、
マントの中から血で変色したような色合いの鞭を取り出した。遠目からでもそれが茨の鞭だと分かる。




「さあ、見せて下さいよ……わたくしに美しい血を。クククク……最高に感じさせて下さいよ!!」

ギャッと急降下してきたバアトリは、向かって来たサキョウの横をすり抜ける。
すれ違った途端、サキョウの腕が裂けて血が噴き出した。



「ふ……触れてもいないのに、なんて威力の鞭だ!?」







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