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Lord of lords RAYJEND 第2幕「エデンの花園」 第1章+水と緑のメドフォード - 光ゴケの夜 -
第1話 水と緑のメドフォード 四方を美しい湖と森に囲まれた王国メドフォード。 代々高名な魔法使いが治めてきたと言われるこの王国を、人々は親しみを込めて水と緑の王国と呼んでいる。 しかし、賢王とまで謳われた第27代目女王であるミランダが、左大臣ゲードルの謀反によって命を落としてしまう。 女王が殺害され、完全にゲードルの手に落ちたメドフォードは一夜にして変わってしまったのだ。 奴隷制度に重すぎる税。外交は完全に遮断され、国から出ることすらもままならなくなる。 ミランダには一人の孫が存在していたのだが、そんな姫も反乱の最中命を落としたという噂が広まった。 完全に希望を失ったメドフォード王国は人々から笑顔が消え、亡者が我が物で歩く恐怖の王国に成り果てた。 ……だが。ある日突然奇跡は訪れたのだ。 死亡したと報じられていたミランダの孫であるティアイエル姫が、兵士達を率いて国奪還を仕掛けたのだった。 その戦いは一日で終結し、謀反の首謀者であった元左大臣ゲードルの恐怖の執政は終焉を迎えた。 ゲードルの背後には黒幕が存在していたようだが、それは彼が死亡した今となっては謎に包まれたままである。 優れた魔法使いであったミランダとは違い、魔力を全く持たない姫君だと噂されていたティアイエル姫であったが、 その指揮を執り自ら先頭に立って戦う様は、まるで若い頃のミランダのようだと涙を流す老人も少なくはなかった。 長い悪夢もようやく終わりを告げ、これからのメドフォードは復興に向けて歩み始めることになる。 確かに時間はかかるだろう。しかし人々に笑顔が戻った今、確実に前に進んでいる。 ……一歩ずつ、ゆっくりと。 ・ ・ ・ ・ ・ 「ねえ、エディソン先生? ひとつ聞きたいことがあるんだけどいいかなぁ……じゃなくて、いいかしら?」 大きく開け放たれた窓からは見事な白やピンクの薔薇達や、緑萌える中庭の様子が見て取れる。 休憩中だろうか。楽しそうに談笑をする2、3人の侍女達の姿が見えた。 「ティエル姫様が質問とは珍しい。作法の質問ならば一つと言わずにお幾つでも聞いて頂いても結構ですよ」 カールした口ひげが自慢である礼儀作法の教師、エディソンは椅子に腰掛けるティエルに笑みを浮かべる。 ティアイエル王女。 さらさらとしたミルクティ色の髪を長く伸ばし、ふっくらとした丸顔で、大きな茶の瞳が印象的な少女である。 特別美しい顔立ちというわけではないが、どこか人を惹きつける愛らしさが彼女の笑顔にはあった。 そんな彼女が頬杖をつきたいのを我慢しているような様子で、エディソンに先程の台詞を投げかけたのだ。 「ミランダおばあさまは、何歳で女王になったのかなぁって。そういえばわたし、おばあさまのこと全然知らないし」 先程の台詞は習った礼儀作法を意識したようなものであったが、すっかり元の彼女の調子に戻ってしまっている。 これでは『おてんば姫』を卒業できるのは、まだまだ先のことであろう。 「そうですねぇ……ミランダ様の若い頃はとても賢く、素晴らしいレディだったと聞きます。まさに淑女の中の淑女。 確か正式に即位をされたのは三十を超えてからだったと。当時私はまだ生まれておりませんでした」 「へぇー、あの賢いおばあさまも女王になるために沢山お勉強をしたのかな」 「勿論です。一般常識に礼儀作法、そして帝王学。ティエル姫様が即位されるまで、学ぶべき事は沢山あります」 「学ぶべきことかぁ……そうだよね、そうなんだよね。そりゃあ沢山あるよね」 目の前のティエルの表情がどんどんと暗くなっていく。相も変わらずこの姫様は思ったことがすぐに顔に出る。 それに気付いたエディソンは、穏やかな笑みを浮かべて言った。 「時間は沢山あります。焦らずゆっくりと、一つずつ確実に身に付けていけば良いのですよ。 特に姫様に今必要なものは礼儀作法ですな。旅を終えてからの姫様は、更に山猿パワーに磨きがかかっ……」 「分かった、分かりました! もー、こんなどこからどう見たってレディに山猿とか失礼なこと言わないでよ」 拗ねたように唇を尖らせ、ティエルは両手を腰に当てる。 更に長くなった髪に、薔薇色の頬。以前は水平線のように平らであった胸も、微かに膨らんでいるように見えた。 旅をしていた頃と比べると、幾分かレディらしくなったと言われればそうかもしれない。 もう少年と間違えられはしないであろう。しかし、それは中身ではなく外見のみの話である。 その時、丁度午前の授業の終わりを告げる鐘が鳴った。 「さぁ、今日の授業はもうお終いよ! 先生ごきげんよう」 「それではティエル姫様、また明日お会いいたしましょう。明日は姫様の苦手な会食時のマナーのおさらいです」 「はーい、復習してきまぁす」 やはりまだぎこちない動作で会釈をしたティエルは、ドレスの裾を掴むと身軽な動作で部屋を後にしたのだった。 柔らかな午前の日差しの中庭に出ると、先程窓から見かけた侍女達がティエルに向かって笑顔でお辞儀をする。 彼女達に軽く手を振ると、ティエルはそんな何気ない穏やかな日常に心から平和を実感した。 ……半年。 メドフォードを奪還して約半年が過ぎた。この頃ティエルは、旅をしていたあの頃をひどく懐かしく感じていた。 あの戦いからまだ半年しか経っていないのだ。だが言い代えれば、もう半年も経ってしまったのだ。 ベムジンに戻ったサキョウとは毎月のように手紙のやり取りをしている。 長い間留守にしていたため、膨大な仕事の量に一日があっという間だと書いてあった。その様子が目に浮かぶ。 そして、なかなか立ち寄ることができずにすまないとも。約束をしていたゴドーのお墓作りは当分先になりそうだ。 そろそろこの間出した手紙の返事が返ってくる頃だろう。 ティエルは毎日のように女官に手紙は来ていないかと聞いているのだが、今朝はまだ来ていないと言っていた。 (あまり返事を催促しちゃ悪いよね、サキョウだって毎日忙しいんだもん。 それとも、わたしの方から会いに行っちゃおうかな。ベムジンの修行体験させてくれるって言っていたもんね) 中庭を少し進んだ場所にある兵士休憩所には、万年兵士見習いであるジョンとリックの姿はなかった。 更にそこを通過して緑のアーチをくぐる。少しだけ視界が開け、小さな噴水の側には騎士休憩所があった。 昔はよくここでガリオンと他愛のない話に花を咲かせていたものだ。 騎士休憩所にも人の姿は見当たらず、少し疲れを覚えたティエルは円状に組んであるベンチに腰を下ろす。 風に揺られてさわさわと葉の擦れる音。しんと静まり返った辺りに響く鳥のさえずり。 暫くそれらに耳を預けていたティエルだったが、ふと視界の端に使い古されたヒノキの棒が映った。 これは騎士や兵士達が稽古用に使用するものだ。きっと先程までここにいた誰かが忘れていったのだろう。 そういえば、今日は起きてからあまり身体を動かしてはいない。 「これ返しに行くついでに……ちょっとだけ使ってみてもいいよね?」 と伸ばした手に握ったヒノキの棒は、とても軽い上に握りやすかった。長さもイデアとほぼ同じくらいである。 目の前に手強い相手がいると想定する。 棒を振り上げティエルが突っ込んで行くと、想像の中の相手は高くジャンプをして彼女の背後に回りこむ。 そこで怯まず振り向き様にヒノキの棒を突き出した。まずは一撃目がここでヒットするはずだ。 あまり重さを感じないので動きが軽やかになる。 イデアもこのくらい軽ければいいのにな、とティエルが考えた時。目の前の木の陰から突然人影が現れた。 「え? あれ、姫様!?」 「あっ!」 鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして顔を覗かせたのは、騎士団員のサイヤーであった。 間が悪く丁度ティエルはドレスの裾をめくり上げ、歯を食いしばりながら棒を振り下ろしていた所である。 姫君としてあまり見られたくないような場面を彼に見られてしまった彼女は、思わずへへへと変な声で笑った。 そんなティエルの様子を暫く唖然として見つめていたサイヤーだったが、やがて笑いを吹き出してしまう。 「あっはは、姫様、わはは、申し訳ございません! いやいや、噂に違わぬ勇士をとくと見せて頂きましたよ!」 「ちょっと、いくらなんでも笑いすぎなんじゃないのサイヤー!」 笑い続けるサイヤーをじろりと睨んだが、ガリオンがいなくなってから彼がこんなに笑ったことはあっただろうか。 サイヤーはガリオンの友人だ。ガリオンが騎士団にいた頃、そういえばよく彼と話しているのを見たことがある。 少々癖毛が目立つ赤茶色の髪をした、すらりと背の高い青年だ。 「あはは、今日は一日いい日になりそうだ。何と言っても姫様の勇ましいお姿を拝見することができたのですから」 ようやく笑いが収まった彼は目尻に浮かんだ涙を拭うと、慌てて片膝をついて騎士の礼をする。 「あぁっ、とんだご無礼を申し訳ございませんでした。このサイヤー、どんなお叱りも受ける覚悟でございます!」 「うーん……どうしようかなー。散々笑ってくれたもんねぇ。美味しいアップルパイを作ってもらおうかなぁ」 サイヤーの前で意地悪そうに悩む振りをしたティエルだったが、ころっと表情を戻すと彼の顔を覗きこむ。 「それじゃ、一回だけ剣の相手をしてくれる?」 +DeadorAlive+ |