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Lord of lords RAYJEND 第2幕「エデンの花園」 第4章+ユークリンド大森林 - 夜の囁きを求めて -
第28話 ヴィステージ・バトル ぶつぶつと低音で呪文の詠唱を呟きながら、真っ直ぐに見据えてくるヴィステージと名乗った悪魔族の娘。 こちらが下手に動けば問答無用で魔法を喰らわせるつもりである。 先程ティエルを襲った一撃は、彼女の風の魔法によるものなのだろうか。全く風の刃が見えなかった。 「違うの、違うの! わたし達は別に森をどうにかしようと思ってここに来たんじゃなくて……ただ薬を……」 できれば無用な争いは避けたい。 説明すれば何とか分かってくれるかもしれないと考えたティエルは、ヴィステージの説得を試みることにした。 「このおじさんが呪薬師の村に連れてってくれるって言ってくれたんだ。用が終わったら直ぐに帰るから!」 「……ホフマンおじさま?」 そこで漸くヴィステージは、ティエルらの背後に寝転んでいた人物に目を留める。 この二人は知り合いのようだ。これなら話が上手く行くかもしれない……とティエル達は胸を撫で下ろしたが。 きょとんとしていたヴィステージの赤い瞳が段々と疑惑から不信、そして怒りへと変わっていく。 「おじさまを人質にして、村まで案内させようなんて……おじさまのその怪我も、キミ達の所為ですね!?」 「い、いや違うんだ! 落ち着いて聞いてくれヴィス、オレはこの人達に助けられて……」 「ホフマンおじさま、脅されてそんなことを……。安心して下さい、男の人達もすぐに来ますから! 大体助けられたって変な話です。勝手知り尽くしたこの周辺で、おじさまが助けられるなんて信じられません」 「……ぼくらに助けられるなんて変な話なんだってさ」 「面目ない。彼女は決して悪い娘じゃないんだ、いい娘なんだよ。ただ少し思い込みが激しいと言うか……」 どこか遠い目をしながら呟いたジハードに、ホフマンと呼ばれた男は肩を落としながら溜息をつく。 「ヴィステージといったね、ぼくらに戦う気は全くないよ。まぁ秘薬を手に入れるまでは立ち去れないけれど」 いつでも攻撃できる態勢のヴィステージに向かって一歩ジハードが歩み寄る。 できるだけ優しい声を意識しているのか、ゆっくりと語り掛けるように少しずつ彼女との距離を縮めていく。 「とにかくお互い落ち着いて平和的に話し合おうよ。言っておくけれど、ぼくらは強いよ。 特にあっちのティエルなんて、ゴリラを片手で投げ飛ばしたことがあるのだから。あなたなどきっと一撃だ」 「何それジハード!? 勝手に変な話を捏造しないでったら!」 「女の子がゴリラを片手で投げ飛ばした……見かけによらないですね。本当ならば確かに私は不利です」 思わず警戒して後ずさるヴィステージ。ジハードのブラフが少しだが効いている様だ。 「けれど私は決めたんです、おばあちゃんに助けてもらったあの日から。村の皆を守ってみせるって!」 ヴィステージの両の指の先で回転していた二つの風の刃が、彼女の声と共に一気に大きくなる。 それらをまるでフリスビーを投げるかのような軽やかな動作で、ティエルとジハードに向かって投げつけた。 「森から出て行って下さい!」 光を発する花に照らされ、美しい光の奇跡を描きながら明らかに意思を持った動きでティエル達を狙う。 「だから、誤解なんだってば!」 抜き放ったイデアで向かってくる魔力で作られた風の刃を弾き返したティエル。 ジハードの方も障壁陣を張って防いだようだ。弾かれた刃はヴィステージの背後の大木に突き刺さる。 「眩き光よ、貫く刃となりて大地を引き裂かん……」 すぐさま次の詠唱が始まった。 「行け、ライトニングサンダー!!」 ヴィステージの振りかざした右手から、眩い光の帯が幾重にも発せられる。 それらが互いに絡み合いながら向かってきた。威力は高そうであるが、障害物の多い場所で魔法は不利だ。 魔法の動きを読んで避けるというよりも、大木の背後に隠れる様にただ逃げることだけに専念する。 「くっ、なかなかやりますね! キミよりも先にあちらの少年を倒した方が早そうです」 ティエルが簡単に倒せない相手だと悟ると、ヴィステージはくるりと向きを変えて標的をジハードに定めた。 彼女達の距離が近いために極陣を仕掛けられずにいたジハードは、その殺気に思わず身を硬くして身構える。 「誤解が生じているようだし、できればあなたとは戦いたくはないんだけど……動きを止めさせてもらうよ」 一瞬でページを開き、虚空に見慣れぬ形の魔法陣を描く。不動陣である。 「ティエル、発動させるから離れてっ!」 「了解!」 「……え!? 何ですかこれ、身体が動かない!? ……ひどい、変な術を使いましたね!」 急に足元に浮かび上がった魔法陣に慄くヴィステージだが、虹の帯が身体に纏わり付いて動けなくなる。 ジハードの極陣は発動させるまでが難しいが、一度相手を魔法陣の中に誘い込めばほぼ無敵であるのだ。 戒めを解こうと藻掻く彼女の前に、ホフマンと呼ばれた男がティエルに支えられながらゆっくりと歩いてくる。 「ヴィステージ」 どこか困ったような表情で彼女の頭をぽん、と優しく叩いた。 「村を守ろうという気持ちは大変立派なものだが、少しは話を聞きなさい。この人達はオレの恩人なんだよ。 崖の所に咲いている薬草を取ろうとして足を滑らせたオレを、先程まで介抱してくれていたんだ」 「でも、二人とも怪しかったですし……」 「失礼ねー、わたしのどこをどう見たら怪しく見えるの。ジハードは……まぁ、怪しく見えても仕方ないかな」 「ぼくにとってはあなたの方が失礼なんだけど」 ティエルの隣で思わず眉を顰めるジハード。 だが額に青い札をひらひらとさせ、刺青を彫っている彼の姿は、見慣れぬ者が見れば異様な姿かもしれない。 「……じゃあ、本当にホフマンおじさまの恩人だったんですね。私、そんな優しい人達になんて失礼を……」 ジハードも極陣を解き、ヴィステージもホフマンの説明でようやく理解してくれたようだ。 先程までの威勢はどこへやら。急にしおらしくなってしまった彼女の様子に、ティエルは首を振って笑った。 「それだけ村のひと達が大切だったんだよね。わたしもジハードも怪我していないし、気にしないでいいよ」 悪魔族であるヴィステージが受け入れられている人間の村。 彼女達に一体どういった経緯があるかは窺い知る事ができないが、色々と深い事情があったのだろう。 「本当にごめんなさい。私、村のことになると周りが見えなくなっちゃって」 ヴィステージがティエル達に向かって頭を下げた時。 遠くの方から大勢の声が聞こえた。彼女やホフマンの名前を呼んでいることから、探しに来た村人達だろう。 こちらからも声を上げると、やがて足音と共に松明を掲げた屈強な男達が姿を現した。 皆ホフマンとヴィステージの無事を喜び、そして当然のように視線は見慣れぬティエル達の姿へと注がれる。 一瞬ティエルとジハードは先程のヴィステージの様に勘違いしてしまう者がいるのではないかと身構えたが、 そんな事はなく事情を聞いた皆は口々にホフマンを助けてくれた礼を言うのだった。 「……今までずっと森で野宿していたんですか?」 村までの道を案内しながら、ヴィステージが口を開く。 「この辺りは危険ですよ。夜になったら森の亡霊と呼ばれる恐ろしいモンスターが出るんです。 陽があるうちには出てこないんですけど、夜は気を付けた方がいいです。魂喰らわれてしまいますからね」 「そんな怖いモンスターが出るんだ……。ホフマンさんと出会ってなかったら、今頃襲われていたかも……」 今更恐ろしくなったのか、ティエルは青い顔をしながら首を引っ込める。 昨日は森で野宿をしたが、この辺りではなかったはずだ。だから何もなかったのだろう……と思いたい。 もしも今夜このまま野宿をしていれば、森の亡霊とやらの餌食になってしまっていたのかもしれない。 そう考えるとヴィステージに誤解されたとはいえ、自分達はとても幸運なのではないかと思うティエルだった。 村人達に連れられて歩くこと数十分。 どこも同じように見える夜の木々の間を、彼らは立ち止まりもせずに談笑しながら歩き続けている。 この近くは彼らにとっては庭も同然なのだろう。今ここではぐれてしまったら、確実に迷える自信があった。 まるで迷路のように入り組んだ道なき道を進んでいくと、やがて割と大きな村へと辿り着く。 ジハードの読みどおり、辺りの木々の根は皆淡い青色に染まっていた。 それにしても想像以上に大きな村である。夜でもこれほど広く見えるのだから、相当の大きさなのだろう。 ここが秘薬作りに長けている呪薬師達の住まう村なのだ。 「……おや、驚いたかい? 森の奥深くにこんな大きな村があるなんて意外だったとか」 ティエルの隣を歩いていた屈強な体格をした男が彼女に顔を向けて笑った。どこかサキョウに似た笑顔。 「この村はあまり外との接触がないけれど、それでも全くないわけじゃないんだよ。 オレ達の作る薬は外では結構売れるらしくてね。時折物々交換のために行商人が訪れることがある」 それは森では手に入れることのできない食料や衣類の原料を始めとして、アクセサリーなどだろう。 「だからおじさんのペンダント、森にはあるはずがない虹貝殻だったんだね。持ちつ持たれつかぁ」 行商人とはいっても、決して村の場所を他で口外する事がない様な昔から馴染みのある者なのだろう。 なるほど、と感心したように頷いたティエルだった。 +DeadorAlive+ |