Lord of lords RAYJEND 第2幕「エデンの花園」 第5章+シルヴァラース古代図書館


第44話 The Ancient Library -1-





「ようこそ、シルヴァラース古代図書館へ。ここであなたの探し物が見つかりますように」


扉を開くと大きなロビー。奥には受付があり、そこに幾人かの旅人らしき者達が集っているのが見える。
入口付近には訪れた者達を案内する係なのだろうか、白の制服を身につけた若い男が笑顔で迎えてくれた。




「……おやおや、ナズナではないですか。一体どちらへ行っていたのです、朝から随分と探したのですよ」


「迷子を探しに行くって、あたし言ってなかった?」
生真面目そうな顔つきの男に対し、ナズナは溜息をつきながら背後のティエルの肩をぐいと前に押し出した。

「無事に迷子は見つかったんだけどね。図書館から随分離れた所で迷子になってたから、行って良かったわ」



「そうですか、それは何よりです。やはり近々道案内の看板を立てるべきですねぇ」
細いフレームの眼鏡を軽く持ち上げ、ナズナの司書仲間の男はティエルに向かって改めて笑顔を浮かべる。


「こちらでお嬢さん達の探し物はきっと見つかりますよ。分からないことがあれば何でも司書に聞いて下さい」




ぐるりと辺りを見渡してみると、大陸最大の大図書館という割には人影は疎らである。

もっと賑わっていてもいいと思うのだが……先程ナズナの言葉にもあるように、大体の本は町の本屋で買える。
わざわざこんな辺境の地に赴いてまで探すような本は、随分とマニアックな物かもしれない。


「ティエル、あんたは確か人探しの本を探していたのよね。本のあるフロアまであたしが案内してあげようか?」


振り返ったナズナの言葉にティエルはハッと我に帰る。
彼女の背後では、人探しの本ってなんだっけ? ……とジハードとサキョウが首を傾げている。

そういえばナズナに誤解をされたままだった事を思い出したティエルは、勢いよく顔を上げて口を開いた。



「ねえナズナ! わたし人探しの本じゃなくて、本当に人を探しているの。図書館に訪れた人とか覚えてる?」
「大体は覚えてるけど……あたしは来訪者全員に会っている訳じゃないから、数にしたらほんの一握りよ」


ティエルの発した声が大きかったのか、数人の来訪者達が振り返って彼女らを眺める。

静かにしろというジェスチャーをしつつナズナは、ロビーの隅に位置しているソファーに彼女達を案内した。
赤茶色の本棚が受付の奥に延々と続いている。それに合わせた様な、鮮やかなワイン色の絨毯。



王宮よりも立派な内装である。勿論メドフォード城にも大きな図書館があるが、比べ物にならなかった。


「どうしてもって言うなら、司書全員に聞いてみるわよ。どんな人を探してるの? 背格好とか、特徴とか」
落ち着いた茶色のソファーに腰を下ろすと、声のトーンを落とした様子でナズナが口を開く。

「一年以上も前になると忘れちゃってるかもね。できるだけ思い出す努力はしてみるわ」



「……青い髪をした、背の高い男の子なの。結構目立つタイプだとは思うんだけど……覚えてない?」
「黒いコートを着ているかもしれぬ。男のようで女のような、形容しにくい顔をしている奴なんだが」


ティエルの言葉にサキョウがおまけの様に付け足した。



「青い髪で、背が高くて? 黒いコートを着てて……?」
ぶつぶつと呟くように反復し、ナズナは暫くの間首を傾げながら考え込んでいたが。やがてぽんと手を打った。


「思い出した。……確か人形みたいな顔した人だった。生きた感じがしないと言うか、心底怖いと思ったわ。
彼が訪れた瞬間、ロビーの雰囲気凍っちゃってさ。司書が誰も声をかけないから、あたしが声をかけたのよ」



「クウォーツ……かな」

「そうだろうね。あーあ、何だかその光景が頭の中に思い浮かぶよ」
彼は確かに他人を全く寄せ付けない雰囲気を持っている。初めて顔を合わせる者ならば、当然の行動だろう。


ぼくには寄せ付けない態度をいつまでも崩すことはなかったけれど、とジハードは溜息と共に口を開いた。



「よくナズナは声をかけることが出来たね。それはともかく、彼は一体何の為にここへ訪れたんだい?」
「うーん、それがね」

ジハードの問いかけにナズナは申し訳なさそうに俯く。


「探している本があるなら協力するって言ったんだけど、断られちゃったわ。絶対司書に聞いた方がいいのに。
……あ、フロアは聞かれたかな。悪魔狩りに関連する書籍のフロアよ。随分と変わった趣味を持ってる人ねぇ」



「悪魔狩り? 一体こんな場所まで来て、あいつは何を調べようとしているんだ」

「見当もつかないね、これだけじゃ分からないよ」
サキョウの隣でぐしゃぐしゃと髪を掻き毟るジハード。当然だろう。ここまで来て、何も分からないままなのだ。


肩を落としてテーブルに突っ伏してしまうティエル。深く溜息をつくサキョウ。
がっかりと落胆するそんな彼らの姿を眺めていたナズナだったが、突然はっとした表情で身を乗り出した。



「そうだ、レイシィだわ。フロア66担当のあの子なら分かるかも。……レイシィ、ちょっとこっちに来て!」



ナズナの大声で、一斉に皆が振り返る。
やがて振り返った面々の中から赤毛をお下げにした女が、神経質そうに眉を顰めながらこちらにやって来た。

辺りは再び静けさに包まれ、彼女の足音だけが大きく響き渡っている。



「ナズナ。図書館では静かにって、何度言ったら分かるのよ。しかも司書とあろう者がお客様の手前で……」
「それはともかく、レイシィ。あんた半年ほど前に来た青い髪の男の人、覚えてるでしょ」

「はぁ? 何よいきなり。……覚えてるわよ、魔女狩りや悪魔狩り書籍のフロア66には滅多に人が来ないし。
彼、脚立の上でずーっと読んでたわ。大昔から最近までのヴァンパイア狩りや、それに関連する書籍をね」


事情も聞かされぬまま、きょとんとした表情で答えるレイシィと呼ばれた女。



「それがどうかしたの? ……あ、今から思えばあの人もろに悪魔族っぽかったわね。
美形なんだろうけど、あれは駄目。硝子みたいな瞳してたのよ。同じフロアにいるだけでも正直嫌だったわ」

「あ、ありがとレイシィ。もういいから、仕事戻って」
「ちょっと、呼びつけておいて勝手ねぇ!」


表情に影を落としたティエルの様子に気付いたのか、ナズナはレイシィの背を押して話を終わらせようとする。
思いっきり頬を膨らませたレイシィは、文句を呟きながら去っていった。



「……ごめんねティエル、何でもはっきり言っちゃうタイプの子なのよ。とりあえずフロア66に案内しようか?」


「うん、少し手掛りを見つけられたんだし。レイシィさんには感謝しなくちゃね」
クウォーツと思われる人物が本を探していたフロア66に行けば、何か分かるかもしれない。

手掛りを求めて、まさに藁にも縋る思いだ。ティエル達はナズナの案内でその場所へ向かうことになった。




古いソファーを立ち上がり、カウンターの前でナズナが受付の人物に見学許可をもらっている。
その受付の奥には高い天井まで届く長い本棚の列が、廊下の奥までずっと続いているのがよく見えた。

これだけでも相当の量であるのに、同じようなフロアが150階も下に続いているのだ。
大陸一の図書館の名は伊達じゃない。



「……もしもこの図書館の本を全て読み終えようと思ったら、一体どのくらいの年月が必要になるんだろうね」
本棚の列をぐるりと見回したジハードが、何気ない口調で隣のティエルに呟いた。


「不死鳥であるぼくの寿命でも読み切れないかもしれない。……そう考えると実に惜しい気分にならない?」


「わたしは読書が苦手だからなぁ、あんまり感じないかも。ジハードの寿命でも読み切れないって凄いよね。
メドフォード王家は普通の人間と比べたら長生きだとはいっても、不死鳥族には寿命敵わないだろうなー」

「ふふふ。まぁ、これでも一応不老長寿の種族ですから」



「ジハードと話していると感覚狂うよ。わたしなんて、フロア半分くらいまで読み終えたら寿命来ちゃいそう」

「それなら、ぼくの血を飲めばいい。不死鳥族と同等の寿命を手に入れることができるよ。
あまり考えたくはないけど、ティエルやサキョウの死に目なんて……ぼくは絶対に立ち会いたくないからね」



冗談口調ではあったがジハードの突拍子もない発言に、ティエルも同じく笑って済まそうと彼を振り返るが。

ジハードの顔を見た瞬間、笑いかけようとしたティエルの表情が段々と消えていく。
どこかふざけている様な口調とは裏腹に、こちらを見つめるジハードの瞳はとても哀しげであったのだ。


長寿を誇る種族ゆえの寂しさ、哀しみはティエルには分からない。
だが。自然に逆らい寿命を延ばそうとする行為は、ジハードの為だとしてもティエルは決して選ばないだろう。



そしてジハードもそれを分かっているはず。だからこそ、冗談のような口調で言ったのだ。



「……頑張ってジハードよりも長く生きる為に、好き嫌いなくそうかな」
内心の思いを顔には出さずに、暫くの後ティエルも同じく冗談のような口調で言った。






+DeadorAlive+