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Lord of lords RAYJEND 第2幕「エデンの花園」 第4章+ユークリンド大森林 - 夜の囁きを求めて -
第27話 ユークリンド大森林 -3- 倒れていた男を背負い、野宿の場所まで戻ってきたティエルとジハード。 平らな所へ寝かせてジハードが傷の具合を調べる。落ちた時に捻ったのか、足首が赤く腫れ上がっていた。 命に別状がないとは言っても、身体の至る所に切り傷やひどい打身は多く見受けられた。 足首に薬草を巻いた湿布を貼ってやり、治癒魔法をかけてやる。少しずつだが腫れが引いていった。 そこで漸く一つ大きな溜息をついたティエルとジハードは、やれやれとその場に座り込む。 「……それにしてもビックリしたぁ。歩いていたらいきなり人が倒れているんだもん、何事かと思っちゃった」 「よく見つけられたね。ティエルが気が付かなかったら、多分ぼくも気付かなかったと思うよ」 そろそろ今日の疲れが出てきたのか、眠そうに欠伸をしながらジハードが寝転がった。 本来ならば彼は既に寝ている時間だ。 そんなジハードが先程から男を背負ったり治癒魔法を使ったりで、疲労してしまうのも当然のことだった。 ティエルも水を何往復も汲みに行ったために、ジハードと同じくへとへとである。 「ううぅ……いたたた……」 「あれ、気が付いたみたいだよ。おーい、おじさん大丈夫?」 男が目を覚ましたようだ。ひょいと男の顔を覗きこんだティエルは、彼を安心させるように優しく笑いかけた。 一体自分がどうなったのか理解できていない様子の男だったが、段々と顔色を青くさせる。 「オレは確か崖から足を滑らせて落ちたはずだよな……それよりも何故、こんな所に村人でもない人間が?」 ぺたぺたと己の顔に触れ、それから身体中に残る手当ての跡に目を留めた。 「もしかして、君たちが助けてくれたのか?」 「そうだよ。わたし達が水を汲みに行こうとしたら、おじさんが崖の下に倒れてたの。驚いちゃったじゃない!」 「あちこち擦り剥いたりしているけど、一番酷かったのは足首の捻挫だけだから。頑丈なもんだね」 「いやぁ……それは面目ない。ありがとう。昔から頑丈なのが取り柄でね。無茶ばっかりしてしまうんだよ」 照れくさそうに手を頭の後ろにやった男は、ティエル達の顔を順繰りに眺めて力なく笑う。 表情だけは怒った顔を作っていたティエルだったが、彼女も無茶をすることにはなかなか負けていない。 「今日は朝から薬草を取りに出かけていたんだ。さっきの崖の途中に生えているのを見つけてさ。 手に届きそうな距離だし大丈夫だろうと枝に掴まって手を伸ばしたら……見事に枝が折れてしまったんだ」 「……薬草を取りに? あなたの服装から察するに、森の外から来た人間じゃないようだね」 確かにジハードの言うとおり、男の服装は少し近所まで出掛けるか、というような随分と軽装であった。 「もしかして森の中に元々住んでいる人なのかい?」 そのジハードの問いかけに、男は暫く悩んでいるような顔つきを見せる。 隠し事ができない性格なのか、思いっ切り表情に出てしまっている。やがて男は溜息と共に口を開いた。 「ははは……君たちに隠しても仕方がないね。そうだよ、オレはこの森の中にある村に住んでいるんだ」 「……まさか、おじさん呪薬師の隠れ里に住んでるの!?」 「外の人達からはそう呼ばれているかもね。少しばかり薬を作るのが上手いだけの人間が集まった村だよ」 何という幸運なのだろう。長丁場になるかと思われた隠れ里探しが、こうも早く解決することができたなんて。 あまりの嬉しさにティエルは相手が怪我人だということも忘れ、勢いよく飛びついた。 「おじさん、お願い! わたし達の大切な人が石にされちゃって……どうしても魔法解除する薬が欲しいの!」 「あいたたた! お嬢ちゃん、そこ、そこ捻挫してるところ!」 「ご、ごめんなさい……」 馬鹿力で抱き付かれて悶絶している男と、慌てて身を離してしゅんとしているティエル。 その様子にやれやれと溜息をついたジハードは、崩していた姿勢を正して真っ直ぐに男へと向き直った。 「あなた達の村が外界との接触を拒んでいることは知っている。……無理を充分承知の上で言わせて欲しい」 それからジハードは目を閉じてゆっくりと頭を垂れた。それに倣ってティエルも頭を下げる。 「……大切な人が石にされた。それを、ぼくはどんな方法でも構わないから戻したいんだ」 「彼にはいつも、どんな時も元気を貰っていた。口にできない、形にできない色々なものを貰っていたんだ。 それなのにぼくは……彼に淡い期待だけさせて、結局いつも何も出来なかった。落胆ばかりさせていた」 サクラの時。ゴドーの時。いつも隣にいたのに、どうすることも出来なかった。 ただ、命失っていく彼らを眺めていることしか出来なかった。サキョウの期待を裏切ることしか出来なかった。 「今度こそ力になりたい。石化を解く為に、不死鳥族であるぼくの血肉が必要ならばこの身を切ってもいい。 薬草を譲ってくれなんて言わない。ただ……彼を助ける方法があるなら教えて欲しい……!!」 静かな森の中、ジハードの苦しげな独白が響き渡る。 本当は心のどこかでサキョウを自分の力で治したいという気持ちがあったのだろう。 だが治癒に長けているとはいえ、不死鳥族は万能ではないのだ。治癒魔法では傷を治すことしかできない。 呪いや石化を解くことも、毒を中和することも、死んだ者を生き返らせることもできないのだ。 誰にだって出来ないことは沢山ある。 しかし、周囲はジハードに過剰な期待をしていなかっただろうか。だから、彼もそれに精一杯応えようとする。 相手に能力以上の期待をされ、それが出来なかった時。 縋るような相手の期待を大きく裏切ってしまったと、彼はいつも自分の無力さを呪い続けていたのだ。 普段はあまり本心を口に出さない彼の心の内が、ほんの少しだけティエルは理解できたような気がした。 彼は治癒魔法の他に、不死鳥族最大の禁忌である己の命を犠牲にして相手を傷付ける魔法を習得している。 そんなジハードにこれ以上一体何を望めというのか。 「ぼくが救わないとならないんだ。ぼくが何とかしなくちゃならないんだ。……ぼくが、」 「……白髪のお兄ちゃん、もういいよ。これ以上続けても、単に自分を追い詰めるだけだよ」 ジハードの切羽詰った表情から何かを感じ取ったのだろうか。優しさを帯びた男の声が彼の独白を遮った。 「確かにオレ達の村は外界との接触を避けているし、見知らぬ外の人間には薬を作らないと決めている。 だがそれは相手が転売人や脅してくるような悪党だった時の話だ。オレ達の薬は高く売れるらしいからな」 男は続ける。 「こんなにも固い決意でわざわざここを訪ねてくるような者を、追い返すなんて非情な真似はしないよ。 それに第一、君たちはオレにとって命の恩人とも言える存在だ。拒む理由なんてどこにもないだろう?」 そう言って、笑った。 「確かに石化を解く薬を作れる者はいる。オレの方からも頼んでみるから。……とりあえず、村に案内するよ」 「ありがとう……」 「おじさん、本当にありがとう!」 もう一度頭を垂れるジハードと、思わず男に飛びつくティエル。怪我人だったことを思い出し、慌てて身を離す。 「それにしても君たちそんな軽装備でよくここまで来れたね。……あとこの辺では野宿はやめた方がいい」 男が少し声のトーンを落とした時だった。 凄まじい殺気が辺りを包み込む。それと共に漂うどこか纏わりつくような寒気は、確かに身に覚えがある。 それはハイブルグ城で、ロクサーヌの森で、メドフォード城女王の間で、アンジェリカの館で。 風を切るような音が聞こえ、反射的に身を低くしたティエルの背後の大木がぱっくりと裂け目を見せていた。 「何なの一体!?」 状況を全く把握できずに目を丸くするティエルだったが、すぐさま背のイデアを抜き放つ。 殺気に反応したのか、青白い光を発する花達が一斉に顔を持ち上げた。ぼんやりと薄明るくなる辺り一面。 直線距離で約十メートルほど。太い大木の枝に、明らかに人と思われる影が立っていた。 「ここはキミ達の来る場所ではありません! 森を侵す者は許さない……即刻立ち去って下さい!!」 ふわりと、まるで舞い降りるかのように身軽な動作でティエル達の前に姿を現したのは若い女だった。 どす黒い血のような色を湛えた瞳は爛々と輝いている。あちこちに跳ねた長い薄桃色の髪に、白い肌。 背筋が薄ら寒くなるような殺気を纏わりつかせたその女は……紛れもなく妖しき夜の住人、悪魔族。 「あ……悪魔族じゃないか! こんな場所に悪魔族の娘が……いや、それよりも何故敵視されてるんだ?」 「森を侵す者は許さないってあの子言ってたじゃない、わたし達が森に入ったから怒ってるんだよ!」 唖然としつつもリグ・ヴェーダのページを開くジハードの隣に並ぶティエル。 できればこんな障害物の多い森で戦いたくはない。その上相手はどうやら悪魔族である。魔物よりも手強い。 ヴァンパイア程とは言わないが、単なる悪魔族も身体能力は高い。ミカエラがいい例ではないか。 「私はヴィステージ。……立ち去る気がないのなら、力ずくでも排除します!」 +DeadorAlive+ |