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Lord of lords RAYJEND 第2幕「エデンの花園」 第4章+ユークリンド大森林 - 夜の囁きを求めて -
第34話 長老と悪魔ヴィステージ 「ティエルちゃん、ジハードくん。おはようございます! ……あれ?」 気持ちの良い早朝。 ここユークリンド大森林は昼間でも日光をあまり通さないが、村の中は朝の清々しい空気に満ち溢れていた。 小鳥のさえずりが身近に聞こえる実に良い朝であった。 先程のヴィステージの台詞は、殆ど寝ずに長老の看病を続けていた彼女が足取りも軽く己の家に辿り着き、 勢いよく扉を開けて言った台詞である。 外の光に照らされて色とりどりに光っている彼女の毒コレクションたち。相変わらず今日も美しい色合いだ。 それから視線を外すと最初に目に飛び込んできたのは、まるで芋虫のように毛布に包まるジハードの姿。 もう少し視線を移動させてみると、ベッドの上ではティエルが大口を開けて心地よく眠り続けていた。 「二人ともまだ寝ていたんですか? ……仕方ないですよね、昨日は本当に恐ろしい緊張の連続でしたし」 苦笑を浮かべて家の中に入ると、すうと大きく息を吸い込んで言った。 「ティエルちゃん! ジハードくんも! 二人とも起きて下さいっ。おばあちゃんが目を覚ましたんですよ!」 「……ふわぁ? おっはよぉ」 「ええぇ!? さっき横になったと思ったら、もう朝なのかい?」 やはり昨日の疲労が溜まっているのか、虚ろな瞳で上半身を起こすティエルとジハード。 早起きのティエルはともかく、ジハードがヴィステージのたった一言で目を覚ますなんて珍しいことだった。 あまりにも短い睡眠時間だと、眠りの方も浅くなるのだろうか。 「聞いて下さい! おばあちゃんがね、目を覚ましたんですよ。どんどん回復に向かっているって」 「本当!? 良かったね、ヴィステージ!」 ヴィステージの台詞に眠気が一気に吹っ飛んだらしいティエルがベッドから飛び下り、彼女の両手を握る。 飛び下りた拍子にジハードの足を踏んだような気がするが、とりあえず今はそれどころではない。 「ち……ちょっと……思いっきり足踏んで行ったんだけど……」 「ごめんジハード! それより聞いた? ヴィステージのおばあちゃんが目を覚ましたんだって。良かった〜」 「そりゃあ病に効く特効薬なんだから、目を覚まさないとおかしいでしょ……って聞いてないし……」 手を握り合って家の中を飛び跳ねているティエルとヴィステージの姿を眺めつつ、欠伸をしたジハードだった。 「それで、おばあちゃんが是非あなた達と会ってお礼を言いたいって。朝ご飯食べたら一緒に行きませんか?」 そう言いながら早速フライパンを手に取っているヴィステージ。 彼女の作るハムエッグは、城のコックにも勝るとも劣らないまさに絶品だったことを思い出す。 「それにこれからの事もお話したいですし……えっと、お友達の石化を治したいんですよね。 治療薬なら私も作ることができますが、ちょっと理由があって。私も現地に行かなくちゃいけないんです」 「現地に? ……じゃあヴィステージもゴールドマインに行かないといけないの? ……何だか悪いなぁ」 「作り方を教えてくれれば、ぼくらで何とか作ってみるけど」 「うぅ〜ん、どのタイミングでどの薬草を混ぜるかが結構難しいんですよ。 初心者さんが間違ったタイミングで作ってしまうと、折角命がけで採ってきた薬草も無駄になってしまいます」 「そ、そうなんだ……じゃあ申し訳ないけど、わたし達と一緒に来てくれる……?」 「勿論ですよ、おばあちゃんが治ったのもあなた達のお陰なんですから。任せておいて下さい!」 どこか不安そうな顔つきで訊ねてくるティエルに、ヴィステージはにっこりとした笑顔で答えたのだった。 ・ ・ ・ 朝食の片付けを終え、ヴィステージとティエル達は長老の家に向かって歩いていた。 病み上がりの状態でお邪魔してもいいのだろうかとティエルが訊ねたが、 特効薬の効果は抜群で、あと何日かすれば起き上がれるようになるだろうと医者が言っていたそうだ。 それ程までにあの花の効力は凄まじかったのだ。さすが石化してしまった者を治す事が出来るくらいの薬草だ。 歩いている途中で数人の村人とすれ違ったが、長老を助けてくれてありがとうと皆口々に礼を言っていた。 その様子から、この村の長老は村人から慕われているんだなと思ったティエルだった。 簡素な木と藁で組み立てられた長老の家の前に辿り着くと、もう昨夜までの慌しさはなかった。 中では何名かの者が交代で看病を続けているようである。 「……おばあちゃん、一緒に薬草を取りに行ってくれた人達を連れてきました」 からんからんと乾いた音の鳴る暖簾を手で押さえ、ヴィステージはティエル達を中の座敷へ入れと促した。 ベッドに横たわっているのは随分と小柄で皺くちゃで、それでも人好きのする顔つきの老女だった。 長い間病に臥せっていた為かやつれている様子だったが、確実に回復に向かっているのは一目瞭然だ。 ヴィステージの声に気付いた長老は、うっすらと目を開けるとティエル達に向かって微笑んでみせる。 「お客人、横になったままで申し訳ないのう……うちの血気盛んな孫娘が随分と迷惑をかけたようじゃなぁ。 その上危険を冒して薬草まで手に入れてくれて、本当に感謝の言葉も思いつかないくらいじゃよ……」 「あ、はい。えっと初めまして! わたしティエルっていいます。こっちはジハード」 「本当によくなって良かったよ。ヴィステージったら薬草のことになると突っ走りすぎて、本当に冷や冷やした」 「ちょ、ちょっと……ジハードくん……」 「そんな事だろうとは思ったがのう。病に倒れたばかりの時も、危険な事はするなと言っておいたのに……」 台詞の内容は長老としてヴィステージを諌めるようなものであったが、 長老の顔は微笑んでおり、細い腕を伸ばすと愛おしそうに彼女の癖の強い髪を撫でてやる。 「ヴィスから聞いたのじゃが、お客人は石になった友人を戻すためにこの村に辿り着いたのだとか。 毒薬を作るのが趣味の不肖の孫ではあるが、薬作りはワシ直伝じゃからのう。安心して連れて行くがよい」 「おばあちゃんったら! ……毒薬の素晴らしさを全然理解してくれないんだから」 唇を尖らせて抗議をするヴィステージだったが、そんなやり取りも二人の絆を表している様で微笑ましい。 「それじゃ、おばあちゃん。私達今日の昼頃出発するから。花が枯れない内に、早い方がいいでしょう」 長老に別れを告げ、ヴィステージの準備の為に一度彼女の家に戻ることになったティエル達。 「優しそうなおばあさんだったね。村の人たちに慕われている気持ち、分かるなー」 「……基本は優しい人なんですけど、怒ると怖かったんですよ。特に薬作りを習っている時は。 まぁ少しでも調合を間違えれば薬も毒になってしまいますからね。厳しくするのは仕方ないんですけど」 その時のことを思い出したのか、ぶるっと身震いをするヴィステージ。 「石化から戻したい人物は、確か一人じゃないんですよね。町の住民が石になってしまったとか……。 それだったら薬粉が外に逃げ出さないように結界作った方がいいですね。どれだけの人数か分かります?」 「見た限りだと……鉱山前の広場くらいしか石像を見かけなかったかな。50体以上はあったような気がする」 「……そうだ、ヴィステージが現地に行かないといけない理由ってなんだい?」 ティエルのあとにジハードが続けた。 折角回復しつつある長老とヴィステージを暫くとは言え、離れ離れにしてしまうのが心苦しかったからだ。 「材料の中に、他の成分と混ぜ合わせたら数時間経つと薬草の効果を消してしまうものがあるんです。 だから私が現地で作らないと間に合わないんです。ここからゴールドマインは急いでも数日かかりますし」 「確かに……そういうことだったのかい」 「あ、そういえば。お二人とも帰って来ないお友達を追ってゴールドマインに行ったんですよね」 「そうだよ。ゴールドマインに行った友達が帰って来ないから、メドフォードから出発して調べに行ったの」 「メドフォードですか、結構遠い所から来たんですね。あそこのお姫様はまるでおサルさんのようだとか」 そのヴィステージの発言と同時に、背後の方でジハードが奇怪な声で笑いを吹き出していた。 そんな彼を振り返ってじろりと睨み付けると、ティエルはヴィステージに向き直る。 「い、いや……そんなことは決してないんだよ。剣術をこよなく愛する、とても女らしいお姫様だったよ……」 今度も背後でジハードが激しく咳き込んでいた。変な笑い声を発した為に、呼吸困難に陥ったらしい。 はっきり言って自業自得である。背中を擦ってやる気にもならない。 「? ……どうかしたんですか?」 頬を膨らませて怒るティエルと、その背後で咳き込みながらいつまでも笑い続けているジハードを、 ヴィステージは首を傾げながら眺めていた。 +DeadorAlive+ |