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Lord of lords RAYJEND 第2幕「エデンの花園」 第4章+ユークリンド大森林 - 夜の囁きを求めて -
第26話 ユークリンド大森林 -2- ティエル達がユークリンド大森林に辿り着いてから、二日が経った。 見渡す限り大木の続くこの自然の中を歩き続けていると、改めて自分達の存在の小ささを思い知らされる。 こんなにも広い大森林だ。そう簡単に呪薬師達の隠れ里が見つかるはずがない。 勿論ティエル達はそれも承知の上で挑んでいるのだが、やはり時間が経つにつれて疲労が襲い掛かってくる。 隠れ里を見つける手掛りとも言える、薬草の材料となるレゴルスタの木。 その木の半径数十メートルはあらゆる木々の根元を青く染めるという。だが、それすらも見つかっていない。 サキョウを石化から戻すことのできる唯一の光。難しいからと言って、簡単に諦めるわけにはいかないのだ。 「……ねえ、わたし達って今大森林のどこら辺にいるのかなぁ」 辺りもそろそろ暗くなってきたので、ひとまず今日の捜索は終わりにしようと大木の根元に腰掛けるティエル。 できるだけ地表に隆起する根っこが少ない場所を見つけ、今夜はここで野宿をするつもりだった。 ぼんやりとした表情で空を見上げてみるが、分厚い木々の葉に遮られて星空を眺めることは出来なかった。 「昨日も今日も結構歩いたよね? それでも大森林から見たら、まだほんの入口程度にいるのかなって」 「どうだろ……。歩いたといっても直線距離にしたら大したことがないんじゃない? 前後左右あちこちに寄り道しながら木の根っこを調べているでしょ。まぁ、確かに歩いた量は多いけどさ」 近くを流れる小さな川から汲んできた水をちびちびと飲みながら、ジハードが口を開いた。 ティエルと比べて体力がないように見えるジハードだったが、意外にも連日の野宿も意に介していない。 彼は以前一人旅をしていたのだ。今など比べ物にならないほど、もっと苛酷な状況だったのかもしれない。 一人旅にはそれなりに危険が伴う。一時期旅をしていたティエルだったが、一人旅の経験はない。 とは言っても王宮暮らしにすっかり慣れてしまった彼女には、今現在の二人旅でも少々辛いものがあった。 サキョウの為だという唯それだけの気力で持ち堪えているのだろう。彼女の顔には疲労が浮き出ていた。 だらしなく木に寄りかかったまま、じっとジハードの顔を見つめ続けている。 水を飲み終わり、彼があくびをした時も、それから目尻に少し浮かんだ涙を擦った時も視線は動かない。 何を話すわけでもなく、ただ自分を見つめるティエルに少々訝しく思ったのか、堪えきれずに口を開いた。 「さっきから何を真剣に見つめているんだい。ぼくの顔なんて、まじまじ見るような立派な代物ではないよ」 「ジハードってさ」 「うん」 「……男の子なんだよね」 暫しの沈黙。 ティエルが何を言いたいのか分からない。いや、何を言っているのかは分かるが、質問の意図が分からない。 「確かに男らしい顔や声だなぁとは自分でも思わないけど……ぼくが女の子に見えるとでも言うのかい」 真剣な顔で一体何を言い出すのやら、とジハードは半ば呆れ気味である。 「信じられないんだったら仕方ないな、こうなったら男のシンボルを見てもらうしか……」 「やっだ、信じられない! ……ち、ちょっと! 変な冗談やめてよ!? 脱ごうとしないで!」 ごそごそと己の腰紐に手をかけたジハードに、ティエルは両手を振りながら跳ね起き、全身で拒否する。 そんなティエルの様子を意地の悪い笑みを浮かべながら眺めていたジハードだが、笑いを吹き出してしまう。 「なに慌ててんのさ。露出狂じゃあるまいし、こんな所で脱ぐわけないじゃない。まさか本気にしちゃった?」 「だ、だってジハードがやると冗談じゃ済まなそうなんだもん!」 ……騙された。 そう分かった途端、急に冷静になってくる。ひらひらと片手を振っているジハードの笑みは正に悪魔の笑みだ。 「失敬な。そもそもティエルが変なことを聞くから、それに茶目っ気たっぷりで答えただけなのに」 「……わたし、そんなに変なこと聞いた!? ただ……ジハードって全然髭が生えないなぁって! サキョウなんて二日くらい剃らなかったらクマさんみたいになってたじゃない? 乙女の素朴な疑問なの!」 「乙女の素朴な疑問ねぇ。髭なんて個人個人で違うと思うよ。サキョウは毛が黒い上に体毛も濃いからね」 クマのようになったサキョウを想像したのか、にやりと笑みを浮かべながらジハードが口を開く。 「ぼくはほら、毛が白いから。生えてきても目立たないんじゃないかなぁ……あまり気にしたことないけど」 「ふ〜ん、そっかぁ。そういうことだったんだ。謎が解けてすっきりしたところで水汲みに行ってくるね!」 ようやく納得したような顔つきになったティエル。 先程から何を考えていたかと思えば、髭について考え込んでいたのだ。別に疲労していたのではなかった。 「……こっちは心配して損した気分。あ、水汲みに一人で行くのは危険だよ。ぼくも一緒に行くから」 水筒を持って早速歩き始めているティエルを慌ててジハードが追う形になる。 この大森林ではまだ一度も魔物に遭遇したことはなかったが、用心するに越したことはない。 光ゴケのない暗い森だったので簡素なランプで辺りを照らしながら、根に躓かぬように近くの小川まで目指す。 「そういえば侍女から聞いたけど、ティエルは毛が濃くて筋肉隆々の男らしいタイプが好きだったんだっけ? ベムジンに行けば好みのタイプがあちらこちらにいるだろうね。一つサキョウに相談してみたらどうかな」 「もーっ、一体誰? そんなことを言ったのは! 別にそういうわけじゃないんだってば」 なにやら自分の知らない所で変な噂をされていると、ティエルは頬を風船のように膨らませて見せる。 「話したのは絶対エレナだな! いっつも恋愛がどうとか騎士団の誰々が格好いいとか言ってるし……ん?」 そこまで言いかけて、思わず首を傾げる。 ジハードの手に持つランプの光に照らされて、一瞬だが人が倒れているような気がしたのだ。 「どうしたんだい?」 「ちょっとジハード、ランプ貸して。確かここら辺に見えたんだけど……あ、やっぱりいた!」 ティエルが駆け寄り改めて光で照らしてみると、それは仰向けに倒れている傷だらけの中年の男であった。 すぐ側には崖のように切り立った場所があり、泥だらけの上に木の葉を服に纏わり付かせた男の姿から、 恐らくそこから転がり落ちてしまったのだろう。 見たところ軽装で、旅人のような雰囲気ではない。どこか、この近くに住んでいる者なのだろうか。 「……大丈夫、意識を失っているだけだよ」 男の様子を調べていたジハード。彼の口調から、男の命には別状がないようだ。 「足を捻挫しているかもしれない。とりあえず、荷物のある所に彼を運ばないと。ティエル、水を汲んできて」 「うん、分かった!」 ・ ・ ・ 彼女が目を覚ますと、辺りは既に暗くなっていた。 緩やかな動作で簡素なベッドから身を起こすと、サイドに置かれているテーブルの上にはトレイが乗っていた。 茸の炊き込みご飯と、スープ。綺麗に皮の剥かれたオレンジ。 持って来てくれたのは恐らくマナおばさまだと彼女は苦笑した。気を遣って起こさないでいてくれたのだろう。 「マナおばさまの炊き込みご飯は絶品だったっけ。そういえば、おばあちゃんも褒めていたなぁ……」 もそもそとご飯を口に運んでみると、冷めてはいるが味が染み込んでいて美味しかった。 右手で食器を持ちつつ、左手であちこちに跳ねた髪を梳かす。だが元からの癖毛なので、あまり意味はない。 暗闇でも爛々と光る彼女の赤い瞳。隠しようのない悪魔の印である。 (……それでもこの村の人たちは私を受け入れてくれた。悪魔族の私に、蔑み、恐れもしないで接してくれる。 だから私は全ての力をもってこの村を守らなくてはならない。この村を侵そうとする全ての者から守らなくては) そこで漸く気が付いた。……外が何やら騒がしい。 食器を置き、彼女はのろのろと靴を履いて扉を開ける。こんな時間まで珍しく数人の村人達の姿が見える。 暫く彼女は赤い瞳を瞬いていたが、その姿に気付いた一人の村人が近付いてきた。 「ヴィス、ホフマンさんを見かけなかったかい!?」 「こんばんは、フロイおじさま。……ホフマンおじさまは今日は見かけていませんが、どうかしたんですか?」 「朝から薬草を取りに出かけたらしいんだけど、まだ帰ってこないんだ。 この辺りは夜になると森の亡霊が出没するから、ホフマンさんも危険だってことは知っているはずなのに」 「……誰か、森の外を探しているんですか?」 「いや、危険だから集団でこれから探しに行こうと思っているんだ。とりあえず男達を集めて相談をして……」 「そっ……それでは遅いです! こうしている間にも、もしかしたら襲われているかもしれないんですよ!?」 ぐっと両の手を握り締めた彼女は、それから意を決したように顔を上げた。 「私が行きます。私の目は、ある程度なら夜目も効きますし……いざとなったら戦えますから」 「いけない、一人で行っては危険だぞ! おい、ヴィス戻ってこい!」 だが呼びかけにも彼女は立ち止まろうとはしない。村人の制止も振り切って、彼女は真っ直ぐに駆け出した。 (……この村の平穏は私が守る。絶対に私が守ってみせるんだ……!) +DeadorAlive+ |