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Lord of lords RAYJEND 第2幕「エデンの花園」 第5章+シルヴァラース古代図書館
第46話 The Ancient Library -3- 「ねえ、ジハードくん。手掛りとやらは見つかったの?」 悪魔狩り関連の書籍がずらりと並ぶ本棚のフロア。 何冊も床に本を積み上げ、無言で読み続けるジハードに声をかけたのは、脚立に腰掛ける司書ナズナである。 黄緑色の髪を高い位置で左右に結い上げ、そばかすの目立つ勝気な印象を受ける娘。 協力を申し出てくれたナズナは、ジハードが注文する度に関連する書物を彼に渡していた。 30冊ほど注文し、本のタワーに埋もれながら地面に腰を落ち着けたジハードは、先程からずっと黙ったままだ。 「……そんな簡単に見つかる訳でもないよ。もしかしたら、何一つ手掛りなんて見つからないかもしれないし」 ひょいと顔を上げたジハードは、相変わらずの人畜無害のスマイルを顔に貼り付けたままだった。 微笑みを絶やさない彼だったが、何故かどうしてその極上スマイルが、胡散臭い笑顔と言われることが多い。 意味もなく微笑んでいる姿は、彼をよく知らぬ者にとっては怪しく見えるのも無理はない……かもしれないが。 「それを抜きにしても、とても興味深い文献だからね。読んでいても苦ではないよ」 「ちょっと、あたしはあんたの読書にずっと付き合ってあげるほど暇じゃないわよ。どんどん次に行きましょう!」 「わぁ!? 読んでるんだから取り上げないでよ……だから、あとはぼくだけでやるからって言ったのに……」 「司書としてのプライドが許さないの! 本を探す時だって、あたしがいないと困るんじゃないの?」 身軽な動作で脚立から地面に飛び下りたナズナは、ジハードの持っている本を次々に取り上げてしまう。 当然抗議の声を上げたジハードだったが、有無を言わせず彼女は本を積み上げてくる。 「あなたは本当に司書の仕事に誇りを持っているんだね。ぼくも本が好きな方だから、気持ちは分かるけど」 乱暴に積み上げられた拍子に埃が舞い上がる。頼りない咳を何回かしつつ、口を開くジハード。 「でも、本も生きているんだよ。だからそんなに乱暴に扱っちゃ駄目」 分厚い本を投げるように置いたナズナの手の上に、ジハードは優しく手を重ね、穏やかな口調で言った。 急に手を触れられるとは思わなかったナズナは、思わずぎょっとして彼を凝視するが。 ジハードは相変わらずの微笑みをにこにこと浮かべており、一体何を考えているのか全く読むことができない。 「……わ、分かったわよ。分かったから、手を握るのは色々と反則だから離して」 「うん、分かってくれたなら良いんだ」 ジハードは無意識の内に相手に触れる癖がある。 やはり彼をよく知らない相手から見ればそれは、警戒する行為なのかもしれない。相手が異性ならば、尚更。 「ねぇナズナ」 「なっ……なによ」 「この本の下巻をお願いできるかな? ……まぁ本を読むだけで手掛りを見つけられたら苦労はしない、か」 大げさに肩を竦めながら息を吐き出したジハード。 「今頃どこで何をしているのやら……」 「あの怖そうな人って、ジハードくんの友達なの?」 「さぁ……実はぼくにも分からない。友達なのかな。でも、友達って一体どういう関係のことをいうんだろうね」 ナズナから差し出された本をじっと見つめ、曖昧な笑顔を浮かべる。 辺りは静寂に包まれており、同じフロアにいるはずのティエルとサキョウの声も聞こえてはこない。 耳を澄ませば相手の鼓動の音ですら聞こえてくるような錯覚を起こさせる。 「あんたこそ意味が分からないわ。友達ってそんなに深く考えて結論を出すものじゃないでしょ?」 「あははは、確かにそうだね。今の言葉は忘れて」 ぺらりとページを捲る。 手に取った本は随分と古いものであり、年季の入った紙独特の匂いがした。しかし嫌いな匂いではない。 ジハードが口を閉ざすと辺りは再び静まり返る。 脚立に腰掛けながらナズナは、本を読み耽るジハードを暫く眺めていたが。 「そういえば、さっきジハードくんも本が好きだって言ってたわよね。……どんな本をよく読んだりするの?」 「ジャンルは問わずかな。本が好きというより、本を読んでいる時のゆっくりとした時間が好きなのかもね」 目線を本に落としたまま口を開く。 「強いて言うなら、リーベルクの童話シリーズが好きかな。あれはまさに大人向けの童話だよ。 話の内容や文章の書き方も勿論好きだけど、一番好きなのは筆者が描いてると言われる挿絵かもしれない」 「あたしも好きよ、あのシリーズ。様々な解釈本が出てるけど、一番好きなのは実は片想いという解釈かな。 そっちの方が何だか切なくていいじゃない。……だからこそ、冒頭の主人公の詩も生きてくると思うし」 「ナズナの見方はそうなんだ。ぼくはね、冒頭の詩は主人公ではなくて敵方の領主の息子の詩だと思うんだ」 いつの間にか声のトーンが上がってくる。 ナズナの方も脚立から飛び下りるとジハードの前に腰を下ろし、同じく熱心に己の解釈を述べ始めた。 それは違うと思う、これは確かにそうだ、一般的な意見から言うと。 などと暫く解釈の応酬を続けていたジハードとナズナだったが、はっとした表情で我に返って顔を見合わせる。 「……ごめん、話し込んじゃったね。あのシリーズを読んでいる人が周りにいなくてさ、つい嬉しくて」 「あたしも。何で皆リーベルクの良さが分からないかなぁ……童話と言って軽く見る人もいるけどあれは文学よ」 興奮が冷め切らないのか上気した顔で話していたナズナだったが、ふと思い出したように口を開いた。 「やだ、いけない! もう閉館時間だわ。残念だけど、手掛り探しはまた明日ね」 辺りに積み上がった本を二人で元の位置へと戻し、脚立を片付ける。 閉館時間まで本当にあっという間だった。確かワープゲート前がティエル達との集合場所だったはずだ。 ナズナと取り留めのない雑談をしながらそこへ向かうと、既にティエルとサキョウが待っていた。 「ジハード、何か分かった? こっちは全然。彼が読んでいた本を読めば読むほど分からなくなっちゃった。 何で悪魔狩りなんて……わざわざ嫌な記憶を思い出すようなことを彼が調べていたのか全く分からないよ」 手を振りながらティエルが駆け寄ってきたが、彼女達の収穫もゼロのようだ。 「ぼくの方もさっぱりだね。恐らく彼は、失くしてしまった記憶を取り戻そうと思っているんだろうけれど」 果たして彼の読んでいた本を読むことによって、行方なんて分かるのだろうかとも思うが、口には出さない。 「とりあえず明日一日手掛りを探して、何も見つからなかったら一旦メドフォードに戻って仕切り直そう」 「うむ、その方がいいだろう。もしかしたらあいつも城でワシらの帰りを待っているかもしれんしな!」 「相変わらずサキョウはポジティブシンキングだなぁ……。それは絶対にありえないと思うけど」 呆れたジハードの声など意に介さず、サキョウは落ち込んでしまったティエルの肩を明るく笑いながら叩く。 手掛りが何も見つけられなかった為に表情が暗いティエルであったが、サキョウにつられて笑顔を浮かべた。 彼の底抜けに明るい笑顔は、他人をも笑顔にしてしまうのだ。 胡散臭い笑顔と言われる自分とは大違いだな、と苦笑を浮かべるジハードの顔を突然ナズナが覗き込む。 「うわ、びっくりした」 「……ジハードくん達、明日にはここを発つ予定なの?」 「そのつもりだよ。人探しが目的だから、長居はできないんだ。機会があったら個人的に訪れてみたいけど」 「じゃあ仕方がないわね」 ジハードの言葉にナズナはそっか、と残念そうな表情を見せたが。 「夜ちょっと一人で出てこられる? 見せてあげたいものがあるんだけど……まぁ無理にとは言わないわ」 「寝てなかったらね。基本的にぼくは早寝だから、できれば早めの時間にお願いしたいんだけど……」 五人で旅をしていた頃も面々の中で一番の早寝であった彼だが、起きる時刻は何故だか一番遅いのだ。 「図書館が消灯する時間でないと意味ないのよ……って、あんた女の子の誘いと睡眠どっちが大切なの!?」 急に怒り始めたナズナに詰め寄られ、ジハードは返答に迷っているように視線を泳がせた。 一方ティエルとサキョウは、急に背後から響き渡ったナズナの大声に驚いた表情でこちらを振り返る。 「え……えーと……。場合によっては睡眠が大切だったりするかも……?」 「何それ!? ……ジハードくん、あんた顔は悪くないけど絶対モテないでしょ。それか、すぐフラれるタイプ」 「失敬なことを言うね。こう見えてもぼくだって……まぁいいや」 ナズナに反論をしかけたジハードであったが、ふと思い直して言葉を途中で止める。 勿論そんな意味深な彼の台詞を見逃すはずはなく、質問攻めにあう墓穴を掘ってしまうことになるのだが。 ティエルとサキョウはそんな二人の様子を、ぽかんとした表情で眺めていた。 +DeadorAlive+ |