Lord of lords RAYJEND 第1幕「覇王の胎動」 第14章 BLACK・KNIGHTS

第158話 Savas Collection -6-



「さあ紳士淑女の皆様、大変長らくお待たせいたしました。これよりサバス・コレクションを開催いたします!」

赤と白の水玉模様の蝶ネクタイを身に着けた司会の男が、スポットライトに照らされた壇上へと爽快に現れた。
サバス・コレクションでは馴染みの司会者のようで、待ち侘びたとばかりに観客席から一斉に拍手が巻き起こる。
座席は階段状に一列ずつ高くなっており、壇上を見下ろす形になっている。見渡したところ二百名はいるようだ。


「貴重な美術品から古今東西の宝石、はたまた盗品、亡国の財宝や貴重な種族のミイラまで!
 ありとあらゆる珍しい品ばかりを多数揃えております。どうぞ最後までごゆっくりとお楽しみくださいませ!」

わっと上がる歓声。そして拍手。
満足げに笑みを浮かべて見せた司会者は、観客席に向かって頭を垂れるとおどけた仕草で壇上から消え去った。
貴重な宝石、そして盗品や亡国の財宝まではまだ許せる。しかし貴重な種族のミイラまでは想像していなかった。
案の定想像してしまったティエルは若干青い顔をしながら隣のジハードを振り返る。


「貴重な種族のミイラだって……そのサバスっていうおじさんは、そんなものまでコレクションにしてるんだね」
「そうだなー。当たり前の話だけど、珍しい種族ってだけで金になるからね」

「高いお金を出してミイラを手に入れてどうするんだろう? わたしには全然想像つかないよ」
「正面ホールに飾るとか。珍しいコレクションというからには、ある程度は覚悟してきたけど……えぐいよなぁ」
「それならイデアのジェムを手に入れたらすぐに会場を出ましょうよ。それがいいですわ」

ティエル達がこそこそと会話を続けている間にもオークションは進んでいく。
一品目は、昔どこかの国王が愛用していたという謂れのある大きなガウンであった。宝石や刺繍の装飾が美しい。
まさに王の威厳の象徴である。戦争時に盗まれたものか、それとも困窮した財政のために売り出された贅沢品か。


「王様のガウンって、そんなものを一体どうやって手に入れたのかしらねぇ」
「恐らく盗品が闇で売買されてサバスの手に渡ったんだろ。上等な品物だし、購入希望者は多いんじゃないかな」
「でもさジハード、ガウンを使っているのが王様に見つかったら、犯人だと思われて捕まっちゃうよ?」

「その王様が今現在生きていたらの話だけど……まぁ、怪しい商品は購入しない方が得策だろうね」


あちこちから購入希望者達の声が上がる。始まりは五十万リンから、五十五万、六十万と段々値が上がっている。
値が上がっていくにつれて購入希望者の声も少なくなってくる。
王のガウンは現在三百万リンまで値上がりしているようだ。年配の地主と青年実業家の二人の一騎打ちであった。

三百五十万リンまで値が上がったところで、ついに青年実業家の方がギブアップしてしまった。
年配の地主が勝ち誇ったように拳を握り締めて笑みを浮かべている。ここは、武力ではなく財力での戦場なのだ。
それにしても三百五十万リンのガウンとは着るのも恐ろしい。金持ちの感覚が全く理解できないジハードだった。


「三百五十万リンで決着かー。ぼくのような庶民には想像がつかない世界だな」
「わたしも! ガウンにお金をかけるよりも、三百五十万リン分のアイスクリームが食べたいな。あとケーキも」
「うふふ、やめておきなさいな。三百五十万リン分もアイスやケーキを食べたら、絶対にお腹を壊しますわよぉ」

色々なアイスクリームやケーキを想像して機嫌のよいティエルを微笑ましく眺めたリアンは、視線を壇上へ戻す。
王のガウンに続いて様々な商品が出品されていく。古代遺跡の鍵、ドラゴンの骨で作られた彫刻、不死鳥の羽。
不死鳥は想像上の生物なんじゃないか、とジハードは半信半疑であったが。


「さーて、お次の商品は……角度によって様々な色に輝く、この世のものとは思えぬ虹色の宝石の登場です!」


司会者の声と共に壇上の赤いシートがさっと取り払われ、台座には虹色に輝く小さな宝石が嵌められていた。
セレステールにてセイファ王子から受け取ったものと、エルキドにてミカエラが落としていったものと同じ宝石。
イデアのジェムがオークションにかけられたのだ。何があっても、大金を積んででも購入しなければならない。

「奥様への贈り物にするのもよし、インテリアとして飾るのもよし。それではまず、三十万リンか……ら……?」


司会者が意気揚々と口叫んだ時。……会場のあちこちから紫色の煙が噴き出してきたのだ。
煙のすぐ近くで座っていた観客は、逃げ出す間もなく折り重なるようにばたばたと倒れて動かなくなってしまう。
壇上では司会者やそのアシスタント達も俯せになって倒れていくのが見えた。もしや犯罪組織同士の抗争なのか。


「いきなり何なの!? あの紫色の煙を吸い込んだ人達が、次々と倒れていくみたい!」
「ティエル、ハンカチでも何でもいいから鼻と口を抑えるんだ。早く!」
「う、うん、分かった。……もしかして、これって毒ガス? 倒れた人達はみんな死んじゃったの……?」

「大丈夫よ。意識を失っているだけで、死んではいないようですわ」
「みんな眠ってるだけなの? 会場にガスが充満する前に早く逃げないと」
「ええ、そうですわね。ジェムを目の前にして逃げるのは悔しいですけど、この場合は仕方がありませんわね」

リアンが振り返ると、出入口付近では観客達が殺到しているようだ。だが、重い鉄の扉は開く兆しが見えない。
そこへ、力尽くで扉を開けることを諦めたクウォーツがティエル達の元へと駆け寄ってきた。


「クウォーツ!」
「完全に閉じ込められた。……他の出口を探した方がいい」
「でも、他の出口って」
「会場を警備していたあれほど多くの黒服達の姿が見えない。奴らは恐らく別の出口を使ったはずだ」


そんなやり取りを続けている間にも紫色の煙は会場に充満しつつあった。これは強力な催眠ガスだ。
既に会場内では立っている者達の方が少なくなってきているようだ。一体何のために、そして誰がこんなことを。
朦朧とした意識の中、ティエルは鼻と口を押さえながら出口を求めてふらふらと薄暗い会場を彷徨い続けていた。

メインとなる出入口は完全に封鎖され、扉の前では観客達が倒れている。意識を保ち続けるのも既に限界だった。
がっくりと膝を突いたティエルの側では、リアン、そしてジハードが力尽きたように次々と倒れていく。

(もう駄目……これ以上は歩け……ない……)


床に倒れ込む寸前に、ティエルの瞳に周囲の様子が映った。会場内に立っている者は一人もいない。
あれほど阿鼻叫喚の場だったのが嘘のように静寂に包まれている。まるで全てが死に絶えてしまったかのように。
探していたジェムがせっかく目の前にあるのに。ティエルは悔しさのあまり思わず唇を噛み締める。

「畜生……」

小さなクウォーツの呟きが聞こえた。己の腿に妖刀幻夢を突き立てて痛みで意識を保とうとしたのだろう。
しかし全く身体に力が入らないのか、彼の手から離れた妖刀幻夢が乾いた音を立てながらからんと床に転がった。
その光景を最後に、ティエルの意識は闇へと落ちていったのだった。







暫しの時が過ぎ。動く者のいなくなった会場内に、ガスマスクを身に着けた黒服の男達が次々と足を踏み入れる。
ぐるりと辺りを見渡し、倒れているティエル達の姿を発見すると数名がそちらへ歩み寄っていった。
黒騎士から預かった写真を懐から取り出すと、顎を掴んでそれぞれの顔を確認する。どうやら間違いないようだ。

「確かにこの者達だな」
「ああ、早速地下牢まで運ぼう。黒騎士達も随分とお待ちだろうよ」
「しかし……こんな若造どもを捕らえるために、少々大掛かりすぎないか? 一体なにをやらかしたんだか」

「余計な詮索はしない方がいい。オレ達はサバス様の命令をただ黙って遂行するだけだ」
「よし。他の観客達の目が覚めたら、指名手配犯を捕らえるために仕方がなかったと言い訳しておけ。いいな」

「はっ、了解いたしました」







「サバス様、例の囚人どもを地下牢に運び込みました」
「囚人は五名と聞いておりましたが……どうやら別行動をしているようで、捕らえることができたのは四名です」
「おお、そうかそうか。よくやったぞお前達。四名も捕らえたのだ。黒騎士殿も満足するだろう」

自室で寛いでいたサバスは、部下の報告を聞いて満足したように口元を歪める。
黒騎士の出した条件は『できる限り傷付けずに囚人達を捕らえること』であった。失敗は決して許されなかった。
前金として悪魔族の死体を受け取っている上に、成功すれば三千万リンの謝礼を黒騎士から受け取る予定なのだ。

……それにしても。黒騎士達がそこまでして追い続けている囚人達とは、一体どのような者達なのだろうか。
興味がないと言えば嘘になる。首を突っ込まない方が身のためだとは重々承知しているが、一目見るだけでいい。

囚人達が運び込まれた地下牢に向けて、サバスはソファーから立ち上がるとゆっくりと歩き始めたのだった。





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