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Lord of lords RAYJEND 第2幕「エデンの花園」 第3章+黒髪のロイア
第18話 荒廃のゴールドマイン どこか土の匂いを含んだ風が吹いた。 その一陣の風は、動く者の見当たらないゴールドマインの町を吹き抜けていく。舞い上がる落ち葉や新聞紙。 所々大岩が地面から突き出ている町だった。舗装のされていない砂利道が、鉱山まで一直線に伸びている。 道の左右に黒ずんだ木の建物が多く立ち並んでいるが、店々の看板は地に落ちたまま野晒しになっていた。 多くの者が生活していると聞いていたが、この人気の無さは一体何なのだろうか。 漸くゴールドマインへと辿り着いたティエル達だったが、町のあまりの物寂しさに町の入口で立ち尽くしていた。 大通りですら人ひとり歩いている様子が無い。 ヴェリオルから聞いた話では、遠方からわざわざ出稼ぎに来る者達で大変賑わっていた鉱山街だったという。 「誰もいないね。もしかしたら家の中にいるのかもしれないけど……早いところサキョウ達の姿を探そうよ」 「……ちょっと待って。もしかしたら鉱山から石化するガスが噴き出ているのかもしれないんだ」 すたすたと町の中に足を踏み入れようとしているティエルの肩を掴み、難しい顔つきでジハードが首を振った。 「念の為防護の魔法をかけるから。まずは住人から話を聞きださないと、闇雲に動き回るのは得策ではない」 「そ、そうだね。でも……もしかしたら住んでいる人は、皆逃げ出しちゃっているのかもしれないね」 ジハードの描く虹色の魔法陣を眺めながらティエルが言う。自分ならば、すぐにでも逃げ出しているだろうと。 極陣の光が二人の身体を包み込むと、なんとなく安らかな気持ちになる。 「気休めかもしれないけど、一応防護の魔法をかけておいたよ。残念ながら効果はあんまり長持ちしないから、 石化する原因をまずは探らないとね。ぼくらまで石化してしまったら、ここまで来た意味がないでしょう?」 その通りである。 サキョウ達の様子を見に来た自分達が石化してしまうほど情けない話はない。ヴェリオルも呆れるだろう。 「とりあえず……一番近くの建物からあたってみよう。何があったか聞かないとね」 ジハードが指さした先には、簡素な掘っ立て小屋があった。 カーテンもなく所々窓ガラスにひびが入っており、見たところ人が生活しているような雰囲気は感じられない。 「うーん、中に誰かいるようには思えないんだけどなぁ……ちょっと覗いてくるよ」 そう言ったティエルは小走りで小屋まで駆け寄ると、窓が半分開かれている場所からひょいと中を覗いてみる。 小屋の内部は薄暗かったが、動いている者はいないようだった。 「どうだった、ティエル。誰かいたかい?」 「誰もいないみたい。やっぱりこんな小さな家じゃなくて、人が住んでいそうな家に行った方がいいと思うよ」 近寄ってきたジハードに向けてティエルが口を尖らせたが、その表情が思わず凍り付いた。 肩を強く掴まれる感触。恐る恐る視線を移動させてみると、血塗れた太い腕が彼女の肩を掴んでいたのだ。 「……ひゃああぁ!!」 「誰だ、手を離せ!」 突然のことに思わず腰を抜かしかけたティエルを下がらせると、ジハードが強い口調で言いながら腕を掴む。 手が伸びていたのは先程彼女が覗いていた窓の中からであった。 覗いた時は死角にいたのだろうか。中で腕を伸ばしていたのは、ぼろぼろの服を纏った中年の男だったのだ。 「あ……あなたはゴールドマインの住人かい?」 「お前ら、今更この地獄の町に何しにきやがった? ここはもう希望で満ち溢れる鉱山なんかじゃねぇんだよ!」 男が発した台詞は乱暴なものであったが、その口調は震えていた。余程恐ろしい目に遭ったのだろうか。 「とにかく小屋の中に入れ。まだ中の方が安全だ。あいつらに見つかっちまったら……今度こそお終いだ」 暫く顔を見合わせていたティエルとジハードであったが、静かに男の言葉に従うことにした。 簡素な木の扉。音を立ててノブを引くと、寝泊りする為だけの部屋のようだが、中は外観よりも意外に広かった。 「おじさんは、ゴールドマインで働いていた人なの?」 部屋の隅に縮こまるように毛布に包まっている男にティエルは声をかける。 ぼうぼうに伸びた髭に、目の下に浮かんだ隈。片足はまるで喰い千切られたかのように凄惨な状態であった。 「わたし達、今ここに初めて来たんだけど……どんな事でもいいから、知っていることがあったら教えて欲しいの」 暫くがちがちと歯を鳴らしながら震えていた男であったが、一人でないことに安堵したのか震えが消えていく。 やがて意を決したのか、呟くような小さな声で語り始めた。 「……お前らもこのゴールドマインに働き口を探しに来た連中か? 帰った方がいいぜ。ここはもうお終いだ」 足の傷が痛むのだろうか、男は時折歯を食いしばっていた。まるで獣に喰い千切られたかのような傷。 男の前に腰を下ろしていたジハードは怯えさせぬように静かに手を伸ばすと、彼の脚に優しく触れる。 「い、痛っ! いきなり何しやがんだ、てめぇ!?」 「いいから、黙って。動かないでよ。ただ傷を治すだけだから」 ジハードが脚に触れた瞬間身体を強張らせた男だが、彼の手から淡い緑の光が零れ始めると口を閉ざした。 ゆっくりと、だが確実に。淡い光は男の傷を塞いでいる。 「黴菌が入ったんだね。こんなに酷くなるまで放っておくなんて……医者か僧侶には診せなかったのかい?」 「……言っただろ、この町はもう終わりだって。医者も僧侶も、誰も残ってなんかいねぇよ」 吐き捨てるように男が言った。 小屋の外に吹く風はどこか冷たく、割れた窓から微かに冷気を運んでくる。もうすぐ日没だろうか。 「オレだって足を怪我していなきゃ、こんな所からとっとと逃げ出しているさ。 こんなザマで逃げたとしても、すぐに奴らに見つかって殺されちまう……。それなら隠れていた方が賢いだろ?」 「……奴ら? ねえ、ここにモンク僧達が来たでしょう? その中に陽に焼けた大きな男の人がいなかった?」 「モンク僧は来たぜ。だが鉱山へ調査に行ったっきり戻って来ねぇ。……誰がいたかなんて分からねぇよ」 「そっか……」 男の言葉に思わずティエルは項垂れてしまう。 こんな様子のゴールドマインだ。一刻も早くサキョウ達の安否が知りたいが、明るい返事は返ってこなかった。 「そういえばお前ら、どうしてゴールドマインがこんなになっちまったのか聞いていたな。 傷を治してくれた礼ってわけじゃねぇんだが……オレが知っている事でいいなら、洗いざらい全部話してやるよ」 黙って頷くティエルとジハード。 サキョウ達の安否も気になるが、何故活気の溢れるこの町が寂れてしまったのか調べなくてはならない。 「約一ヶ月ほど前になるか……オレは仲間達と共にこのゴールドマインに働きに来た。 勿論発掘関係の仕事はすぐに見つかったさ。それが目当てだったしな。指示通りに金脈を掘る毎日だった」 「仕事なんていくらでもあるくらい、ゴールドマインは栄えていたんだね」 「そうだお嬢ちゃん。まぁ、オレみたいに体力だけが自慢の奴らばかりが集まっていたけどよ」 男の話は続く。 「その内仲間の一人が変な通路を掘り当てちまったのさ。部屋みたいなのに続いている通路をな。 あんなものさえ掘り当てなかったら、今頃こんなことにはならなかったのに……やっぱ欲は出すもんじゃねぇよ」 「鉱山の奥に隠し通路……? 何だか関わってはいけない臭いがぷんぷんとするね」 首を傾げながらジハードが言った。 「それで、どうなったの?」 「あんたの言うとおり、ヤバイもんだったんだよ。だけどオレ達は、大発見だ金になるとか大騒ぎしちまって……。 やめようって言ったあいつの言葉を無視して……ああぁ……畜生……た、たすけ……助けてくれえぇ!!」 相当恐ろしい思いを味わったのだろうか。 突然がたがたと震え始めた男はまるで誰かに許しを請うように呟くと、頭を抱えながらその場に蹲ってしまった。 「……一体あなた達は何を掘り出してしまったの?」 ティエルが問いかけるが、男は震えて頭を抱えるばかりである。 そっとジハードに顔を向けるが、彼は目を閉じながら首を振った。男が落ち着くまで待てというのだろう。 小屋の中には、許してくれと何度も嗚咽交じりの男の声が響くだけであった……。 +DeadorAlive+ |