Lord of lords RAYJEND 第2幕「エデンの花園」 第5章+シルヴァラース古代図書館


第45話 The Ancient Library -2-





ナズナを先頭に、ワープゲートにてフロア66に到着したティエル達。
シルヴァラース古代図書館のフロア内へは、階段ではなくワープゲートで移動する仕組みになっているらしい。


申し訳程度に階段もあるようなのだが、好きこのんで階段を使用する者もおらず今は使われていないそうだ。



ワープゲートが苦手だと豪語しているジハードは階段を使用すると主張していたが、やはり即座に却下される。
彼曰く、使用する時のふわふわとした不思議な感覚が慣れないとのことだ。


そんな一悶着もあったが、ティエル達は現在フロア66の入口付近に立っている。
このフロアは悪魔狩りや魔女狩りに関連する書籍が並んでいるのだ。見渡してみても人影は見受けられない。

司書のレイシィが先程口にしていたが、滅多に人が訪れないらしい。




「しかし……これほど本が並んでいる場所なんて、ワシは生まれて初めて来たぞ。いやあ、壮観であるなぁ」
普段肉体を駆使するような仕事に就いているサキョウには物珍しい場所である。

しかしモンク僧は僧侶の一派。武道のみではなく、学問や神道などを学ぶ機会もあるように思えるのだが……。


「ベムジンの図書館など、ここの足元にも及ばんよ。集まっている本も偏っている内容だしな」
「メドフォード城の図書館だって大きいとは思っていたけど……ここに比べたら単なる図書コーナーに見えるよ」



「大陸最大と言われる大図書館と比べれば、皆そう見えてしまうだろうね。ぼくもこんな場所は初めてだ」
感嘆の溜息をつきながら周囲をきょろきょろと見回すサキョウとティエルに、苦笑しつつジハードが言った。


「全部片付いたら、暫くここに滞在するのも楽しいかもね」



「図書館の魅力にすっかりはまってしまって、数年間くらい滞在している学者も沢山いるわよ」
ぼんやりと光を発するタッチパネルを操作しつつ、ナズナが顔を上げずに声を発した。

全ての本のフロアを記憶している司書であるが、自分の担当するフロア以外の本の場所は曖昧なのだろう。
レイシィから聞いた本の位置を検索しているようだった。



「だからこの図書館内にはそんな人達のために、ばっちりと宿も完備されているってわけ。
あんた達も暫くは泊まる覚悟で来たんでしょ? このパネルから予約できるから、一応部屋取っておこうか?」


「うん、お願いナズナ。……凄いね、その光ってる板。本の検索から宿の予約まで出来ちゃうんだ……」
物珍しそうにティエルが覗き込むが解読不能な文字が浮かび上がっており、操作方法がさっぱり分からない。



「慣れた常連のお客さんなら、自分で操作して本の検索や予約をしている人もいるわ。結構難しいけどね」
薄いシアン色に光を発するパネルをぽんと叩き、ナズナが振り返る。

「さぁ、予約も検索も終わったわ。あんた達が探している人が本を読んでたエリアは二つあるけど、どうする?
一つは過去百年間に起こったヴァンパイア狩りの記録のエリア、もう一つは悪魔狩りが盛んな地域の文献よ」



「二手に分かれた方が良さそうだな。……何か手掛りがあったら閉館時間にここで落ち合って報告しよう」


サキョウの提案に、ティエルとジハードが頷く。
本を調べたからといって、クウォーツの行方が分かるという確証はない。だが、今はそれに縋るしかないのだ。

ティエルとサキョウ、そしてジハードと協力を申し出てくれたナズナの二手に分かれて調べることになった。




「本当に凄い広さの図書館だね、本棚の一番端が見えないくらいだよ。迷子になったらどうしよっか?」
ジハードとナズナの姿が本棚の向こうに消えると、急に心細くなったティエルが口を開いた。


「ははは、ティエルは方向音痴であるしなぁ。ワシがいるから安心しろ!」
ばしんと自分の分厚い胸板を叩いて見せるサキョウ。根拠はない自信たっぷりの態度が逆に頼もしく見える。

「司書のナズナがいないのだ、ワシらで色々探さねばなるまい」




一方ジハードとナズナは彼女の案内で、悪魔狩りについての文献が並ぶエリアに向かって歩いていた。
隙間なくびっちりと並ぶ本棚の様子は巨大な迷路のようにも見える。

物珍しそうに眺めているジハードの隣では、何かを迷っている表情のナズナ。そして意を決して口を開いた。



「ねえ、関係のないあたしが聞いちゃいけないことなのかもしれないけど」

「なんだい?」
重い口調のナズナとは裏腹に、実にのんびりとした様子でジハードが答える。



「……何で悪魔族なんか探そうとしてるの? 余計なお世話だと思うけど、あまり関わらない方がいいわよ」
振り返り、眉を顰めてジハードを見つめた。

「きっと良くない事が起きる。だってあんた達が探してる人、まるで蝋人形みたいに生きた感じがなかったのよ」



「あれで結構、冗談言う時もあったんだよ。それも真顔で。……本気なんだか冗談なんだか分かりゃしない」
微笑みを浮かべた表情を崩さず、穏やかな口調のままであるジハード。


「しかし無理を言ってあなたを巻き込むわけにもいかないからね。後はぼくらで探すから、もう大丈夫だよ」

「そういう訳にはいかないわ! だって、あたしから手伝うって言った手前、司書としての立場があるでしょ。
こう見えても、あたしはこの仕事に誇りを持ってるんだからね。暇じゃないけど最後まで手伝うつもりでいるわ」



少々興奮気味に一気にまくし立てたナズナは、足音を鳴り響かせながらずんずんと進んでいく。
その後ろ姿を苦笑いをしつつ眺めていたジハードだったが、表情にはどこか不安なものが浮かんでいた。











「ね、サキョウ」
「……どうした、何か見つかったか?」

突如上から降り注いできた声に、サキョウはゆっくりと顔を上げる。
彼の頭上よりも遥か上。天井に届きそうなほど、随分と高い脚立の上に座り込んでいるティエルの声であった。



「そうじゃないんだけどさ。……ただ、クウォーツもこの場所で脚立に腰掛けていたんだろうなぁって」
膝の上に本を数冊乗せ、何気なくぱらぱらと捲ってみる。

「一体何を思いながら、どんな気持ちを抱えて彼はこの場所にいたのかなって、そう思ってさ。
わたしも同じようにずっとこうしていたら、彼の考えていたことが分かるかなって。……少しは近付けるかなって」


「そうだなあ……まぁ、それで簡単に分かったら苦労はせんよ」
辺りに響くサキョウの豪快な笑い声。その声は幾重にも反響して、段々と小さくなっていく。



「もしも相手の心が読めたなら良かったのに、とお前も何度か考えたことがあるだろう?
だがティエル。ひとの心というものは、例えどんな相手だとしても読めぬからこそ尊いものだとワシは思うのだ」

例えどんな相手でも。


サキョウの言ったとおり、相手の心が読めたならばどんなに良いか……とティエルは何度も考えたことがある。
あの時彼女の気持ちが分かっていたなら、あの時彼の心が読めたならば。


今よりもっと違う状況になっていたのではないかと。こんな事にはなっていなかったのではないかと。



しかしサキョウはそれを否定する。

彼はティエル以上に無念のはずだろう。相手の胸の内を読めなかった為に、愛する人達を亡くしたのだから。
それでもサキョウは、読めないからこそ人の心は尊いものだと言うのだ。



「サキョウはさ、強いよね。わたし、時々自分の弱さにうんざりしちゃうな。どうしてこんなに弱いんだろうって」
膝の上に置いた本のページを捲る手を止める。


「もっと強くならなくちゃっていつも思うんだけど、駄目だな。まだまだサキョウには敵わないや。
……あ、そうだ。サキョウもクウォーツのことがずっと気になっていたんなら、早く言ってくれれば良かったのに」


「う? うーむ」
上から降り注ぐティエルの抗議に、サキョウは苦笑いとしか形容の出来ない笑みを浮かべた。

「いや、ワシもなかなか言い出せなくてな。それでジハードと手紙のやり取りで相談をしていたのだ」
「ジハードと?」



「メドフォードを取り戻してからのお前は、無意識の内にあいつやリアンの話題を避けていただろう。
だから……いつかお前の中で色々なことに整理がつく日まで、黙っていようとジハードと決めたのだよ」


確かにそうかもしれないと、ティエルは周囲に丸分かりであった自分の態度に肩を落とす。



「意識して避けていたんじゃ……ないよ。でも、リアンやクウォーツの名前を口にすると、思い出しちゃって。
決して悲しい思い出ばかりじゃなかったはずなのに、悲しい事しか思い出せなかった。それが……嫌だった」

幸せだった思い出の方が遥かに多いはずだった。なのに、それなのに、一体どうしてだろう。
そんな事ばかり考えてしまう自分が嫌で、堪らなく嫌で、知らない間に名前を口に出すことがなくなっていた。



……それが、彼らと過ごした時間を否定してしまう行為になったとしても。






+DeadorAlive+